前回、ポジティブリスト制度では、試験データや参考となる基準がない組み合わせについては、「人の健康に害を及ぼさない量として」厳しい「一律基準0.01ppm」が設定されると紹介した。この一律基準は、EUなどのポジティブリスト先進国で採用されていることや、「これだけ低ければ、とりあえず人の健康に害をおよぼすことはないであろう」ということから設定されたと聞いている。何も実証データがない中で基準を決めるのだから、ここまでなら大丈夫という量を定めるのは大変難儀だったことだろうと思う。
しかし、問題なのが「人の健康に害を及ぼさない量として定められた一律基準0.01ppm」を、世の中の農薬が0.01ppmの残留量を超えると何らかの影響が出るのではないかと誤解している人がいることである。決してそうではないことを皆が理解してほしいとトンボは考えている。
この一律基準は、残留基準を決めるデータが何もない場合に設定される基準であって、きちんとした手順に沿い、作物残留試験など多くのデータを積み上げることによって定められた残留基準とは根本的に異なるということである。
では本題に移ろう。この一律基準がなぜ「厳しい」といわれているかについて考えてみよう。まず、0.01ppmという数字を言われてもピンと来る人は少ないのではないかと思う。新聞やテレビでは何か問題があったときに、基準は○○ppmだの、△△ppm検出されただのと報道されるので、幾度となく耳にする単位ではある。けれども、多くの人は「ふうん。検出されたからいけないんだ」と思うのが関の山ではないか?
ppmとは100万分率といって、%と同じ比率を示す単位だ。1%を小数に直すと0.01になるように、1ppmを小数に直すと0.000001になる。つまり、一律基準の0.01ppmは、100万÷100=1億となり、1億分の1という極小な数値である。
1億という数字が庶民にはピンとこないので、お金で考えてみよう。1円1枚は1gなので、1億枚は1億g=10万kg=100トンとなり、100トン(10トントラック10台分)の1円玉の中のたったの1枚に相当するのが0.01pmとなる。これほどさように0.01ppmは小さな数字である。
ではなぜ、0.01ppmが一律基準として定められると厳しいといわれるのだろうか。
農薬の散布濃度は、農薬によってずいぶん異なるが、仮に有効成分20%の農薬を1000倍希釈で散布したとしよう。その時の散布液の農薬濃度は200ppmとなる。この農薬が風にのって隣の違う作物に飛散した場合、かかってしまった部位の濃度が一律基準の0.01ppmを超えてしまう可能性がある。もしこの時、散布した農薬が隣の作物に農薬登録が無く一律基準が採用されているものであれば、ただちに食品衛生法違反となってしまう。農薬は、その性質によって適用作物が限られている場合が多く、残留基準もその適用作物を中心に設定されていることが多いため、通常の残留基準が定められずに一律基準が採用される場合が多くなる。
欧米とは異なり、日本の農業現場では狭い耕土の中で多種類の作物を栽培していることが多いので、今使っている農薬が隣の作物に対して一律基準が設定されているといったケースが多いと考えられる。つまり、安全性の高い農薬を使用基準を守って正しく使ったとしても、はからずも一律基準を超えてしまう可能性が多く想定されるので、「厳しい基準」といわれているのである。(この項つづく)(田畑とんぼ)
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