農業協同組合新聞 JACOM
   

研究発表 活動報告 会員広場 設立趣旨・規約・募集
     
農業協同組合研究会 第8回シンポジウム inJAひまわり(愛知県) 

報告
梶井功東京農工大学名誉教授(農業協同組合研究会会長)
柴田勝・JAひまわり代表理事組合長
藤谷築次(社)農業開発研修センター会長理事、京都大学名誉教授


食料自給力強化の一点に絞った施策構築を急げ
−当面の農政課題−
梶井功東京農工大学名誉教授(農業協同組合研究会会長)

◆事実誤認のJA批判

梶井功東京農工大学名誉教授(農業協同組合研究会会長)

 最初に山下一仁前農村振興局次長が「ウエッジ」誌に執筆した「農協との決別なしに農業は復興しない」の主な問題を指摘したい。無責任なJA批判を許すべきではないと思うからです。
  記事には「生産調整は米価維持のカルテル」とある。しかし、これが本格的に始まった昭和52年の水田利用再編対策実施に当って、当時の鈴木善幸農相は、生産調整は単なる米の減産を目的とする後向きの政策ではなく、自給率の低い作物振興をし総合的に自給率を高めるために行うものであり、だから長期政策として取組むのだと説明した。
  それを平成16年の米政策改革大綱以来、生産カルテルということにしてしまい、農業者・農業団体による自主的な取り組みということになったのだが、それではうまくいかないということで昨年末に見直され今年度からは、国、県、市町村といった行政の関与を強めることに変更された。国の政策にもどしたといっていい。にもかかわらず同記事では農業者による米価維持のためのカルテルであるといまだに言っている。
  また、「終戦後しばらく食管制度の米価がヤミ値よりも安いとき、米価引き上げのための食管制度廃止論が与党から出されたが、食管制度の供出団体であるJAは反対した」と農協陣営が反対したから与党提案がつぶれたように書いている。当時は米の輸入価格は国内価格の倍、それだけ米の供出価格は安かったのだが、貧乏人は麦を食えといった大蔵大臣池田勇人が、国際価格の米を安く消費者に供給するための財政負担は無駄、それを廃止し消費者負担で米価を上げればいいと主張したのだ。しかし、財政顧問の米国のドッジから、そんなことをすれば労働者の賃金を上げねばならん、それをすれば日本の資本主義再生は不可能ではないかと一喝されてやめたのが歴史的事実。農協が反対したからではない。
  問題にしたいのはこればかりではありませんが、少なくとも歴史的事実と違うことが記述されており、為にする嘘をいっているのは大問題だということを強調しておきたい。

◆揺るぎない政策づくりを

 6月のローマの国連食料サミット前後に政府は食料自給率を50%に引き上げるとし、農水省も工程表をつくると言っている。
  50%に自給率を引き上げると総理自身が言ったということは、裏を返せば45%を目標にした現行「基本計画」では駄目だということではないか。それなら省内で工程表を策定するという前に、それを正式に議論するため基本政策審議会の場に持ち出さなければならない。すぐにでも基本計画の改訂に向けて議論を始める。これがまともな農政だろう。
  今は食料自給率、食料自給力をいかに高めていくか、その一点に施策を絞って農政のあり方を考えるべきだ。
  そのためには将来とも日本の国民が日本の国土のなかで安心した生活ができるために、農地面積は最低限どれだけ確保しなければならないかを、まずはっきりさせる。そして普段から耕作をする農業者の方をどれだけ確保しなければならないか、そのためにはどういう経営形態でやっていくのか、といったことを詰めなくてはいけない。
  さらに日本でこれだけは確保していかなくてはならないという基軸作物は何かということを明確にし、その生産で生活ができるような所得保障政策をつける、といった自給力強化策の確立を急ぐ必要がある。
  急ぐ必要があるのは、WTO交渉が中断しているが、この間に政策方向を明確にして揺るぎのない体制をつくるべきだということだ。
  最近の日本政府のWTO交渉の姿勢をみていると初心を完全に忘れてしまっているのではないかと思うが、最初に交渉に臨む哲学を日本政府は示した。それは各国の農業の共存を求める、だった。
  しかもこれは日本国民の総意に基づくものだということを明確に書いていた。
  また、各国農業の共存を求めるには農産物貿易の自由主義に一定の制限を加えなくてはならないということまで書いていた。
  この主張は、世界的な食料危機がいわれ、各国の農業生産強化の必要を国連食糧サミットで確認しなければならなくなっている今日こそ特に重要性をもつ。胸を張って声を大にしていうべきだ。
  7月の閣僚会合でのインド、中国のいわば反乱は、やはり自分たちの食料安全保障に関わることだったからだ。
  インドの主張に100か国の途上国が賛同したというがみな輸入国。つまり、今のWTO交渉の進め方では食料安全保障にとって大変なことになるという危機感を持ったからだろう。
  WTO交渉に臨むためにも、いかにわれわれは食料自給力を強化していくのか、その姿勢を明確にしていくことが求められている。

