|
||||
コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」 |
手をたずさえて農地を生かそう(中)
―集落営農と門徒を考える― |
||
1969年の1月、今から38年前のことであるが、大雪の中を富山県福野町上川崎の酒谷実さんのお宅を訪ねたことがある。ある新聞の小さな記事で水田の請負いで規模拡大をしていることを知ったからである。当時は堀田さんと共同で「ホリサカ農産」という名称であったが、「研究者の方で初めて訪ねてくれた」と客間にあげられ、一晩お世話になったことがある。稲作の規模拡大の展望、地域農業と農民の実情、農地制度の矛盾等々、広範なお話を胸を開いて話して頂いた。
「私は熱心な浄土真宗の信者ですので、水田を持て余し困っている方々を助けることが同時に規模拡大につながるのです」と立派な仏壇を前にまず基本的な態度から話された。その上で、「私が水田を借りる相手は『長』と肩書きのつく方々からまず借りています。例えば、町長、社長、部長という人たちからまず借ります。そういう方々は立場上多忙であり水田に手が回らず奥さん方が苦労しています。そのうえ、社会的に地位のたしかな方々から借りれば小作料はどうのこうのと面倒なことは言いません。そのうえ、そういう人たちから借りられる酒谷もたいした人物だということになります。要するに信用が第一です」。こういうお話がいまでも私の頭の中に残っている。 お訪ねした当時は、まだ農用地利用増進法など無かった時代で、農地法による賃貸借には厳しい統制が行われており、農地の賃貸借は農地法上は違法行為、脱法行為とされていた時代であった。こういう状況の中で、土地所有者との間で事実上の賃貸借、つまり「請負耕作」という名称で全国各地に新しい動きが見られつつあったが、そのトップランナーの一人が酒谷さんであったのである。 なぜ農地法上の違法行為であるのに、土地所有者と酒谷さんの間で水田の貸し借りができ規模拡大ができたかといえば、私は門徒としての共通潜在意識がその底流にあったのではないかと考えている。農地賃借の証文も見せてもらったが、それはもし裁判になったとしたら何の役にも立たない証文であるばかりか、あるいは却って農地法の違法行為として罰せられる性質のものであったと思う。小作料の大部分は、現物つまり年末にお米で払うように書かれていた。これも当時は農地法違反であった。 さて、「ホリサカ農産」は私が訪ねてすぐあと「サカタニ農産」として改組、再出発し、日本有数の稲作を中心とした総合的大規模経営への基礎を作られ、全国稲作経営者会議の会長もされた。しかし、過労がたたったのであろう急逝され、そのあとを甥の奥村一則さんが継がれ、さらなる発展をされていることは衆知のことである(なお、サカタニ農産については本紙2005年10月31日付「1村1農場を推進しよう―(農)サカタニ農産に学ぶ―」を参照していただきたい)。 ◆理論家・実践家であった竹本平一さん 竹本平一さんは、石川県寺井町牛島(現能美市)で大規模稲作経営を実現していただけでなく、米作技術日本一賞、さらに天皇杯を受賞されるなど大変な理論家でもあった。また、米価審議会委員もつとめられていたが、私が委員になる前に退任されていたので米価審議会委員としての活動は存じあげていない。 ◆農地は子孫からの預かりもの―農地を子孫に生かす― さて、東畑四郎さんの特命による事実上の農地賃貸借の実態に関する調査は精力的に行った。その調査結果は膨大になるのでここでは省略せざるをえない(詳しく知りたい方は今村奈良臣著作選集(上)『農業構造改革の展開論理』、農文協、2003年10月、134頁〜224頁を参照)。調査結果の要点を整理しておこう。
|
||
(2007.12.19) |
特集企画 | 検証・時の話題 | 論説 | ニュース | アグリビジネス情報 | 新製品情報 | man・人・woman |
催しもの 人事速報 | 訃報 | シリーズ | コメ関連情報 | 農薬関連情報 | この人と語る21世紀のアグリビジネス | コラム | 田園交響楽 | 書評 |
||
社団法人 農協協会 | ||
|