農業協同組合新聞 JACOM
   

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市場主義強める社会
今こそ、協同組合の出番
農業協同組合研究会が第1回研究会を開く

 新しい農協像を確立するためJAグループ関係者や研究者らが4月に設立した「農業協同組合研究会」は9月3日、東京都内で第1回研究会を開催した。テーマは「現代農協批判論の意図するもの」。財界や政府審議会、さらには農水省からも総合農協への厳しい批判や「解体的改革」までが言われるようになっている。研究会ではこうした批判の問題点を指摘するとともに、農協の改革・発展のための課題を探った。研究会には約60人が参加。「農協批判以前に農政の検証と今後の日本農業像についての議論こそ重要」との指摘や「組合員の農協参加の強化が再生の課題」などの意見が出るなど活発な意見交換が行われた。

■実態をふまえた議論求める

 この日の報告者は前明治大学教授で同研究会理事の北出俊昭氏。報告では(独)産業経済研究所の山下一仁上席研究員の論文『農協の解体的改革を』(日本経済新聞 2005年6月7日付け)を中心に農協批判論の問題点と農協改革の課題などを話した。
 北出氏は農協設立の経過をふまえ政府が農政の推進機関として農協を位置づけた事実を指摘、山下論文が「農協が農政改革を阻んでいると批判しているが、問題の本当の根源は農政にある。これまでの農政への反省を欠いている」と強調した。
 また、郵政改革に象徴される「官から民へ」については「民と言っても国民、市民ではなく民間大企業のこと」と指摘し、「市場原理主義が強まるなかで不公平、格差拡大が生まれている。今こそ平等、連帯、他者への配慮といった価値を掲げる協同組合の出番ではないか」と呼びかけ、具体的に農協運動を再生、強化するためには「組合員の自発的な参加を促す基礎となる組合員組織の新たな視点からの活動強化の重要性」を強調した。

■農業政策こそ問われる課題

 講演終了後の参加者との意見交換では、山下論文の問題点として北出氏が指摘したように「政府の政策の誤りをすべて農協組織の責任であるかのような論調は問題」との声が多かった。また、「論文掲載紙に反論掲載を実現するなど、組織としてきちっとした反論ができていないのはJAグループとして問題だ」とのJA役員からの意見もあった。
 北出氏が提起した組合員が自発的に参加する組織強化については、現在、生産現場で課題となっている集落営農組織に関連させて、今後の農政の方向を問題とした意見も多かった。
 「担い手の議論のなかで集落営農組織が決め手のように議論されているが、実際には集落の人間だけでは農業ができなくなっている現実もある。農家が減って他の集落の人に任せなければならず農業用水などの資源をどう管理するかが深刻」との意見や「集落営農を担い手として認めるといっても農水省は法人化が要件だという。なぜ、法人化しなければならないのか」との指摘もあった。こうした意見については「法人化を担い手要件とすること自体、担い手限定政策の現れ。集落営農を発展させるためではないことは明らか」との意見がある一方、「水田農業にはすでに選別すべき担い手がいないのが現状ではないか。担い手を特定していかなければ将来の地域農業が成り立たないという地域もある。法人化も持続的な営農のためには必要」との指摘もあった。
 そのほか水田農業が農協にとっても最大の課題という観点から「自給率40%でありながら米は余っているという矛盾がある。単純な規模拡大ではなく、何を生産者に作ってもらうか画期的な水田利用についての農協営農指導が問われている」といった農政のあり方から農協を論ずるべきとの声もあった。
 そのほか組合員の農協離れの根本的な問題として広域合併の進行も指摘され、なかでも金融自由化に対応して貯金残高や正組合員戸数を目標に掲げて合併促進策を打ち出した1980年代に入ってからの全中総合審議会答申について「改めてこの研究会で総括することも課題解決には不可欠ではないか」との意見もあった。
 意見交換をふまえて研究会会長の梶井功東京農工大学名誉教授は「農協をどう改革、発展させるかの問題の前にやはり日本農業の将来をどう描くかの議論が必要だ」と指摘した。

