農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 本紙調査「大規模農家と生産法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」

本紙調査「大規模農家と生産法人の経営状況と
JAグループに対する意識調査」結果まとまる

コメの販売、大規模層で増える「外食」、「加工」向け直接販売JAに期待される
販売リスク管理の支援


  本紙は昨年12月に農業生産法人を対象にした『大規模農家と生産法人の経営状況とJAグループに対する意識調査』を実施、このほど調査報告をまとめた。同調査では法人の経営状況のほか、農産物販売や購買事業でのJA利用の実態とJAへの評価なども分析している。その結果、米の販売では流通制度の改革にともなって、大規模層では外食事業者や食品加工業者への直接販売の比率を高めていることが明らかになる一方、JAには販売リスク管理面での役割が期待されていることなどの課題が浮かび上がった。また、生産資材購買事業では、JAは「品質」、「品揃え」の点では強みを発揮しているが、「価格」、「商品情報」、「アフターケア」などの点では評価が高くないことも分かった。今回は調査法人の概要とJA販売事業の利用面の実態と課題、新基本計画への関心度を中心に、報告書の内容を紹介する。
◆農産物加工や観光農園など経営多角化を実現

 この調査では全国の農業法人815社を対象にアンケート用紙を配布し、その結果、364社の農業法人(以下「回答法人」)から回答が寄せられた。
 今回の調査回答法人の特徴は、売り上げ1位の品目で米が47.5%と約半数を占め、次いで花卉・花木12.6%、果樹9.6%、施設野菜9.3%だった。畜産部門が売上げ1位の回答法人は、全体の2.4%に過ぎず、耕種部門の法人が回答法人のほとんどを占めている(表1)
 年平均売上げ高は、1億365万円(表2)となったが、その差は大きく2億円以上の法人が11.6%ある一方、3000万円未満も27.0%あった。
 法人の形態については「個人・家族経営」が58.9%ともっとも多く、「有志型協業経営」24.6%、「地縁型協業経営・集落営農」7.9%と続く。
 法制度上の形態では「有限会社」が62.0%、「農事組合法人」22.5%、「株式会社」3.2%などとなっている。役員数の平均は3.1人で常時雇用者数は平均8.5人だった。
 事業概要では、農業生産以外の事業を行っている法人が52.6%にのぼった。内容は「農畜産物の直売」22.0%、「農畜産物加工」20.9%が高く、「観光農園」や「レストラン・民宿」なども回答にあがり、農業生産を核とした多角化の動きが見られる(表3)
 今後の事業方針としてもっとも関心が高いのは「生産コストの引き下げ」で64.4%に達した。「農産物の品質向上」63.4%で「収量の向上」が44.4%と続く(表4)。いずれも「農畜産物の内実の強化に関わる項目」(報告書)となっている。
 事業活動の拡大については「生産規模の拡大」(面積や飼養頭数、多品目導入など)は比較的少なく、むしろ「小売店との直接取引や消費者への直売」による「販売力強化」が39.8%と高いほか、「加工による付加価値の創造」18.4%などへの関心が強い。これらのことは農業生産以外の事業で「直売」や「加工」といった項目の回答数が多かったこととも一致する。

◆最終需要者への売り込みに力入れる ―農産物販売でのJA利用の評価

 こうした回答法人の特徴をもとに、今回は「農産物販売活動とJA販売事業の利用」についての報告書での分析を紹介する。

【品目別販路構成】
 表5は売上ベースで示した主な農産物の販路構成を示している。このうち「麦・豆」「生乳」「牛肉・豚肉」では中間流通業者(JA、集荷・卸売業者)への販売が中心である。これらの品目では、中間流通業者のうち、JAの占める割合が高く、集荷・卸売業者の割合は相対的に小さい。とくに政策的な背景のある「麦・豆」では、JAを通じた販売が圧倒的に多い。
 その他の品目(「米」「野菜」「果実」「花卉・花木」)では、小売・最終需要者への販売も少なくない。このうち小売・最終需要者への販売割合がとくに大きいのは「果実」である。これらの品目では、JAへの販売割合に比べ、集荷・卸売業者への販売割合が大きいことも特徴である。とくに「花卉・花木」では集荷・卸売業者への依存が大きく、JAを通じた販売は少ない。

【米の販路構成とその選択理由】
 米売上規模別にみた販路構成の特徴の一つは、売上高の大きい階層で小売業者・最終需要者への販売割合が高いことである。これは大規模階層で「外食業者」、「小売業者」の割合が高いことによるものである。またJAと集荷・卸売業者の販売割合の関係に注目すると、大規模階層ほど集荷・卸売業者への販売割合が大きいという特徴が指摘できる(図1)。
 米の販路選択では「取引の継続性」「価格の安定性」が非常に重視され、また「価格水準」や「決済時期」への関心も高い(表6)。売上規模別にみると、販売リスクへの関心が強いのが大規模階層の特徴であり、これに対して売上規模が小さい階層では、「出荷の簡便性」や「人間関係」への回答が相対的に多い。大規模階層の販売リスクへの関心の高さは、商品差別化や交渉力を通じた競争のコントロールを期待し、小売・最終需要者との取引を強化しようとする動機になっているとみられる。

