農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会

農業協同組合研究会 2006年度第2回課題別研究会
米政策改革の検証と経営所得安定対策の課題

現場で考える 地域農業と農協の再構築の方向

梶井功東京農工大学名誉教授
阿部長壽JAみやぎ登米代表理事組合長
工藤昭彦東北大学大学院農学研究科教授


 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は8月22日、宮城県JAみやぎ登米を会場に現地シンポジウムを開催した。管内の生産者や農協関係者や東北各県からの参加者のほか、九州、中国地方の農協関係者も集まり、約210名が会場を埋めた。当日はシンポジウムに先立ちJAみやぎ登米の施設や環境保全米ほ場などの視察も行われ、シンポジウムと合わせ地域農業をどうリードしていくか熱心に意見交換した。

九州、中国地方からもJAみやぎ登米へ
九州、中国地方からもJAみやぎ登米へ

集落営農と構造改革に農協はどう臨むべきか

◆集落営農に意見続出

 シンポジウムにはJA宮城中央会の木村春雄会長も参加し、あいさつで「JAグループは集落営農を中心とする担い手育成に取り組んでいる。集落の声を聞くと今度の政策は選別政策ではないかと痛感するが、できるだけ多くの生産者が担い手になるよう今後も働きかけていかなければならない」などと語った。
 会場から意見が多かったのは、やはり経営所得安定対策の実施に向けて、多くの地域でいちばんの課題となっている集落営農づくりだった。
 参加者からは、農地を守るためなど意識改革が進めば組織は立ち上がるだろうが、その後をサポートする地域協議会やJAなどの役割が重要との指摘があった。
 阿部組合長は、JAとしても経営を考え集落の再編に取り組み集約面積の拡大に努めている、と話し、工藤教授も本来は100ヘクタールほどの単位で組織し、多様な農業者が「居場所があるような」地域農業づくりをめざすべきで、そのためのJAの力発揮を期待した。また、経営目標を掲げて組織づくりする必要があることも強調した。
 ただ、国は集落営農による構造改革は考えておらず、法人化など要件を次第に厳しくしていくのではないか、との指摘も出た。
 こうした指摘と合わせて、今後は国が求める要件からはずれる集落営農への対応が課題になるという声も多く、梶井名誉教授は「現場に即した実態として集落営農を増やして」、政策のあり方を今後も検証していく必要があることを指摘した。

◆地域の自立で対応を

 そのほか、経営所得安定対策が実施されても、助成総額はこれまでと変わらず、米価がこれ以上下落すれば経営は困難になるとして、価格の下支え的な抜本的経営安定対策の必要性を訴える意見もあった。
 また、米の生産調整が実効性を上げるには行政の役割が不可欠だとの声もあり、阿部組合長は登米市と一体となって推進する体制をつくったことを報告。こうした取り組みについて「ワンフロア化は国の政策を推進するためというよりも、地域農業振興をどうするかという視点から。当然、生産調整にも行政が関わることになる」と提唱した。
 そのほか、工藤教授は新たな政策の活用でできるところは活用すべきとするが、それによって「暮らしの場をどう底上げするかが大事」と強調した。
 また、JAのあり方について梶井教授は「職能組合ではなく、地域協同組合化が必要になるのでは」と提言した。
 司会をした北出俊昭前明治大学教授は、「今度の政策には非常に不十分なところがいくつもあるが、利用、活用できる面があることも指摘された。地域の自立した対応が求められており、JAの役割が重要になる」とし指摘し、今後も現場の実態に即した議論が必要と話した。

