農業協同組合新聞 JACOM
   

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JA米で信頼される産地づくりを−2

現地レポート JAなすの(栃木県)
16年産で「全量JA米販売」を目標
あらゆる機会に生産者の意識改革促す

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 前号では、本紙が行った「JA米についてのアンケート」結果を紹介した。このアンケートは水稲作付け面積上位200JAを対象にして行ったもので、主要JAの8割が16年産から「JA米」に取り組もうとしていることなどが明らかになった。
 今回は、現地からのレポートとして栃木県・JAなすのの取り組みを紹介する。
 同JAでは約7000人の稲作生産者全員が15年産から生産履歴記帳に取り組んだ実績をもとに、約70万俵(60kg)生産される米のすべてを16年産で「JA米」とすることを目標にしている。昨年から集落座談会やJAだよりなどで「JA米」への取り組みの重要性を呼びかけ、「産地として当然のこと」との意識が生産者にも浸透してきたという。

◆安定した量と質を供給米産地の生き残りかけて

営農部米穀課 菊地照尾課長
営農部米穀課 菊地照尾課長
 JAなすのの管内は、大田原市、黒磯市、黒羽町、那須町、西那須町、塩原町、湯津上村の2市4町1村に広がる。組合員数は、約2万3000人(准組合員含む)で稲作生産者は約7000人いる。
 作付け品種はコシヒカリが95%。15年産は不作で集荷量は49万4000俵(60kg)にとどまったが、平年作であれば70万俵を出荷する。
 「JA米」への取り組みは昨年の8月から始めた。集落座談会、生産部会の会合での説明、さらにチラシ配布、JA広報誌での解説と「ありとあらゆる手段を使って啓蒙しました」と営農部米麦課の菊地照尾課長は話す。
 生産者へ配布されたチラシには、計画流通制度が廃止されるなか、JAグループの扱う米の優位性を発揮するため、安全・安心に重点を置いた米の生産が求められていることを強調。16年から取り組むことを明記した。
 また、JA米の要件となっている種子更新率100%や生産履歴記帳などへの取り組みは、東北・北陸の主産県では「当たり前になっており、生産努力と品質の向上がカギ」とも訴えている。
 「米政策改革の中身が生産者に次第に伝わるなかで、何か行動を起こさなければコシヒカリの産地として生き残れないという気持ちが出てきた。しかも、畜産や野菜で毎日のように“トレーサビリティ”と叫ばれるような時代ですから、米といえどもJA米の取り組みは必要だと理解が得られたと思います」と菊地課長は話す。

◆生産日誌は職員が出向き徹底指導で100%回収達成

 JA米の要件のひとつである栽培暦に基づいた生産とその履歴の記帳運動には、15年産から全生産者を対象に推進した。JAでは生産履歴記帳用紙を配布するとともに、記帳例も示し取り組みを促した。
 生産日誌の提出は「出荷前」にするよう呼びかけた。ただし、15年産では施設出荷と個人出荷で期日を分ける体制をとった。
 管内にはカントリー・エレベーター(CE)が3か所あり、約10万俵を集荷している。利用者は約1100人。このCE利用者に対しては生産日誌の出荷前提出を徹底、記帳内容を確認してから出荷を受け付けた。当然のことだが、CEでは、集荷した後に生産基準が守られていないことが分かっても、他の生産者の米と区別できないからだ。
 一方、個人で乾燥調製して集荷される米やJAが庭先集荷するものについては、15年産では出荷前と出荷時の提出も認めた。かりに生産基準が守られていないケースがあっても、その後にJAの倉庫で別扱いすることも可能だからだ。
 生産履歴は営農指導員が中心になって点検、不明な点があれば電話で生産者に問い合わせて確認した。また、提出が遅れている生産者については担当者が自宅まで出向き提出を求めた。こうした取り組みで最終的には100%の回収を達成したという。