【JA米販売事業の利用率】
 前掲表6では販売先の選択において重視する点と米販売におけるJA利用率の関係も示している。JA利用率が高い階層では、「出荷の簡便性」「政策支援の有無」の回答率が高いが、これらの項目に対する販路選択上の関心は弱く、これらの魅力によってJA利用率が高く保たれているとは考えにくい。
 これに対してJA利用率の低い階層では、「取引の継続性」「価格安定性」「価格水準」「人間関係」等の回答率が相対的に高い。このうち「取引の継続性」「価格水準」は販路選択における関心も高く、これらの要因がJA事業の弱点である可能性がある。ただし「取引の継続性」「人間関係」への回答は、販路選択における動機というより、当該販路を選んだ場合の注意点として挙げられている可能性が大きく、解釈には注意を要する。 
 以上の指摘を踏まえた上で、JAにとっての大口利用者対策の視点から、あらためて売上高別の販路選択を検討する。JA事業を利用する魅力とされる「出荷の簡便性」「政策支援の有無」については、売上高の大きい法人では重要とみなされない。大規模法人に魅力ある事業を提供するには、販売リスクの面で応える必要がある。それらはJA販売事業にとって得意な分野でないことが懸念されるが、さほどの問題はないかもしれない。「決済時期」「価格の安定性」は決して魅力ではないものの、弱みともなってはいない。また「取引の継続性」を挙げる法人は、たしかにJA利用率の高い階層に多いものの、前述の解釈の問題もあり、かならずしもJA事業の弱みであるとはいえないからである。

【今後の米販売の意向】
 JA以外で今後重視する販路としては、「消費者への直売」を挙げる回答が突出して多い。この他には「集荷・卸売業者」「外食業者」「小売業者」への回答がそれぞれ3割程度みられる(表7)
 米売上高別にみると、大規模階層で「外食業者」「食品加工業者」「小売業者」を挙げる回答が多い。これは小売業者・最終需要との取引(図1)の強化が、今後も進行することを予想させる。JA事業の利用率の動向を探る上で注目されるのは、集荷・卸売業者への関心が、小規模階層でさえ2割を超え、階層間の格差が小さいことである。
 このことは、これまでもっぱらJAを利用してきた法人でも、JAから集荷・卸売業者への販売先のシフトが生じるのではないかという懸念を抱かせる。この点を確認したものが、表7のJA利用率別集計である。予想されるとおり、現在の利用率に関わらず集荷・卸売業者の回答率の格差は比較的小さい。JAへの販売割合が8割以上の法人でも、集荷・卸売業者への販売が検討すべき選択肢として認識されているのである。

【米の販路選択にみるJA米販売事業の課題】
 これまでみてきたように、JA以外への米の販路として多くみられるのは、大規模法人が主として販売リスクの軽減のために行っている小売業者・最終需要者への販売である。これは経営体質の変化(リスク回避の選好)や交渉力の強化に対応した法人側の主体的な取り組みであるといえる。売上規模が小さく販売力のない法人には、JAに販売を依存しているものが多く、集荷・卸売業者への販売はまだ多くない(図1)。
 しかし今後はこうした売上規模の比較的小さい法人が、JAから集荷・卸売業者へと販路をシフトされることが予想される(表7)。これは経営内容の変化に対応した主体的な取り組みではなく、中間流通を担う同業者同士の競合という外的環境の変化によるものである。このような状況でJAが求められるのは有利な販売価格や販売リスクの軽減であって、事業自身の競争力の強化による対応が迫られているといえる。

◆「担い手の範囲」に関心もっとも高く ―新基本計画と生産法人の対応

 今回の調査では、生産法人に対して農業政策への関心度も聞いた。(別掲)
 WTO農業交渉では、交渉の結果、農産物の価格の一層の低下につながることを懸念する声が多かった(表8)。また、新基本計画に関する関心では「担い手の範囲」がどうなるのかについて関心が高い(表9)。ただ、報告書では、収入の減少や価格変動、助成金の減少などへの関心は高い一方で、「そうした結果をもたらすプロセスや要因、必要な主体的対応への関心は薄い」と指摘している。政策・環境変化のなかで地域農業の核となる法人を含め、JAの的確な担い手づくり支援が求められているようだ。
 以下は報告書の「農業政策への関心」について紹介する。

