中山間地域等直接支払制度の目的は、農業生産活動等を通して多面的機能の維持・増進をはかるというもの。
ここで大切なことは「等」であって、「農業生産活動」は飾り文句である、ということ。県や町は意識的に、この「等」をはずして「5年間農業生産を継続すること」と説明するから、そんな条件なら参加しない、という農家が出てくることになる。
急傾斜地に10アール当り2万1000円支払われるが、このカネは平場と比較した生産条件不利相当分であって、平場との生産条件を同程度にしただけのことである。平場でさえ耕作放棄が進んでいるのに、中山間地だけ約40%減反した上に「5年間農業生産をやれ」と言われても、土台無理な話である。
さらに、この2万1000円は3メートル〜8メートルもある畦畔と田面を年2回草刈りする経費とぴったり一致する。つまり、この制度は農業生産をやってもよいが、年2回草刈りをして農地を保全して下さい、農地を保全するだけで多面的機能は維持できます、という制度である。
岩手県は洪水防止等の公益的機能を約2500億円とカネに換算した。これと同じ方法で計算すると、東和町で年間50億円になる。
一方、東和町の直接支払制度の予算は2億ナンボである。この予算規模でできることは、農地の保全だけでしょう。
農業生産活動はせめて机上の計算の10%、5億円の予算になってからでよい、と考える。
新聞によると、この制度の参加率は70%(12年度)。30%の集落は参加しなかった。参加しなかった集落の農地は、山に戻ってしまう。
「5年間の農業生産活動をすること」と「等」をはずして説明するから、中山間地の約30%の農地が、山に戻ってしまう。
70%の集落が参加したといっても、農家個人単位でみると大きく異なってくる。
私の集落では、50%参加する、30%が参加する必要なし、である。このように意見が分かれると、30%の人達は妥協して、集落としては参加することになる。
仮に全国の集落の平均値が私の集落と同じだとすると、70%の集落が参加したといっても、70%×0.5=35%の参加希望者に、どちらでもよい人20%を加えて約50%の農家が参加希望者である。
つまり、農家の約半数が「右」を選べば70%の集落が「右」を選んだことになる。これが集落のマジックである。
この集落のマジックを行政もJAもさんざん利用してきた。が、反面、この制度によって集落が変わる、と思う。(岩手県東和町・渡辺矩夫)