【講演要旨】
今こそ、協同組合としての農協に立ち返るとき

北出俊昭 前明治大学教授
北出俊昭
前明治大学教授

●真の「民」の視点を農協に

 戦後農政は農地改革からスタートしたが、GHQは小作人が再び小作人に転落しないための保障措置として農協設立を勧告、農協法制定につながった。つまり、戦後最大の農政改革は農地改革と農協設立にあるといえる。そして、食管制度のもと米流通の責任団体とされ、食料安定供給上、農協は重要な役割を担わされた。農政改革を阻んでいるのが農協と批判するが、山下批判はこれまでの農政の反省を抜きにした批判だ。問題の根源は農政にある。
 しかし、これまでも「農協は農政の下請け機関になっている」との批判があったように農政との関係をどう考えるかは、現在農協にとって重要な課題である。
 日本の農協の特徴は、(1)全農民加盟、(2)行政単位中心の組織、(3)総合農協の3つ。これは政府が政策を推進するのに有効な体制で、前述のような批判になった。この3つの条件を、政策推進ではなく、地域からのボトムアップで要求を実現できるよう組合員の自覚に基づいた組織に組合を再構築する条件にすべきで、今後はこの観点が重要。「官から民へ」というが、その「民」は民間大企業のことで国民、市民ではない。「農政改革」の次は「農協解体」となることも予測される。その流れに対決していくためにも農民、地域住民が主体となる組織として生かす対応を考えるべきではないか。

●農協解体は日本農業の解体

 山下論文や規制改革会議答申などは農協の平等原則を批判している。しかし、協同組合原則では性別、社会的、人種的などの差別は行わない。つまり、協同組合は人の組織であって、農協も経営規模などで差別をしない。資本の組織と違い人の組織では平等は要。平等の否定は協同組合の否定にほかならない。
 しかも、事業の実態として、機械的に平等原則を実行している農協は少なく、大口利用者対応も進んでいる。小規模農家が農協を動かしているというのは批判のための批判である。
 また、稲作の実態は2ヘクタール以下の農家数が9割を占める。生産量でも6割近い。特定の担い手だけを施策の対象にする選別政策では生産の対象が一層縮小し、農業・農村の維持発展は困難になる。選別政策を進めるためには農協を解体するしかないというが、実態からみれば農協解体は日本農業の解体にもつながる。

●地域社会と総合農協の役割

 信用・共済事業の分離論も出てきているが、この問題で注目しておきたいのは1980年のレイドロウ報告(西暦2000年における協同組合)だ。レイドロウは、その報告でこれから大事なことは協同組合地域社会を建設していくことだと強調している。そしてその点では、事業ごとに分離された協同組合ではなく日本の総合農協が重要な役割を果たしていると評価している。こうした協同組合の価値を基礎とした農協の改革、発展を探るべきだろう。

●協同組合の活動に誇りを

 われわれは協同組合の価値と役割を再認識する必要がある。
 2002年に国際労働機関(ILO)が「協同組合の促進に関する勧告」を出している。そこでは「協同組合は経済のすべての部門において活動する」と定義され「自助、自己責任、民主主義、均等、連帯などの価値と他者への配慮という倫理的な価値」を持つ協同組合の強化を求めている。
 さらに均衡のとれた社会のためには公共部門、民間部門とともに「強力な協同組合の存在が必要である」と強調し、「政府は協同組合の価値、原則を支援するための政策と法的な枠組みを提供すべき」と勧告している。
 この勧告は、1995年のICA大会決定に基づいているが、そこでは「協同組合人は自分たちの存在ややっていることにもっと誇りを持つ必要がある。協同組合の仕組みや価値についての信念を一般市民に持続的に提示すべきである」と記している。
 今は、勝ち組か、負け組かが叫ばれる時代。市場原理主義が強まり不公平、差別、格差が拡大している。今こそ協同組合の出番で農協も協同組合の価値と理念に基づいた活動強化が必要である。
 こうした観点から今後、農協を強くしていくための具体的な課題としては、合併によって組合員から遠ざかる農協をどうするかだ。組合員の自発的、自主的な参加を促すためにも基礎的な組合員組織による新たな観点からの活動強化が重要となる。

塚田前全中常務があいさつ

 研究会の冒頭、8月に退任した塚田和夫前JA全中常務が「農協研究会に期待すること」としてあいさつした。
 全中職員、役員としての35年の自らの経験を振り返り、「高度経済成長時代から国民が農村の景観に安らぎを求めるような時代になったが、農業、農村は残念ながら疲弊してしまっている」と話した。今後は安心して暮らせる食と環境が得られる農村という「楽園」の再生に向けて、改めて関係者が「協同組合らしい農協」づくりをすることが必要ではないかと話した。また、かつて高度経済成長期には有機農業や産直などは軽視されがちだったが、最近のファーマーズマーケットの成功や消費者に広がる有機農業支持などを背景に「協同組合のルネッサンスを起こす」ことが求められているのではないか、などと語った。

(2005.9.8)



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