農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会 第7回シンポジウ「水田農業の確立と農協の課題」

自給率向上を見据えた一貫性ある政策構築を
農協研究会がシンポジウム開催


第7回シンポジウム
  農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は4月26日、第7回シンポジウム「水田農業の確立と農協の課題」を東京・文京区の東大弥生講堂で開いた。生産者、JA関係者と研究者ら約120人が集まった。
  米の消費減退と生産過剰による米価下落が生産者とJAに打撃を与え、20年産での生産調整目標の確実な達成が再重要課題となっているが、一方では世界的に穀物需給がひっ迫、「食料争奪」の時代ともいえる状況のなか、真に自給率向上を実現するため日本の水田農業をどう維持・発展させるか、抜本的な検討が迫られている。シンポジウムでは、国民の食料確保のための水田農業をどう確立するか、現場からの報告をふまえて議論した。

食料争奪激化時代に問うべき日本の水田の意義
今こそ求められる国民のための食料・農業政策

◆全員参加による農業改革の視点を

司会者 梶井功氏
司会者
梶井功氏

 7月の洞爺湖サミットで「食料危機」がテーマとなる見込みになってきたことが報じられるなか、シンポジウムの開催にあたって梶井会長は、これが英国など日本よりも自給率の高い国々から提起されたことを「自給率39%の日本こそ真っ先に食料問題を(議題とするよう)言い出すべきではなかったか」と強調した。また、現在の世界の穀物在庫水準は70年代初頭と同水準にあるといわれるが、日本の穀物自給率は当時は40%台、「今は当時よりもはるかに下がって27%。もっと危機感を持たなければならないはず」と指摘した。 そのうえで議論のテーマである生産調整政策について昨年末の政策見直しで「自給率向上政策の一環として実施するとその位置づけを変えたが、実際の施策をそう評価できるか」として、現場の取り組み報告を受けながら、政策を本物にするには何が必要かを議論したいとあいさつした。
  報告では東北大の工藤昭彦教授が、農地政策改革の問題点を現地調査事例に基づいて話した。工藤教授は農政の目標は食料自給率向上にあることが明確になるよう一貫した施策体系が必要だとして、そのための農地の面的集積などの方向性を提言した。基本は集落、地域で知恵を出し合う全員参加型の改革であるべきで、各地の取り組みを見ても、企業参入など外部からの担い手育成ではなく、地元密着型の内発的担い手形成こそが有効だとした。
  そのためは現行の農地保有合理化事業の再編・強化の視点で論議を進めるべきだとし、地域の人を束ねているJAにとって農地集積と担い手形成は「得意技のはず」と期待した。
  そのほかJA庄内みどりの阿部茂昭組合長とJA佐賀県中央会の中野實会長が現場報告をした。阿部組合長は組合員の負託を受けた米の販売戦略の展開と、急速に注目を集めている飼料用米生産の実態と課題を話し、中野会長は20年産の生産調整で唯一、県間調整による転作拡大に踏み出した背景とJAへの結集力を高める課題などを指摘した。

◆給率向上策と水田農業の位置づけ

 報告を受けたディスカッションでは、「世界的な食料不足とWTO規制」、「米価の下落と生産調整政策の問題点」、「飼料用米を含めた水田での農業生産のあり方」などをキーワードとした意見交換が行われた。
  生産現場からは、「生産調整の拡大に組織として努力することに合意した。ところがアジアでは米不足が明確になってきた」、「食料争奪時代というのに生産調整を続けていいのか。半分近くを減反している日本の政策は世界から非難される」との指摘があった。
  そのうえで生産調整政策のあり方と有効性をめぐって意見が出された。「現行では生産調整目標を達成しても全体として過剰になれば米価は下落する」、「損得抜きで米づくりをして農地を守っているのは高齢者。(今の政策で)この人たちがいなくなったら水田を守れるのだろうか」。こうした現状から、飼料用米やエタノール米など非食用用途を開発し、一方で価格の下支え策を十分に整備するなど「水田農業のフル生産体制」に導くことこそが自給率向上を実現するのではないかとの議論になった。
  これらの意見に対してJA庄内みどりの阿部組合長も、これ以上の転作強化となると耕作放棄地が発生しかねないとして、現地で取り組みが進む飼料用米への継続的な支援を手厚くし、米の適地として生産継続が可能な施策が必要などと述べた。また、佐賀中央会の中野会長も現行施策のままで米づくりをすれば過剰から米価低落になるとして、「水田農業維持の前提となる整備すべき条件はあまりに多い」と指摘した。
  一方、東北大の工藤教授は「米だけでなく自給率全体をどう向上させていくかの観点が重要」だとし、そのなかで水田農業を位置づけ、地域条件に合わせて麦、大豆など何を作付ければいいか、「まさに生産者が自主的に判断できる環境条件を、現行の政策よりも充実、整備させることが大事。そうすれば米生産の県間調整を含め適地適作が進むのではないか」と指摘した。

◆WTO規制の見直しも必要

参加者の様子

 また、ディスカッションではWTO規制についての見直しも必要との意見が出た。サミットの場でも食料の輸出禁止措置見直しが議論される見通しもあるが、工藤教授は「輸入についての規制はできない。しかし、日本のような自給率の低い国は自給率が向上するまでの間、輸入調整が可能となるような対応も国内政策と合わせて検討すべきではないか」と指摘、また、米の備蓄政策も飼料用米などに回す棚上げ分や援助用備蓄など最近の課題に応える方式も提唱した。
  梶井会長も国際的な環境を考えると「ミニマム・アクセス米はただちに返上すべき。現行のWTO規制は見直すべきではないか。世界的な食糧不安のなかでの国民食糧安定供給は農政を超えた国政として課題と認識すべき」と強調した。
  ディスカッション全体を通じて、組合員・生産者の営農と生活を守るJAの役割が大切になっているとともに、食料自給率の向上と農業経営の安定に向け「農業団体がひとつになってきちんと国に対して政策提言をしていく」(中野会長)ことの重要性も強調された。
研究者・現場報告の要旨へ

(2008.4.30)


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