農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会

2007年度第2回 課題別研究会
「構造改革の『到達点』」と
JA出資農業生産法人の課題」をテーマに議論
東京大学大学院教授 谷口信和氏
(財)日本農業研究所研究員 李侖美氏

司会:横浜国立大学大学院 田代洋一教授


 研究者やJA関係者らでつくる「農業協同組合研究会」は12月15日「農業構造改革の『到達点』とJA出資農業生産法人の課題」をテーマに今年度第2回の研究会を開いた。会場の東京・日本橋公会堂には全国からJAと県中央会の役職員、研究者ら約70人が集まり、若い人たちの参加も目立った。東京大学大学院の谷口信和教授が「品目横断的経営安定対策を通じた農業構造改革の到達点と今後の課題」、また(財)日本農業研究所の李侖美研究員が「JA出資農業生産法人の多様な類型と今後の課題」と題して報告。これをもとに熱っぽい議論が展開され、論点は農地制度改革などにも及んだ。

研究会

「品目横断的経営安定対策を通じた農業構造改革の到達点と今後の課題」
東京大学大学院教授 谷口信和氏

谷口先生

 集落営農が極めて大きな役割を果たしながら農業構造改革が進んでいる。その実態の正確な認識を踏まえてJAとしてはどうするかをJA出資農業生産法人を見ながら考えたい。
 構造改革の到達点について農水省が立てた品目横断的経営安定対策の初年度「目標」は担い手による面積カバー率で達成された。
 担い手育成では認定農業者の伸びが目標を超えた。集落営農組織は目標に達していないが、伸び率では激増した。しかし品目横断統計の認定農業者には集落営農であることが多い特定農業法人が含まれていて、目標達成の評価が明確でないという問題がある。
 また集落営農組織の実態も正確に把握されていないが、組織数は5975となっており、現在設立されている集落営農のうち、将来の法人化を予定できるような組織はほぼすべて第1年度で品目横断的対策に加入してしまったことになる。
 これは第2年度以降の継続的な設立と加入が決して容易ではないことを示唆している。
 また集落営農組織における法人化の熟度割合から見ると法人化への道のりは遠い。
 面積カバー率の地域差は鋭い。有力な農業県でありながらカバー率20%未満が5県あることなど地域差の背景は複雑だ。品目横断対策では地域農業の構造再編は実現困難といえる。
 コメだけでなく、また転作作物だけでもない水田農業全体の構造改革として取り組んだ諸県で構造改革が進展している。
 構造再編のあり方は地域的条件に規定されており、認定農業者を中心とした個別前進か、集落営農かという形で進んでいるわけではなく、地域の取り組み方に大きく依存している可能性が高い。
 品目横断的対策の「修正」をめぐっては、加入した集落営農には多くのタイプが存在しており、性急な法人化要求は「角を矯めて牛を殺す」ことになりかねないという現実をみなければならない。

「JA出資農業生産法人の多様な類型と今後の課題」
(財)日本農業研究所研究員 李侖美氏

李侖美

 JA出資農業生産法人を(1)個別農業経営的(農業経営中心)(2)農作業受託会社的(3)JA現業部門会社的(事業中心)(4)集落経営体的(出資者多数、特定地域で事業)(5)総合農企業的(多様な事業の兼営が特徴)(6)品目横断的経営安定対策対応型(補助金の受け皿機能が第一義的要求)の6類型に分類してみた。
 (6)には家族経営支援型と集落営農育成型がある。
 JA出資法人は05年から急増し、現在224。多い県は長野(16)、宮崎(同)など。1JA複数法人も増えた。
 出資金規模は300〜500万円が多い。
 品目横断対応型法人はすべて750万円未満で、設立に当たって機械や施設を買わずにJAからリースしたり、集落営農のものを使うことにより、初期投資を最小化している。
 JA現業部門会社的法人へのJA出資割合は90%以上が大部分でJAの子会社的性格が強い。
 JA出資法人を育成しているJA宮崎中央会の取り組みを見ると、どの法人も新規就農者研修事業を重視しているのが特徴だ。
 またJA現業部門会社的法人が多い。JAの育苗センター、ライスセンター、ビニールハウスなどの施設を法人に移管しているが、JAの赤字事業を移した(リストラ)のではなく、法人の収入源を確保するための移管だ。
 全国的に、6類型それぞれに今後の課題がいくつかあるが、品目横断対応型法人については補助金の受け皿組織的な性格からの脱却を図る必要があることなどが挙げられる 。