◆営農経済渉外員も生産履歴記帳などを管理

 生産履歴記帳用紙については、15年産の取り組みをふまえて16年産から一部内容を修正することも検討している。栽培計画や個人作業などの項目はできるだけ簡素化し、一方、農薬、肥料などの使用履歴については記入する側にとってより分かりやすくし、点検する側にとっても生産基準が守られているかどうかが明確になるよう様式を検討する方針だ。
 生産履歴記帳運動と同時に、防除体系の見直しも推進している。具体的には本田防除をできるだけ不要にするため箱処理剤を推進、管内の市町村では同剤への助成を行い、空中散布からの切り替えも進めている地域もあるという。
 また、JA米の推進体制として、今年からは営農経済渉外員も加えることにしている。
 営農経済渉外員は、昨年11月に新たに設けられたもの。生産資材の配送などを全農栃木県本部が行うなど県域物流の実現にともなって同JAでは支所の機能を金融のみとし、その他の職員を営農センターと経済センターに集約、生産資材の購買推進などを行う営農経済渉外員を38名設置した。
 そして、営農指導員に加えて、この営農経済渉外員も生産履歴記帳の推進や生産日誌の点検を行うこととしたのである。このため営農指導員と合わせて、一職員約200〜300戸を担当する体制となった。生産者宅へは月に1〜2回足を運ぶことをめざす。物流改革の実現がJA米の推進体制の補強にもなった事例といえるだろう。

◆JA検査員も増員、体制拡充へ

 JA米の要件のひとつがJAも含めた登録検査機関で検査されJAに出荷された米、である。
 同JAでは12年度から職員が検査員資格を取得して、13年産から一部で実施、16年産からは全量JAでの検査体制とする。
 検査員数は25名からさらに16名増やし、体制も拡充させる。
 麦、大豆の生産にも力を入れている地域のため、検査員資格を持った職員の役割は大きい。おもに営農部、カントリーエレベーター、ライスセンターの職員が資格を取得している。
 検査技術を上げるため年間を通じて研修会を行っているほか、米の出荷が始まる時期には週に一回、全検査員が集まって実際に出荷された米を前に同一の検査結果となるよう、いわゆる“目ぞろえ”をしている。こうした取り組みによって、「規格どおりに自信をもって検査することができるようになった」という。

◆課題は種子更新率100%達成

 15年産の生産日誌の点検結果では、使用農薬などの生産基準が守れなかった例はなかったという。
 ただ、生産履歴記帳運動をスタートさせた時期には生産者はすでに種子や苗の手配を終えていたため、JA米の要件のひとつである「銘柄が確認できた種子による栽培」については取り組みができなかった。そのため種子更新率100%という要件の部分に限ると、その達成率は6割程度にとどまった。
 16年産ではこの点での取り組みが課題だが、これまでにJAへの種子の注文は昨年にくらべて急増しているという。
 JA以外から種子や苗を購入した場合には、生産物審査票などで証明できるか、供給業者による証明ができることを生産者に求めている。
 また、自家保有米とし生産した米がJAへの出荷にまわる可能性もあるため、種子更新は自家保有米も含めて100%達成されていることをあらかじめ条件にしている。

◆JA米を地域のスタンダードに

 同JAでは、すでに数年前から出荷基準にしている玄米選別網目の「1.85ミリ以上使用」もあらためてJA米の要件であることを生産者に強調している。
 さらにこの2月にはJAグループとちぎの方針として、「JA米」と「一般米」の買い入れ価格に1俵あたり最低200円(案)の差をつける方針も明らかにしている。
 「この価格差はJA米が標準であり、一般米はそれよりも差がつくということ。付加価値がつくのではなく、JA米がスタンダードだということを生産者に理解してもらわなければならない」という。
 JA米の要件を満たさない米は別ハイで管理するなど区分して扱う体制もとる。「安全・安心が確認された米を安定的に供給するためには全体でレベルアップしなければいけない。JA米はそのための重要な取り組みです」と菊地課長は話している。 (2004.3.3)



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