◆土地利用調整など担い手づくりのプロセスこそ重要
本紙が独自に行った「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」(以下「法人調査」という。)のなかに、大変興味深い分析がいくつかある。
その1つが、回答した法人を「個人・家族経営」「有志型協業経営」のほかに、「地縁型・集落営農」というものも1つの類型として分類していることである。
この「地縁型・集落営農」について、その性格づけや、JAに対する意識の違いなどについて、さらに詳細な分析を期待したいところである。
というのも、これが、本年3月の新たな「基本計画」と同時に農水省が提示した「農業構造の展望」に、新たな概念として登場した「集落営農経営」というものに相当するものではないか、ということだからである。
新たな「基本計画」の論議では、その大半を費やしたのは、水田農業の「担い手」ということであった。根本は、なぜ水田農業は構造改革が立ち遅れているのか、さらにいえば、わが国の零細分散農地のもとで水田農業のあるべき姿をどう描くのかということであったはずだが、直接的には、新たな品目横断対策の施策の対象とする「担い手」をどうするのか、「バラマキ」かどうかといったことになってしまった。
ともかく、水田農業では、全国の水田集落の半分で米の主業的な農家がいないとか、昭和一桁のリタイア・世代交代が始まっている中で、その受け手がないという状況がさらに加速化されることが想定される。
ややもすれば、今でさえ30万haを超える耕作放棄地がさらに急増することが大いに懸念される事態にある。
稲作中心の大規模経営や農業法人も一部には育っているとはいえ、請け負う農地がいくつにも分散していくことに悩んでいる。
この「法人調査」でも、今後の事業方針として「生産コストの引き下げ」が最大の関心事となっているが、圃場の分散を何とか面的にまとめていく仕組みや合意がなければ、根本は解決しないのではないかと考えたとき、土地利用型農業の法人形態の究極は、制度上でいえば、集落などの地域の「農用地利用規程」のもとに、そのエリアの過半を請け負うことをめざす「特定農業法人」ということになる。準備金制度というわが国でも稀な税制特例もあるものの、現在、その数は278法人でしかないという状況である。
基本計画では、「土地利用型農業における担い手の育成・確保をはかるため、…(中略)、集落を基礎とした営農組織の育成と法人化を推進する」「その際、…(中略)、集落等の主体となって…農地の面的な利用集積を図りつつ、営農組織の特定農業団体化・特定農業法人化を推進する」としている。
これらが、前述した「農業構造の展望」において新たに登場した「集落営農経営」(27年2〜4万)であり、「経営主体としての実体を有するもの」と定義されているものである。
しかし、これがめざすべき究極の姿とおいても、要は、そこに至るプロセスこそ問題なのであって、今、まさに、全国の生産現場において徹底してすすめようとしている「担い手づくり」こそ重要なのである。
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◆最大の焦点は「担い手の範囲」
本紙の「法人調査」のなかに、新たな「基本計画」についての関心事項についての設問があり、約6割ともっとも多かったのが「担い手の範囲」ということになっており、「品目横断的経営安定対策」と回答したのは3割程度となっている。「経営資源の継承」が4割というのは意外であったが、いずれにせよ「担い手の範囲」という、自らの経営にとって「対象なのかどうなのか」というのが率直なところであろうが、調査時点が昨年12月ということもあって、品目横断的経営政策についての理解はまだまだの時点であったのではないか。
新たな「基本計画」が農政転換として、めざしている核心は、現行の品目ごとの価格・経営対策を品目横断的政策に移行させて、WTO上の国際規律にそって、これを一部「緑」の政策として、今後の国際規律の強化や関税低下の状況でも対応しうるものとすることにある。
そして、その対象となる「担い手」は、いわゆるバラマキではなく、認定農業者か「経営主体としての実体を有する」特定の集落営農などの営農組織であって、さらに経営規模をクリアするものなどに限定することで、構造改革をすすめようということにある。
そして、この秋にも、国は「担い手基準」を定めて、19年度からの移行への現場での準備をすすめるということを想定している。