わが農協のめざすビジョンと地域貢献
柴田勝・JAひまわり代表理事組合長

◆土づくり、人づくり

柴田勝・JAひまわり代表理事組合長

 JAひまわりは3つの理念を掲げている。(1)存在理念=くらしをみつめる、(2)経営理念=組合員の営農と生活に対して最大奉仕を目指す、(3)行動理念=協同の原点に立ち返り農業とそこに住む人のかけ橋になる、である。
  現在この理念に基づいたJA運営のテーマは「土づくり、人づくり」としている。農業の基本が土づくりであるようにJA運営の基本は時代環境に対応した組合員組織や職場風土を作ること、また、組織は人の集合体だからこそ、厳しい環境に対応しうる改革を実行するにも人づくりが大切ではないかと思っている。
  また、最近は「農協バカづくり」として協同組合とは何か、農協の役割は何か、地域協同組合とはどんなものかなど農協を探求しJAの将来に対して夢を語ることができる良い意味でのJAマニア、JAおたく的な職員も養成しようと、折りをみては若い職員と話し合う機会をつくっている。
  JAの地域貢献とは何か。私たちはJAの存在価値を高めるために地域社会を構成するさまざまな要素と継続的に関わっていく取り組みだと考えている。要素とは、地域の人々、地域の組織・産業、文化・スポーツ、地域の自然環境などだ。
  そのうえで地域貢献活動とは「元気な地域農業の持続支援を通じた地域貢献を第一に」と考えている。地域社会で農業が孤立してはJAの未来はない。
  そのため消費者との関係づくりでは、直売所の設置運営のほか、Aコープ店舗利用者懇談会で食の安全、食と健康をテーマにAコープ事業への理解と利用促進を図っているほか、地元生協と事業連携も行っている。
  地域産業との連携では、商工会議所と連携し、町おこしを目的に地元の寿司組合が作ったいなり寿司を直売所で販売をしている。また、商工会議所役員との懇談会、JA青年部、女性部との交流、会議所青年部へのJA職員派遣も行っている。そのほか地域農業の観光資源化のために観光協会との連携もある。
  行政等との連携では、市長、市会議員とJA役員との意見・情報交換会も開き地域農業振興についての意見・情報交換もしている。市主催の市民まつりへの参加や地元の陸上自衛隊豊川駐屯地との共催で夏の恒例イベントも開いている。

◆組合員拡大を積極化

 JAにはそもそも地域協同組合という特性があるとの認識から、准組合員加入拡大を積極的に進めている。
  ただ、そのなかで組合員の構成変化への対応遅れが課題となっている。准組合員比率が大きくなるなかでJA運営はそれを反映しているとは必ずしも言い難く、農業を含めた地域との関係強化、JA認知度向上をめざすために准組合員との接点をどう構築するかが今後の鍵のひとつではないかと考える。
  組合員数は平成2年の合併時には1万1000名だったが、現在(20年7月31日現在)2万1682名と大きく増えた。地域住民への組合員加入促進では平成10年度から事業利用者を中心に加入促進に取り組んできた。
  それに対応して生活文化活動も女性部主体から全組合員対象とし、また、19年度からは女性部も集落単位組織をやめて目的別活動組織へと移行した。
  女性正組合員比率の向上を目的に直売所の出荷会員の正組合員化も促進、さらにJA運営参画促進をめざして女性総代の比率向上のためブロック座談会を開き、総代619名のうち女性を96名選出することができた。比率にして15.5%となった。
  次代を担う子どもたちへのJAアピールも多角的に行っている。
  たとえば夏休み企画として小学4年生以上を対象にした東京ディズニーリゾートへの旅も実施。毎年参加者が増え20年度はバス20台で814人が参加しおおいに盛り上がった。各種スポーツ大会も開催している。食農教育では管内全小中学校給食への地元産米100%供給。「あいちのかおり」を年間3000俵供給している。親子ふれあいイベントや農業まつりを開催し、地域交流を深めている。
  JAの存在意義を高めるための地域との関係強化に王道はない。さまざまな人と組織との多角的な交流を通じて地域がJAに期待している役割を把握し組織と事業活性化の芽を出していかなければならない。そのためにはJAにありがちな内向き姿勢を改めて外部との精力的な交流機会を持つことをJAトップ層自らが実践していくことが求められるのではないか。