経営所得安定対策のどこが問題か
梶井功 東京農工大学名誉教授

梶井功 東京農工大学名誉教授

 現在の農政でいちばん問題なのは、効率的かつ安定的な経営が農業生産の大宗を担うようになれば、すべてうまくいくという幻想に基づいているところだ。
 効率的かつ安定的な経営育成政策が具体的に打ち出されてくるのは、生産調整に関する研究会の議論からだった。米の需要が不足しているのではなく、供給側が価格対応をすれば需要はいくらでもあるという主張がそこではまかり通った。飼料米として供給すれば確かに需要は膨らむだろう。しかし、飼料穀物価格でもやれるというのは幻想でしかない。米国の大規模稲作は世界でもっとも効率的な経営といえるだろうが、しかし、今の国際価格では経営は不安定になるため、米国は二重、三重の追加払いをしている。そうした政策で効率的経営を維持しているのである。
 特定階層に施策対象を絞ることで望ましい農業構造が実現するかも問題だ。構造動態統計によると、1990年に5ha以上を経営していた農家のうち、95年には5ha以下に規模縮小してしまった農家が2割以上いた。他方で、以前は5ha未満だったが95年時点では5ha以上に拡大した農家が縮小農家以上にいた。1995〜2000年の動きを見ても同じになっている。ということは一定規模以上に経営所得安定対策を絞っても、その層がずっと安定的に経営を維持、伸ばしていけるとは限らないということである。しかも、今後は施策対象外の農家は市場に裸で放り出されてしまう。その層からは規模拡大に意欲を燃やす者はもう出ないだろう。構造改善は加速はせず、逆に減速化する結果となるのではないか。
 生産調整については、総合食糧政策を打ち出した77年の鈴木農相談話では、単に米の減産を目的とするのではなく、自給力向上の主力となる作物を中心に農業生産の再編成を図る国の政策だとしていた。しかし、今の政府の見解は価格維持のための生産カルテルであるという。生産調整の政策的意義を改めて考える必要がある。
 集落営農についても農水省はかつては、自分たちの土地は自分たちで守り活用していくという、いわばムラの論理を出発点として合意形成していくこと、と説明していた。
 しかし、今度の対策では、法人化や主たる担い手の特定などムラの論理に合わない厳しい要件を課している。これはムラの論理を出発点とすることと異質。集落営農のあり方については地域の人々に任せるべきだ。

組合員再結集のうねりを生み出す環境保全米運動
阿部長壽 JAみやぎ登米代表理事組合長

阿部長壽 JAみやぎ登米代表理事組合長

 今日の農協の課題は、広域合併の過程で組合員の農協離れがすすみ、農協運動が忘れさられたことにある。また、地域農業と密着した事業である営農経済事業では部門収支の自立化をめざしているが、営農指導事業の縮小は、農協が自ら地域農業から離れていくことになる。組合員をいかに再結集させて組織力と農協運動論を取り戻すかが最大の課題だと思う。
 当農協も合併後には組合員の農協離れが顕在化したため、その原因を把握することに努めた。その結果、組合員は減反拡大と低米価で展望をなくしており、農協の存在価値が問われていることが分かった。そこで組合員と一緒に取り組む姿勢を確立するため地域農業振興の方向を明らかにした。
 その柱が家族農業経営を基本とした地域農業の再構築とそのための環境保全米への全面積転換運動である。環境保全米運動は、減農薬など安全性を追求する米づくりの実践が消費者から注目されれば、それが販売戦略に繋がると考え打ち出したのである。
 初年度の03年度は作付面積の1割程度だったが、冷害に強いことが実証されたことなどから06年産では8割まで拡大している。作付面積の拡大は、営農指導員の意識改革によるところが大きいが、早期に完売して減反面積が削減されたことも大きかった。組合員からは価格メリットを求める声もあったが、完売すれば減反面積が削減されるという点と価格メリットは完売についてくることを説明してきた。
 また、販売は組合員でつくる水稲部会員と農協営農指導員が一体となって推進している。これが事業のなかに運動があるということであり、卸からも指導力のある産地として評価されている。
 米づくりに展望が見えてきたという声も出てきた。今、組合員が環境保全米について語り合っているが、それは農協を語ることにもなっている。生産資材の利用高も増えており、やはり米は地域を動かす力を持っているし、農村地域社会を形成している基礎であることを確認した。
 ただ、今後は全国的な生産調整は不可能になるとの想定のもとで、リスク管理体制と直販体制の強化も課題になる。また、集落営農を基本に力を入れているが、今のままでは限界もあるのではないか。農村地域社会と地域農業を維持する新しい農業協同組合論の構築が期待される。

「地域営農再編の展望」
工藤昭彦 東北大学大学院農学研究科教授

工藤昭彦 東北大学大学院農学研究科教授

 課題のひとつは零細農耕からの解放だ。このままでいいと多くの人は思っておらず、将来の地域農業がどうなるか不安だろう。したがって、構造改革を推進せざるを得ないが、参加型構造改革を推進するというキーワードで考えるべきだ。
 もうひとつの課題は、不安な食からの解放、だろう。日本農業はこの問題に応えていかざるを得ない。端的に言って環境保全型農業を推進していくことは避けられないと思う。
 2つの課題をどう追求するか。今度の政策は評判が悪いが、決まった以上は地元のやり方に適合させてアレンジし、活用できるところは活用していくことを考えざるを得ない。
 担い手を限定した構造改革がうまくいかないのであれば、多様な農家の参加型で考える。集落営農にもいろいろな要件がつけられているが、実態としてうまくいけばいずれは市民権が得られる。担い手限定政策に振り回されず、地域で参加型構造改革のための知恵を出していく必要がある。その際、地域の農業だけでなく生活も含めてどう構築していくのか、その底上げをするというエリアアプローチ型の構造改革をしていく。これが現場の人たちの常識であろう。
 また、米の生産調整については、品目横断対策と裏腹の関係にあり、どんなにこの施策の対象となる担い手を育成しても米価が暴落すればガタガタになってしまうことを考えなければならならない。19年産から農業者・農業者団体が主役となるシステムになるが、農業団体のほぼ要望どおりの予算もついたと思われ、これをフルに活用しながら挑戦するしかない。
 ただ、生産調整は全員の合意が必要で、一方、品目横断対策は担い手を限定しているから、なぜ生産調整をという疑問も出かねない。
その際、全員参加でそれぞれどういう役割分担をするか、つまり、みんなお互いに居場所があるような一般農家の参加・協力体制づくりをしながらの地域農業ビジョンづくりが求められる。
 また、農地・水・環境保全向上対策も日本型の環境支払いとして初の施策であり、環境保全型農業の徹底と資源管理に活用できる。これは不安な食からの解放にも応えるもので、環境保全型農業への助成など正々堂々と受け取れる取組みができる。また、資源保全ではすでに食農教育など住民参加など多様な活動も生まれており、全員参加型としてすぐにでも取り組める。自分たちの地域がよくなるように、知恵を絞って政策を活用する時期になっている。