耕作放棄地や法人タイプも論点に

田代洋一教授
田代洋一教授
 農協研究会の梶井功会長(東京農工大学名誉教授)はあいさつの中で「構造改革論者の中には、零細農家が農業をやめるような政策が必要だという人も出てきた。構造改革は農協の組合員を減らすことにもなりかねない問題もはらんでいる」と指摘し、討論に期待した。研究会は横浜国立大学大学院の田代洋一教授の司会で進められた。
 谷口教授と李研究員の報告のあと、会場からは「品目横断対策の対象は5品目に限られ、北海道と北部九州だけを対象にしたゲタ対策といってもよいくらいの、とんでもない地域選別だ。そうした中で、農地法があるから構造改革が進まないという元農水事務次官もいる状況を重視すべきだ」と農地問題について報告の補足を要望する意見が出た。
 谷口教授は「財界などの農地制度改革論に対する農業側の反論には、耕作放棄地の拡大という大きな弱点がある」とし、先進JAが最初にJA出資農業生産法人の設立を試みたのは耕作放棄地の増大に直面したからであり、それは1990年代初頭の農業経営基盤強化法施行や「新政策」以前のことであるなどと説明した。
 一方、担い手による面積カバー率の意味は何か、食料自給率からすれば麦や大豆の生産が増えたのかどうかということのほうに意味があるのではないか、集積が進んでも収益性が下がる県があるのは問題だ、などの意見も出た。
 出資法人の収益性については▽育苗とか機械のリースなどの事業が必要だ▽もうけようと思えば、やはり規模だ。40ha以上は必要だ▽いや、そうは思わない。多角化とか直売所などの地産地消、また公益的機能の導入などのやり方がある、といった討論があった。
 米価の低落は品目横断対策のせいだという批判をめぐっては「そういう説は議論を混乱させる」という意見と「諸悪の根源は品目横断対策にある。政策の対象から外れた農家は、自由にコメを作ろうという気になった」という意見もあった。
 また、「一律的な国の政策に従うのではなく地域の農業構造全体を把握して耕畜連携の循環型農業を展開している」との紹介もあった。
 報告は品目横断的対策対応型のJA出資法人には2つのタイプがあるとしたが、滋賀県のJAグリーン近江は、それらとは別にコメ政策もしくは生産調整に対応するタイプの特定農業団体などの集落営農組織をつくって、いろいろな補助金の受け皿にしていると実情を語った。
 いくつかのJAの発言では、類型分類の報告にあるように集落営農に対して出資するなど様々なタイプの出資法人があるとの実態が紹介された。谷口教授はリストラ型もあるという。JAの赤字事業を法人に移管して効率化を図るものだ。
 全農との関係でコメを直接販売していないJAでは出資法人をつくって直接販売の実験をしてほしいという組合員の要望もあるという。法人にはそういった役割もあるわけだ。
 JAいわて花巻の場合は集落営農を育て、すぐにでも法人化できるように経理だけはきちんとやり、段階を踏んで法人化していくと話す。
 栃木ではJA出資に対する組合員の抵抗感のようなものがあるという。
研究会2
田代教授は「JAはカネも出せば口も出す、農業生産資材も買ってくれというからいやがられる面がある。そこを何とかうまくやって地域農業を支えるのはJAだという理解を得ていく必要がある」と助言した。
 今回の研究会には農薬メーカー大手2社の幹部も参加した。2氏は「農業構造の変化とJAの実態がどうなっているのかを基本的にしっかりと勉強して、どうすれば日本農業の発展に貢献できるかを考えようと思って参加した」と語った。
(2007.12.27)


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