農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大学名誉教授)は12月16日、JA全農の米本博一常務を招きJAグループの米事業改革をテーマに課題別研究会を開催した。
米本常務は全農の使命は生産者手取りの最大化と生産者と消費者の懸け橋機能の発揮にあるとして、とくに手取り最大化に向けて販売対策費の廃止など「徹底した流通コスト削減の実現で競争力を生み出し、農家組合員の再結集と集荷率向上をめざす」ことなどを強調した。 |
|
米本博一JA全農常務
|
今年4月に発足した農業協同組合研究会はこれまでに農業、農協をめぐるテーマで2回のシンポジウムを開催しているが、同時に農協の事業に関わる個別の課題別研究会で議論を深めることにしていた。今回の研究会ではJAグループの米事業に大きな変革を迫ることになる全農の米穀事業改革を取り上げた。
課題別研究会の講演で米本常務が強調したのは、今回は、決して「秋田問題」への対応ではなく、「事業方式そのものに問題があったために起きた事件」との認識で改革を打ち出したということだった。
その象徴ともいえるのが、全国本部に統合しながらも各県の販売戦略の核としてその運用が任されていた米の共同計算の運営。とくに卸への実質的なリベートとなっていた販売対策費については廃止する方針を打ち出したが、その背景について「安売りのために流通コストが増えていくという無用の競争が行われていた。まさに生産者手取りの引き下げ合いになり、結局は集荷も低下していくという悪循環になっていた」と指摘した。
そのうえで販売について今後は「全農として一体となって情報を集め販売専任者が一枚岩で戦略を考えた販売へ転換する」ことを説明した。
産地銘柄での販売を基本としながらも、販売面ではこれまでのような各県本部ごとの対応ではなく「全農という一法人としての販売をめざす」ことを強調した。
参加者からは、需給調整が米事業改革の前提でJAグループ全体として取り組まなければならないのではないか、担い手対応を全農としてもどう進めるかが課題ではないかといった意見があった。いずれも今後の農政、農協改革にとって大きな課題だが、JAグループにとって柱の課題である全農の米穀事業改革への期待が寄せられた。
全農の使命を軸にした
事業方式の見直しが改革の核
−米本博一 全農常務の講演要旨−道
全農は昨年末に全農改革委員会を設置して今年始めから自ら改革するという姿勢で委員会に議論をお願いしていたが、その最中に秋田県本部で米の共同計算運営の不正問題が発覚した。したがって今回の改革は秋田問題をきっかけにしたものと思われるかもしれないが、あの事件は秋田に限定したことではなくわれわれの事業方式が時代に合わなくなっていることに問題があるという認識でこの改革を考えた。当初、全農内部にもあの問題は秋田問題だという意識があった。しかし、秋田県だけの問題ではなく事業方式そのものに課題があるということを私は強調してきた。
たとえば、販売対策費の支出について、財源となっている共同計算の預かり金は農家組合員から預かったものなのに、連合会が自らの販売対策料から支払うような感覚になっていたことこそ問題ではないかということだ。われわれは入札制度開始以来、少しでも高く米を売りたいと入札価格を維持しながら卸に買ってもらうように販売対策費を使ってきた。
しかし、計画流通制度がなくなり流通が自由化した今でも友好卸に販売対策費を使って販売してきている。実需者はすでに流通自由化によってどこからでも米を調達できるから、こういう形で卸にお願いしても最終的にはなかなか売れるものではない。そこで売れ残りを避けるためにさらに安売りするための販売対策費が要求されるという構図が生まれ、気がつくと流通コストは60kg3000円程度にもなっていた。
◆無用な競争は避け
これでは競争相手に生産者手取り価格では負けてしまう。しかもある県がこれだけ支払ったと聞くと別の県はさらに上乗せするという事態になって、同じグループなのに足の引っ張りをしていた。
農家手取りを少しでも多くというのが全農、連合会の本来の使命だが、それが一円でも高く価格を維持するという行動にいつのまにかすり替わっていたのだと思う。今後、担い手政策が導入されれば経営にシビアな担い手は流通コストに3000円もかかるようなJAグループに販売を委託するとは思えない。一挙に集荷率が落ち込むことすら考えられると思った。
流通自由化にともなってJA直売が増えたが、JA直売が増えるから米価が下がるということは一概には言えないだろう。むしろJA直売のほうが全農経由で販売するよりも手取りが増えるから増加しているとみるべき。つまり、販売対策費の増加など全農の事業方式のほうに問題があるからJA直売が増えるということまで認識しなければならないと私たちは思っている。
現に卸への販売対策費はその県の販売促進に使われているとは限らず、他県の値引き分に使われているというまさに無用な競争が起きているのが実態だった。
今後の米販売では、@銘柄が確認された種子により栽培されること、A生産基準にもとづき栽培され栽培履歴記帳が確認されること、B農産物検査を受検すること、の3つの要件を満たす「JA米」を核に販売戦略を考えているが、これまでのような事業方式では本物のJA米であっても安い品物が出回ることを自ら許すことになる。きちんとした価格で売れなければ本当の意味でのブランド戦略にはならない。こうしたことから今回、共同計算費用からの販売対策費支出の廃止を決めた。
◆つねに原点を確認する
運賃も市場実勢に応じて見直す。たとえば現在の東京・大阪着基準として地区別に40円単位で加減算する共同計算方式では産地から大消費地、東京への運賃は実勢価格よりも高くなり、その結果、東京では競争に負けることになってしまう。
これも含めて徹底して流通コストを削減し競争力をつけていきたい。流通コストは県によって異なるがその内訳をできれば県別にJAに示し、年産ごとに目標を決めて削減を実現していくことが大事だと思っている。共同計算運営の透明化によって生産者の不信感を払拭しなければならない。
一方、販売面では実需者のニーズを捉えた播種前や複数年での安定取引契約を量と価格も合わせて結ぶことを拡大していく。こうした事業方式での取扱量はJA米を中心に20年産で100万トンをめざしている。これまでの、とにかく集荷という姿勢から転換することが大事。同時に消費者に認知される精米販売の拡大も課題としている。
JAの直接販売については価格競争を招くことになれば生産者の手取り価格を引き下げることになるのでJAグループとしての連携が必要だ。また、連合会としては代金回収機能など補完機能を発揮して積極的に対応する。
また、JAを通じた担い手への対応強化も課題としている。販売先を確保した生産提案の取り組みを強化する。
これらを通じてJAグループを通じた販売のほうが手取りの最大化が実現することをめざし、運動論だけではなく機能での再結集を図り20年産でJAグループの取扱い集荷シェアとして65%を目標にした。事業改革が実現し農家組合員から理解が得られれば実現できると考えている。
今回の改革にあたって、全農の使命として「生産者手取りの最大化」と生産者が作って喜び、消費者が買って喜び、その間に入って感謝される取り組みをめざす「生産者と消費者の懸け橋機能の発揮」を明記した。これは何のための改革かに立ち戻る原点を確認したかったからだ。JAの経済事業が競争力をなくしているのはその補完機能を発揮すべき全農にも責任があるという視点で改革を実現していきたい。