 

JAみやぎ登米現地視察
バス2台でほ場や施設へ

環境保全米圃場

◆JA全体に広がった南方町の環境保全米の取組み

栽培法を示す看板が立つ
栽培法を示す看板が立つ

 宮城県外からのシンポジウム参加者75名は、当日の午前中にバス2台に分乗してJAみやぎ登米の環境保全米ほ場や有機センターなどの施設を視察した。
 JAS有機でひとめぼれを1.8ヘクタール栽培する大久保芳彦さんのほ場では、田植え後ちょうど3か月経ったひとめぼれを見ながら、参加者は説明を熱心に聞き入っていた。
 大久保さんが部会長を務める南方(みなかた)町水稲部会は、平成9年からJAS有機による栽培に取り組んできており、18年産米では25名、約100ヘクタールの規模となっている。
 大久保さん自身は、合鴨農法で取り組んでいるが、機械除草や紙マルチ、米ぬか散布除草などを組み合わせている人もいるという。
 病害は出ないかという質問に「毎年出るが蔓延はしない」と大久保さん。15年の冷害のときには慣行栽培よりも被害が軽かった。
 こうした南方町での有機栽培や減農薬・減化学肥料栽培の取組みは、JAみやぎ登米の「環境保全米」としてJA全体の取組みに広がり、いまではJA全体の8割が環境保全米になっている。
 大久保さんたちの米は、首都圏の生協などを中心に高級ブランドとして販売され、好評を得ているという。そして、消費者とともに実施した「田んぼの生き物調査」で、害虫の天敵を含めて多くの生き物いて「田んぼは命をつないでいる」ことを知る。消費者が食卓で“いただきます”というとき、その向こう側にこうした生き物のドラマがあることを伝えてたいとも語った。
 JAが進める環境保全米には3つのタイプがあるが、各タイプに共通しているのが、地力を高める土づくりだ。JA管内には7つの有機センターがあり、ここで生産される堆肥がそのために活用されている。

◆米の生産・流通支える有機センターとCE

 昨年オープンした南方有機センターを訪れた。地域の畜産農家が持ち込む牛糞を中心に1日7.3トンの堆肥肥料を生産する能力をもっている。施設そのものはかなり大きいのだが、在庫を置くスペースが40日分しかなくやや狭いように感じたが、在庫でいっぱいになって困ることはないという。南方町の生産者だけではなく、隣の迫(はさま)町で家庭菜園をする一般住民が購入しに来るからだ。それだけ品質が優れているということだろう。
 米の関係ではもう1か所、迫カントリーエレベーター(CE)を訪ねる。平成7年に建設され、迫町の500ヘクタールを対象にし、処理能力3300トンのCEだ。荷受品種はひとめぼれの環境保全米と慣行栽培で、稼働率は70%超だという。荷受時の水分によって利用料金が設定されている。
 この時期は、出来秋の収穫・荷受に備えての準備作業が行われていた。

能力3300トンの迫CE・1日にたい肥7トンを生産する
能力3300トンの迫CE・1日にたい肥7トンを生産する

◆市場出荷するまでが生産者の責任

 このCEに隣接して、野菜や花きの集出荷を行う大瀬野菜集出荷場がある。この日はトルコキキョウの集出荷日で、1バケツに10〜20本入れられた10種類ほどのトルコキキョウの出荷作業が行われていた。
 主な出荷先は、東京、北海道そして県内だという。この日もそれらの出荷先別のコンテナに積み込む出荷作業が手際よく行われていたが、それらの作業をしているのは生産者だった。最後まで面倒をみるのが生産者の仕事だということだ。

東京、市場などに出荷する組合員たち
東京、市場などに出荷する組合員たち

 

(2006.9.8)



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