政府は6月6日、17年度の「食料・農業・農村白書」を公表した。17年度白書は農政改革初年度のさまざまな動きの解説を柱とし、新基本計画に基づく取り組みや、WTO農業交渉の経過、農産物輸出、バイオマスの促進などをトピックスとして挙げた。各地の取り組み事例のコラム、図表は例年の2倍に増やしている。
このなかで注目される解説のひとつに「食」についての分析がある。農業白書では初めて年齢・収入階層別の食料消費支出を分析、今後の生産の課題までを探っている。ここでは白書の「食」の現状分析について考えてみたい。 |
◆強まる食市場での高齢層への影響
日本では平成17年までに高齢化率が20%までに上昇する一方、6月1日に公表された17年度人口動態統計で合計特殊出生率が前年よりさらに低下し1.25というショッキングな数字が示された。さらに昨年、人口の自然減も確認されており、白書では「団塊世代が今後、高齢世代に移行するなど、わが国の人口構造は大きな転換点を迎えている」と指摘、年齢や出生世代の違いが食料消費にどう影響しているかを分析している。
たとえば、食料消費支出における世帯主の年齢構成比率は、昭和59年では全体の30%程度だったが、その後、この層のボリュームは増し、平成16年では50%を超えている。食料消費市場では、団塊世代を含む中高年層の影響力が高まっていると白書は指摘している。「日本の食を決めているのは中高年世代」(農水省)ということになる。
品目別の消費実態をみても、どの品目も世帯主の年齢層が高いほど支出額は高い。年齢間での差は魚介類、野菜・海藻で大きく、たとえば魚介類では、55歳から69歳世帯層(2人以上全世帯)では1人1か月平均で3000円台の支出だが、40歳から49歳層では1000円台と開きが大きい。肉類や調理食品では年齢間での差は小さいがやはり高齢世帯層のほうが消費支出は上回っている。
白書ではこうした高齢世代の増加によって、この世代の動向による食料消費市場への影響が今後も強まっていくことを強調した。
◆30歳以下、収入の差で食費に大きな差
17年度白書の特徴は、こうした年齢の違いによる分析に加えて、世帯主の収入別に食料消費の実態をみた点だ。
グラフ(図2)に示されているように各年齢層とも収入が高いほど食料消費支出が多くなっている。30歳未満の層では、年収1000万円〜1250万円層の支出は、年収200万円〜300万円層のほぼ2倍となっている。同じ年代でも「収入間格差が大きい」実態が示された。ただ、白書は30歳以上から69歳以下では、収入格差による食料消費支出の格差は縮まっていると指摘。また、60歳以上層では収入が低い層でも食料支出水準は他の年代にくらべて高く、高齢層が食料消費をひっぱっている傾向を紹介している。
◆エンゲル係数もばらつき示す
また、今回は年齢、収入別のエンゲル係数も掲載している。(図1)
食費の割合を示すエンゲル係数は家計費が高い世帯ほど低くなるとされている。しかし、今回の分析では必ずしも一様の傾向を示してはいないことが明らかになった。
年収500万円以下の層では、それ以上の層とくらべれば一般にエンゲル係数は高いと想定される。
しかし、この階層では70歳以上のエンゲル係数は高いが、30歳代は低く、しかもかなり差があることが示されている。また、30歳未満層をみると、逆に800万円〜1500万円層のエンゲル係数が高い。70歳以上層でも同様に高収入世帯で高くなっていることが分かる。
白書ではこうした実態から、年齢だけではなく収入の違いによって、食料消費の位置づけが異なっていることを指摘。たとえば、若年層で収入が低いにも関わらず、エンゲル係数が低いといった傾向について「住居支出の高さ、携帯電話など通信支出の高さなども影響している」と分析した。つまり、家賃や携帯電話などの支出に家計費をとられ、食費に回す家計費が不足しているということだろうか。
◆揺れる「食」の位置づけ
ところが、白書では食料品について「かつては必需品としての性格が強かったが、今日では個々の消費者ごとに必需品的な性格から選択・し好品的な性格まで位置づけが異なってきていることが考えられる」とこの項を結論づけているのである。
そして、その後に年齢だけでなく収入などによっても食の位置づけ、消費行動が異なることをふまえて、きめ細かくニーズを捉えた農業生産の必要性を指摘している。
しかし、食の位置づけが個々人によって多様になりばらつきがあることを、必需品というよりも選択品・し好品的になっている、とまとめてしまって問題はないのだろうか。
16年度の白書では年齢階層別の食料消費傾向を分析し、高齢層でゆとりのある食料消費がみられるのは、ローンなどの負担が軽減されたからであり、一方、若い世代は将来に備えて貯蓄に回すため、それが食料消費に影響していることを示唆していた。
しかし、90年代には少なかった貯蓄ゼロ世代は、最近の数字では24%となっている。若い世代とは限らないが、4世帯に1世帯が貯蓄がゼロという計算になる。こうしてみると若い世代は将来に備えて貯蓄に回すという前提も疑わしくなっているといえる。また非正規雇用世帯の増加による収入格差拡大もしばしば指摘されている。白書が指摘するような食の位置づけのバラツキは、消費行動の多様化だけにとどまらず、必要な食にも十分に支出できないといった格差拡大の影響はないのかどうか。次回はこうした視点から食料政策と生産の課題についても考えてみたい。
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