平成14年の無登録農薬問題やBSEの発生、はては食品の偽表示問題など、食品の信頼を揺るがす事件が相次いだのは記憶に新しい。いずれも、BSEを除けば法律違反が問題だったわけだが、その後、食の安全を確保するための法令遵守を厳しく問われる世相となり、その守るべき法律の是非はともかくとして、世間における法律遵守の機運は確実に高まったのではないかと、トンボは思っている。
そんな中、行政では、食品の安全性を確保し、失われた食品への信頼度を高めることを目的として、食品衛生法を改正し、残留農薬に関する規制をいよいよ強化する。そう、本年5月29日に施行される残留農薬のポジティブリスト制度のことである。この制度は、横文字で表現されていて、名前を聞いただけでは何の制度であるかさっぱり検討がつかない。ただ、日本語で表現しようとしてもなかなか良い表現が見当たらないため、制度を浸透させようとしている関係者は大変苦労しているようである。
このポジティブリスト制度とは、あらゆる食品に使用される、農薬をはじめとしたすべての化学物質に対して何らかの基準値を設ける制度であり、この基準を超えて農薬などが残留した食品は、食品衛生法の規定に基づき、流通を禁止され、回収を命じられるという制度である。もちろん、これまでも基準を超えた場合は回収されていたし、時々新聞でも食品衛生法違反により回収されたって記事が登場していた。
はて、今までと何が変わったのだろうか。それに対する答えはすぐに見つかった。つまり、こういうことだ。今までの食品衛生法の制度は、「この薬はこれ以上残留しちゃだめ!」ということを決めていたため、「だめ」と名指しされていない限り、仮にどんなに残留していたとしても「お咎めなし」というものだった。つまり、法律で定められたリストに載っていない薬は、規制の対象外であったのだ。このため、「だめ!」を規定する制度なので、今までの制度をネガティブ(否定)リスト制度というのだそうだ。
それに対し、ポジティブリスト制度は、このような抜け道をなくすため、すべての農薬等の物質に対して「何らかの基準」を設け、すべてを規制の対象にするものである。このため、これまでの制度では「基準が定められていないから平気だもん」と罪をまぬがれたやつも、新制度のもとではもう言い逃れはできないのである。
こう書くと、悪いやつを一網打尽にする正義の味方のような感じがするが、物事はそう簡単にいかないのが世の常で、いい面もあれば実態に合わない一面もあるのである。農薬の残留基準は、いくつもの毒性試験や作物残留試験結果をもとに、人間が一生涯食べつづけても影響が出ない量にさらに安全を見込んで定められている。またこれは、農薬と作物の組み合わせごとに決められるため、試験は、農薬の使用場面にあった組み合わせが優先されて実施される。
ところが、世の中の作物と農薬の組み合わせは、実にたくさんあるので、全ての組み合わせで試験を実施することは実際のところ不可能である。そのため、試験データや参考となる基準がない組み合わせについては、人の健康に害を及ぼさない量として厳しい「一律基準0.01ppm」が設定されることになる。そうすることで、今までの「基準がない」という無法地帯であった部分を改めているのである。この一律基準が、何で厳しいといわれるのかについては、次回紹介することとする。(田畑とんぼ)
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