重要性を増すJAの地域活性化への取り組み
藤谷築次(社)農業開発研修センター会長理事、京都大学名誉教授

◆組織いじりの15年

藤谷築次(社)農業開発研修センター会長理事、京都大学名誉教授

 率直にいって、JAグループはこの15年ほどの間、組織いじりと他律的改革に明け暮れてきたと思う。
 1991年の第19回JA全国大会では広域合併の推進と系統組織2段階化への実現の取り組みが決議された。個々のJAはそれぞれ問題を抱えているが地域に個性があるようにJAの問題にも個性がある。しかし、そこは置いておいて、農水省がこう言うから、全中がこう考えるから、と全国一律に押しつけられた課題にJAは必死で取り組むことになった。
  03年の第23回大会では「組合員の負託に応える経済事業改革」をテーマに掲げたが、実際はJAの経営収支をつぐなうために組合員に少々不便をかけてもいいというかたちで支店統廃合など改革に突っ走ったのではないか。大会では「経済事業改革指針」を出したが、そこでは「営農・経済事業」と「生活その他事業」で収支の基本を変えた。
  これによって直接の利益を生まない生活指導員のコストを「生活その他事業」でみなければならなくなった。その結果、多くのJAは何をやったかといえば生活指導員のリストラだ。私は、生活指導員や女性部リーダーのみなさんから、私たちはそんなに意味のない活動をしてきたのか、という怒りの声を多く聞かされた。
  05年3月の農協法の改正では、全中がJAや連合会の組織・事業・経営の指導指針を決め、それに基づいて指導しなくてはいけないということを農協法のなかで位置づけた。全中がさまざまな指導をするのは当然だが、問題は農協法にうたったこと。これは指導指針の中身を農水省が全部チェックできるということで農水省の方針に合わないことはやってはいけないということになってしまったのではないか。このようにすべての改革がJAの主体的改革ではなく、他律的改革になってきている。

◆「JA綱領」が提起したこと

 本物のすばらしい農協があることは間違いないが多くの問題を抱えた農協が全国に広がりJA間の格差が著しく拡大してきている。
  本物のJAとは農協運動にまともに取り組んでいるJAだ。農協運動とは農協の目的、すなわち果たすべき役割を明確にし、その目的達成のために「組合員の協同運動を盛んにする」、これが農協運動をやっているJAかどうかの目安だ。
  大多数のJAは事業経営はしているが農協運動にはなっておらず、単なる事業経営体になってしまっていると感じる。
  このようなJA間格差拡大の要因は何か。3つ指摘できる。
  ひとつはJAとして農協運動の現代的役割、ミッションを明確に認識しているJAであるかどうか。2番めは現代的役割を果たそうとする役職員の意識と意欲が高いかどうか。そして3番めは役職員にやる気を起こさせる方向でリーダーシップを発揮できるトップ層が選出されているかどうか。3番めの要因が決定的だ。
  重要なのは農協運動の現代的役割についてだが、「JA綱領」を十分に理解することだ大切だ。
  「JA綱領」は平成9年の第21回JA全国大会で採択されたものだが、なぜこれを作らざるを得なかったか、理由を二つ指摘できる。
  ひとつは、食管法下では農協は食糧庁の米集荷代行業務をする機関だったこと。その食管法廃止にともなってJAは行政の補助機関としてはやっていけないという危機意識があった。
  もうひとつは、農協法第一条をめぐって続いてきた組織内の議論にあるとみている。第一条は農協は農業生産力の増進に貢献する組織、となっている。この点に着目し、これは農業面活動をまじめにやれということ、それが信用、共済に傾斜しているではないかとの批判が組織内部にもあった。
  これに対して、「JA綱領」の前文では農協は「農業と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たす」とされた。これは農協が明確に認識すべきミッションには2つあると提起したことになる。
  ひとつは農業に根ざした組織として地域農業の保全・振興に責任を持つということ。同時に地域社会に根ざした組織として住みよい地域づくりに農協が責任をもってあたるという2正面作戦を示したといえる。

◆問われるJAの企画力

 地域活性化とは地域住民が総じて求めている地域のあるべき姿を実現することだろう。
  そのための課題は多様化しており、地域経済の活性化、その基本となる基盤産業としての農業の保全・振興、環境の保全と美しい生活環境の実現、高齢者が支えられ安心して暮らせる地域づくり、子どもたちが元気に個性豊かに育つ地域づくりなどがある。それぞれの地域特性とJAの力量をふまえて考えていくべきだ。
  その際、JAの地域農業と地域社会への思いを地域住民に明確に力強く発信すること、これが第一の基本活動だ。それを出発点とし、地域農業の保全・振興が地域活性化の鍵であることを実践を通じて分からせること、農を生かした地域づくりへの取り組みを積極的に進める活動が大切になる。
  こうした活動をふまえて、地域住民の准組合員加入に積極的に取り組むことが第二の基本活動となり、さらに地域の諸機関、諸組織および地域住民を大きく巻き込むことも大切になる。
  そして最も問われるのがJAの企画力と事務局機能の発揮だということを強調したい。多くのJAにとってもっとも課題となるのがこの点だ。

(2008.9.12)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。