◆主食用需要の減退続く
――最初に米をめぐる情勢として18年産米の販売状況についてお聞かせください。
18年産の作況は「96」ですから、本来なら在庫は出てこないはずです。しかし、10月末で10万トン程度は出てくるのではないかという状況がある。
そのいちばんの原因は需要が見込みよりも落ち込んでいることです。とくに主食用需要の減退は毎年続いていますが、18年から19年の需要量については、昨年11月の基本指針では844万トンとされましたが、その後予期しない需要減があって837万トンに改訂されたように、この需要減が結果として在庫を抱えかねない状況になっているということです。
ただ、19年産の早場米が残念ながら不作だったため、18年産米の販売は若干進んでいますが、それでも主食用需要の減退には歯止めがかかっていないということです。このことが米をめぐる課題の前提であるということを認識しておく必要があります。
したがって、19年産の出回り時期を控えて、JAグループとして整然として販売していくスキームをつくっておく必要があります。
◆生産調整の実効確保の課題
――JAグループは19年産の計画生産の徹底に取り組みましたが、今後の需給見通しと課題についてはどうみていますか。
19年産米についての作柄や作付け状況は現段階ではまだはっきりしていませんが、大不作や大豊作にはなりそうにありませんね。ただし、需要以上の作付けが行われていることが見込まれています。これがはっきりするのは9月末の段階ですが、やはり生産調整の実効確保には現場はかなり苦労されているだろうと思っています。
その最大の問題は、米政策改革で実施された新たな需給調整システムでは、生産調整方針参加者と非参加者という区分がなされ、非参加者には生産数量目標の提示はされても配分がされなくなったということです。つまり、生産調整方針の参加者だけが目標配分されているということですから、実際の生産量と需給についてはなかなか見通すことができない。そして、さらに懸念されるのがこれが構造化してしまう可能性があるのではないかということです。
このように需給がなかなか見通せないということから、JAグループの米事業方式として、額はともかく内金・追加払い方式を徹底させるということを打ち出さざるを得なかったということだと思います。
ですから、課題としては生産調整には方針参加者、非参加者がいるというような構造が固定しないようにしていくことである。具体的には20年産のスキームをどう作っていくかがこの秋の政策課題となるということです。
◆需給は担い手の経営に影響
――本紙のJAへの調査では生産調整の実効確保で苦労する一方で高齢化が進み予定以上に作付けが大きく減ってしまったという声も聞かれました。
地域によってはまさにもう作り手がいないという現実もあるだろうと思います。これは米の需給をどうするかという問題以前に、地域の水田農業をどうするのかということにほかならないわけです。
そこは基本的には集落営農を含めて担い手が水田農業の大宗を占めていくという姿を作り上げていくということになる。米以外の作物を取り入れる経営体をつくるということでもあり、そのことが実現しないと米の需給問題も基本的には解決しないということです。
そのためにJAグループでは集落から積み上げた地域水田農業ビジョンの策定と実践に取り組もうと言ってきており、それが品目横断的経営安定対策での担い手づくりでもあるわけです。
JAとして行政と一体となって米の計画生産の実効確保をしようとすればやはり非参加者を含めて地域水田農業ビジョンに参加してもらって、地域ごとに将来の水田農業像を描いていくことが必要になります。
ただ、そういう担い手がつくり上げられるまでの間に米の価格が大きく下がるようなことがあると担い手が倒れてしまいかねないという声も現場から出てきています。
◆飼料米など水田を活用した転作対応の検討が必要
――どう対応していくべきだと考えていますか。
ひとつは米以外で転作をしていくことの限界感への対策です。麦、大豆の適地ではない地域はやはり米が作りやすいということになってしまうので、米の作りやすさに対応した需給調整の世界も準備しておかないと、生産調整に参加するという話になかなか引き込めないということもある。
世界的には穀物価格が高騰しており、適地では麦、大豆をさらに広げていくことが求められていくでしょう。大麦ももっと作ってほしいという実需の声があります。そしてもうひとつは米です。といっても主食用以外のホールクロップサイレージ、あるいは飼料用米などですが、こうした水田を活用した作目といったものを提示していかないと今後も主食用米の需要減が続くなかで転作拡大に対応できません。だから、取り組みやすさという点からも、主食用以外の米での転作という手はないのか、それが担い手を作り上げていく対策にもなると考えています。
まさに今は飼料穀物価格が上昇していて、畜産農家は悲鳴を上げているわけですが、一方で水田はきちんと利用されていないということでいいのか、ということです。そこをどう打ち出せるかが課題になると思っています。
それからもうひとつは過剰作付けがなかなか解消できず過剰米が出てくる可能性があるなかでは、一時的に過剰米の市場隔離も求められると考えています。これが政府米の役割だと考えています。
このように改革期間中だいうことから現在の政策で十分かどうか検証していくことが必要だと考えています。
そのもうひとつの課題として担い手の収入減少影響緩和対策、いわゆるナラシ対策が十分かどうか。われわれの試算ではナラシ対策が国から補てんされるのは1俵あたり1000円程度の価格下落までと考えられますから、それ以上に下落した場合は、集落営農を含め各地で作り上げた担い手の経営に影響を及ぼすこともになるため、対策を検討していく必要もあると考えています。
大きくいえばこれが求められている対策であり、これらを具体化していくことが需給の改善であり、構造的な過剰の解消につながると考えています。
◆販売を起点とした米の計画生産を
――19年産入札が始まりましたが不落札が続き米の販売見通しに産地からは不安の声も聞かれますが。
そもそも16年からの米政策改革への対応でJAグループが掲げたのは「販売を起点とした米の生産」ということだった。作れば売れるというものではなく、売れるものを作るということです。
JA段階の取り組みとして売れる米を作るというと、直売の拡大などと思われがちですが、極端にいえばこれから追求していこうというのは播種前契約ではないかということです。どういうものをどういう売り先に対して作るのか、を事前に決めていこうということです。だから「計画生産」というわけですね。需要に応じて計画生産された米はきちんと販売されていくはずです。そういう意味で改めて事業方式を生産者に提起していく必要があるし、それは売り先をみて生産をするという事業の徹底だと思います。
生産者・生産者団体が主役の需給調整システムというのは、「需要に応じた計画生産の主役」ということだと思います。配分の主役ということではなく、販売を起点に需要に応じた生産を担い手を中心に徹底していけば、自ずと計画生産ができあがっていくということだと思います。
(関連記事)
「経営所得安定対策等実施要綱の決定に当たって」(自民党)
●19年産からの新たな需給調整システムへ移行するに当たり、その定着が円滑に行えるよう、農業者・農業者団体の主体的な取組に対し、政府及び地方公共団体が、主要食糧法に定められた役割の発揮により、引き続き、的確にこれを支援するものとする。
●新システムの下では地域水田農業推進協議会の役割が重要となることから、地域における関係者の積極的参加の下で、その機能強化を図るものとする。
●政府は米の需給及び価格の安定を図るため、備蓄の機動的な運営に努めるものとする。
●万が一にも、過剰米が生じ価格下落によってつくりあげた担い手の収入所得が大幅に下落する場合には、担い手の経営安定のための万全の措置を講じ、あわせて、集荷円滑化対策の的確な実施等の対策を講じるものとする。
(18年7月21日農業基本政策小委員会、野菜・果樹・畑作物等対策小委員会、農林部会、総合農政調査会 決議)(部分 )
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