◆農協共販とは何か?
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森口俊氏 |
青果物販売における農協共販とはどう定義づければいいのか、実践を踏まえて再確認しておきたい。
それは
(1)事前に話し合った生産方針・計画に基づき
(2)農家組合員が生産した青果物を農協集荷施設に集約してとりまとめ、
(3)自ら定めた企画基準により製品化を図り
(4)輸送単位にまとめてあらかじめ契約した取引先に計画的に配送する、ことだろう。
そして
(5)的確な販売交渉を踏まえて最大の販売効果を挙げるとともに
(6)その販売代金を確実に期日内に回収し
(7)個々の組合員に販売代金を速やかに精算する。
さらに
(8)販売終了後は、組合員全員参加で生産販売結果を総括し
(9)次の生産出荷の方針や計画策定に反映させる。
今の農協共販の流れはこうまとめることができるだろうし、これはPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルで動いている取り組みだと思う。
ただ、卸売市場法の改正にともなって取引形態がまったく変わることから、ここで整理した
(1)から
(9)までのどこをどう強化するのか、あるいはどう進化させるのかが大事になってくるとみている。
◆卸売市場との関係を検証
そのためにまず従来の卸売市場と農協共販の関係を振り返っておく必要がある。
それは、一言でいえば持ちつ持たれつの心地よい関係が続いてきたといえる。
卸の立場からすれば農協共販がバックアップする確実な集荷は、できるだけ経費をかけずに大量の商品を集めることに役立った。一方、農協にすれば出荷先を一つにまとめることでコストダウンできるし大量の商品を持っていることから卸に対しては高値販売を要求するパワーを発揮することができた。高値で販売できれば農協にとってはさらに共販への結集が図れた。
委託販売にのっとった競り取引は農協にとってはそれほど責任を取る必要のない販売方法だった。卸にとっても、なぜこうも安値なのかと農協から言われることもあるだろうが、いわゆる自己の計算で販売をする場合と異なって天候や在庫などの理由にすることもできた。
また、農協は強烈な権限である「分荷権」という特権を持っており、同時にその裏返しとして卸売会社は指定制度という名のもとに産地から販売代理店としてのお墨付きを得ることもできた。指定を受ければ基本的には出荷をしてもらえるという関係である。
委託手数料主義のため努力しなくても手数料は決まっていた。どんなに販売環境が悪くても必ず手数料は保証されていた。もちろん7%、8.5%の手数料では今や経営が成り立たないという指摘も分かるが、世間全体を見ればはじめから手数料が保証されている業界はない。
その一方、産地にとっては出荷奨励金というのはきわめてありがたいバックペイであり、そのほか代金回収を保証してくれている完納奨励金も産地にとっては大きなメリットだった。
このように従来の卸売市場と農協共販は手を携えた蜜月関係にあったといえるだろう。しかし、法律が改正されてこうした関係はおそらく完全に破たんするだろうとみている。
◆卸売市場は選択肢のひとつに
今回の改正の趣旨を一言でいえば、青果物は特殊ではなく一般の商品に限りなく近づくということ。制度に守られていたコメは今や青果物以上に自由商品になった。同じ経過を青果物も必ずたどると見ていい。
逆にいえば、卸売市場とは重要な売り場ではあるけれども選択肢のひとつになったに過ぎないという捉えた方もできると思う。したがって、広く販路を求める、多様な販売形態をとることが必要になる。
その場合、従来の強権的な分荷権は決して通用しない。まさに商談、営業、契約の世界になる。
手数料の自由化問題では出荷奨励金はどうなるかがあるが、売買のなかでリベートとしては存在しても出荷奨励金そのものとしては風前の灯火になるだろうし完納奨励金も、縮小あるいはなくなることも考えると、代金回収、債権確保が産地にとってかなり重要になってくる。
こうした変化のなかで農協は法改正に見合う新しい販売ビジョンや確固たる販売方針と権限の明確化が早急に必要になる。
販売ビジョンの構築とは農協が本当に主体性を発揮すること。販売方針に必要なのは自分たちの売り場をきちんと確保するんだという強い信念だ。
青果物については県段階、全国段階の機能はきわめてわずか。青果物販売については農協が主役にならなければならないことを強調しておきたい。
この際、独占禁止法をしっかり勉強する必要もある。独禁法の精神は自由取引の確保だが、農協の共販は例外として独禁法は適用しないことになっている。しかし、これは何をやってもいいということではない。たとえば部会に入っていない農家に差別な待遇をすることは独禁法違反になる。
そういう意味では、組合員の心をひとつにしないと農協共販は成り立たないという時代だといえる。組合員の自主性を重んじ自由判断を求めつつ結集を図る、というきわめて難しい場面に立たされている。
◆新しい共販機能の開発を
農協共販がこれからめざすべき方向についていくつかの切り口を示したい。一言でいえば、これまで意識してこなかった機能で、しかも組合員個々では無理であり効率の悪いこと、コストのかかることなどを考えるべきだろうということになる。
その背景には法改正を受けて、提案型の青果物販売、プレゼンテーションができる産地、実需者ときちんと接点を持てる産地になることが求められているということがある。
ひとつは販売権限の明確化だろう。誰がいつどのくらい、どの範囲の価格で販売するのかの販売権限を誰に委譲するのか、である。
事前受注を前提にした出荷商品の需給調整と適時適量販売にも取り組みたい。明日1000ケース欲しいというニーズがあったときにはきちんと納入する、こういう産地にならなければいけないと思う。
売買契約の締結と信用限度管理や債権保全も課題。それは自らの契約で売る農協になるということであり、それにともなって信用限度管理が求められる。
安心・安全な商品供給は当然のことになり、生産履歴情報はいつでも開示できる体制が必要になる。同時に産地から事前に生産出荷の関連情報を提供することも大切。携帯電話を使って栽培状況を写真で送るだけも卸にとってはありがたい。
消費者の意向を反映した商品開発も重要になる。サイズにしても1パックあたりの量にしても、消費者の求めているものとズレていないかどうかよく考える必要がある。消費地での販促活動も重要だが、都心で無料配布するような宣伝で効果があるのか。たとえば、店頭に組合員がやってきてお客さんと対話して販売し生の声を聞くということが大事ではないか。
中外食・加工など多様な販売チャネルへの対応も急がれる。この分野についてはたぶん輸入品には勝てないだろうと最初から逃げているのではないか。しかし、本当に実需者と話合ったのか。実需者との接点がないから取り組みが進んでいないのではないか。
さらに全体的な共販の観点からは、みんなが手を携えて国産青果物優位キャンペーンができないかと思う。産地だけでなく卸、仲卸も賛同してくれるだろうし国の支援も取り付けることができるかもしれない。
こうした機能を実現するためにはやはり組合員と農協が事前にきちんと話し合い、かかるコストとその分担方法についても合意しておくことが前提になる。農協共販は農協があくまで主役であって、そのなかでも原点は品目別部会ではないかと考えている。
品目別部会の組織化、活性化も農協にとっては課題となるのではないか。