焦点は、何といっても、対象となる「担い手」とは具体的に何か、さらに経営規模要件をどう設定するか等の「担い手基準」にあるが、さらに、これを対象とした水田作・畑作の品目横断政策として、日本型直接支払(ゲタとしての面積支払・数量支払)の仕組みと水準、米を含めた収入変動緩和対策(ナラシ)の仕組みと水準等の具体的仕組みや、これに関連した品目別政策の見直しをどうするか、とくに、ナラシ政策と関連して、19年度産以降の米政策改革の支援策(現行の「稲得」、「担い手経営安定対策」のほか、「産地づくり交付金」や、過剰米対策など)をどうするかが、現場にとっても大きな問題となる。
さらに農業資源保全・環境保全政策の取り組みへの支援策の仕組みなどを含めて、政策の全体像を示してくることも想定される。
◆担い手限定では米価大暴落も
たしかに、今までの品目別政策は、麦・大豆や砂糖・でん粉などの現行手取りを確保するためにも、国際規律に沿いつつ変更せざるを得ない状況にある。
しかし、これまでの品目別政策が国内生産を支えてきたのは間違いないが、これまでの「麦経」「大豆交付金」、砂糖・でん粉の「最低生産者価格」を組み替えて、極端に限られた担い手のみを対象ということとなってしまえば、国内生産自体が縮小しかねない。さらに麦・大豆の縮小は米の計画生産をゆるがし、さらに「稲得」を廃止し、「担い手」のみのナラシ対策にして、かつ現行の規模要件を超えるような「担い手の絞り込み」なら、米の需給安定がくずれて、自給率向上どころか地域農業の崩壊へつながりかねないともいえるものなのである。
水田を中心とした大規模経営や農業法人にとってみても、自分は対象となるはずだから「大丈夫」といってみても、それではすまない。産地がくずれ、ひいては米の計画生産の失敗で、今までの価格下落ではすまされないほど大幅に崩れ、他方で耕作放棄地が大発生するといった最悪のシナリオになりかねないのである。
だからこそ「担い手の範囲」というのが最大のポイントであるし、地域実態に即した「担い手づくり」に即した担い手基準を、何としても実現しなければならないのである。
◆平等から公平への転換 JAの事業体制構築も課題
たしかに、こうした農政転換の以前に、地域農業の状況からして、将来を担う担い手づくりを徹底するということは到底否定できないし、それほど、わが国農業は危機的状況にあるといっていい。
このためにも、担い手がいない水田集落での集落営農の組織化やJA出資法人づくりを含めて、地域ごとにめざすべき担い手を描いて、農地・作業を集積することがどうしても必要であるが、これには相当の時間と努力も要する。
しかし基本は、地域ごとに将来像と担い手を描き、実態に即した担い手づくりを、JAとして徹底することであり、JAとして、その存在意義にかけて、地域農業・農村の将来像の提案と、その核として「担い手」づくりへの役割発揮が「待ったなし」なのである。
それは、今、「地域水田農業ビジョン」を中心に米改革をすすめていることそのものであり、地域ごとに農地の面的・団地的な利用を計画化し、農地の利用集積をすすめる取り組みにJAとして積極的に関わり、また、地域の多様な農家、非農家等を巻き込んだ取り組みへ波及させていくことである。
◆地域活性化への貢献を
この秋に、地域ごとのめざすべき担い手の実態にまったく即さないで、「担い手基準」が決まったり、施策の対象が地域にまったくいないという状況となれば、前述したように水田の麦・大豆や米の計画生産がその地域から崩壊し、ひいては担い手の経営悪化や国内生産の縮小を招きかねないのであって、地域実態に応じて各地域がめざす「担い手」の姿・形を積み上げてこそ、「担い手基準」としての資格や規模要件や発展の見通しなどが、地域実態に根ざしたものになるかどうかの決め手といえる。
また、「法人調査」でも明らかなように、系統利用率の多寡にかかわらず、いずれの法人でも「当然にJAを利用する」という考え方は後退しているという状況が読みとれる。
法人に限らず集落営農でも、出資者もしくは構成員がいるわけで、これに対する「説明責任」として、なぜ、結果としてJA利用なのかそうでないのかが必ず問われることになるのである。
その意味からしても、JAは担い手づくりに徹底して関与あるいはリードしていかざるを得ないし、JA事業としても「平等から公平へ」を徹底し、「担い手」に焦点をあてた事業改革や体制改革を徹底し、あわせて地域の活性化に貢献するJAの役割を発揮していくことが、その存在をかけた取り組みの意義ともいえるのではないか。 |