【WTO農業交渉】
 現在行われているWTO農業交渉について、「議論の内容を具体的に知っている」あるいは「テーマや内容を大まかに知っている」と答えた法人は回答法人の56.9%であった。これらの法人を対象に、「WTO農業交渉の合意によりもたらされる可能性のある影響」として、関心の所在を尋ねた結果が表8である。
 とくに多くの回答を集めたのは「輸入農畜産物の増大による農畜産物価格の下落」であり、また「畜産・酪農」「露地野菜」では「国際農畜産物市場と連動した価格変動の増大」の回答率も高い。「国内政策の保護水準の低下」への関心は政策的保護の状況を反映しており、「稲・麦・豆」等で回答率が高く、「花卉・花木」では低い。
 他の農業生産者のリタイア発生を「規模拡大機会の増大」と捉える回答は、「生産・販売上の障害の発生」を懸念する回答を大きく上回る。また「農畜産物の輸出機会の増大」を挙げる法人も多い。これらはWTO交渉による経営環境の変化を、チャンスと捉える法人が少なからず存在することを示す。

【新基本計画】
 食料・農業・農村基本計画の見直しに関して、「検討内容を具体的に把握している」、あるいは「テーマや内容をおおよそ把握している」とする法人経営者は53.4%であった。これらの法人を対象に、関心の所在を尋ねた結果が表9である(なおこの調査は平成16年12月に実施したものである)。
 前出のWTO農業交渉への回答と比べると、「関心がない」とする回答(19.6%)が多いことは注目される。もっとも多くの回答があった項目は、政策の対象範囲に関する「担い手の範囲の考え方(集落組織の位置づけ等)」であるが、政策の内容を示す「水田作・畑作を対象とした品目横断的な経営安定対策のあり方」や「野菜、果樹、畜産等を対象とした品目政策のあり方」への回答は32.5%(いずれか、あるいは両方に回答した法人数)にとどまる。
 WTO農業交渉に関する設問および新基本計画に関する設問への回答結果を通じて指摘できる点は、収入の減少や価格変動、交付金受給要件といった、収入の増減に直結する事項には強い関心をみせるのに対して、そうした結果をもたらすプロセスや要因、および必要となる主体的対応については関心が薄いということである。農業保護の水準の引き下げが予想される中で、経営環境の変化への認識力・対応力はますます強く求められるにもかかわらず、果たしてそうした能力が十分に形成されているのかが懸念されるのである。

調査の概要

 平成16年12月に『大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査』を実施。全国の農業法人815社を対象にアンケート用紙を配布し、その結果、364社の農業法人から回答が寄せられた。

回答法人の姿
◎売上1位部門 もっとも多くの回答法人が売上1位品目に挙げるのは稲(47.8%)であり、花卉・花木、果樹がこれに続く。
◎売上高 回答法人の平均売上高は10365万円。売上高が2億円以上の法人が40社(11.6%)ある一方、3千万円未満の法人も93社(27.0%)あった(有効回答は364社)。農業経営を対象とした調査では、畜産経営の平均売上高が耕種経営を大きく上回ることが通常であるが、この調査では「肉牛・養豚」でも約1億5000万円にとどまり、品目間格差は小さい。
◎収益性 回答法人のうち、収益が確保されているとする法人は52社(14.9%)、損益がほぼ均衡しているとする法人は205社(58.7%)、損失が発生しているとする法人は92社(26.4%)だった(有効回答は349社)。
◎企業形態と法律形態 回答法人の企業形態として、もっとも多いのは「個人・家族経営」(201社、58.9%)であり、「有志型協業経営」(84社、24.6%)と「地縁型協業経営・集落営農」(27社、7.9%)がこれに続く。「第3セクター・JA出資法人」(9社、2.6%)や「民間企業とのジョイントベンチャー・民間企業の関連会社」(8社、2.4%)を挙げる法人は少数(有効回答341社。もっとも適切と思う選択肢を選ぶ方式による回答)。
 法律形態別の内訳は「有限会社」212社(62.0%)、「農事組合法人」77社(22.5%)、「株式会社」11社(3.2%)、「合名・合資会社」1社(0.3%)、「その他」41社(12.0%)となっている。株式会社および有限会社の形態をとる法人には個人・家族経営が多く(それぞれ63.6%、70.1%)、農事組合法人には有志型協業経営が多い(63.8%)。
◎出資金額 回答法人の平均資本金額(出資金額)は1052万円。企業形態別にみると、「第3セクター・JA出資法人」(2323万円)がもっとも大きく、「有志型協業経営」(1611万円)、「地縁型協業経営・集落営農」(1405万円)がこれに続く。「民間企業とのジョイントベンチャー・民間企業の関連会社」は400万円、「個人・家族経営」は626万円である。法律形態別に資本金額をみると、株式会社(3246万円)、農事組合法人(1606万円)、有限会社(718万円)となっている。

(2005.7.27)



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