コメの入札取引では18年産から、入札の毎週実施や新たな取引手法の導入が図られるなど改革が行われた。しかし、入札取引は改正食糧法下では多様な流通ルートのひとつとなったこともあって取引が活発になっていない。こうしたなか、コメ価格センターは19年産米からさらに取引回数の見直しや、市場実勢を反映させる仕組みを導入することを決めた。今回の見直しのポイントと評価について荒田盈一氏に解説してもらった。
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◆入札取引を取巻く環境の変化
コメ価格センターの18年産米入札取引が終盤に突入した。しかし、関係者の期待に反して上場数量、落札数量とも「低迷・低調で推移している」と指摘されている。連動して落札価格も低価格で推移、関係者の間で入札取引の活性化を求め、更なる改革を求める声が出ていた。しかし、「改革の必要」は形式的な精神論であり、入札取引に「制度的な改善の余地はない」とも同じ関係者から発言されていた。自由化された米の流通・販売環境から「入札制度を改革してもコメ価格センターの入札取引を活性化させることは難しい」を暗示している。
18年産米の入札取引において入札手法が(1)通年取引(2)期別取引(3)定期注文取引(4)特定取引(5)日常的取引の形態に分類された。
(1)「通年取引」は従来の基本取引に当たり、年間を通じて安定的な上場を目的とする基本的な入札取引(2)「期別取引」は上場義務が外れ、3カ月の上場計画の下で売り手の判断(売り手の希望価格あり。開示される)とされた。(3)の「定期注文取引」は売買当事者に希望価格や引取り期限等の取引条件が付与され、(4)特定取引と(5)日常的取引は、新規参入者や早期米、少量のみを上場する場合の措置(基本的入札取引に準ずる取引、日常的取引)が必要とされ、これを導入した。
この結果、入札取引の形態・形式は完璧に整ったと評価された。
当初、「期別取引」は売り手のイニシアティブによるスポット的取引、「定期注文取引」は買い手のイニシアティブによる先渡的取引と位置付けられて検討され、「年間の上場義務が外され、概ね統一された売り手(全農)に自由裁量が大幅に認められた『期別取引』」が主流になると予想された。しかし、「期別取引」は3カ月の固定(期別毎)が嫌われ、スポット的取引は「定期注文取引」に移った。しかし売り手と買い手のニーズに応じたイニシアティブ(要望)を取り入れた新たな手法の結果責任は売り手と買い手の当事者にあるとされた。
一方、全農が平成17年10月26日に策定した「新生全農米穀事業改革」が流れを変えた。そこでは、従来、実施されて来た「相対取引の契約方式」、すなわち、実質的なキャンセル(修正)を前提にした数量だけの契約(数量契約方式)を廃止し、数量と価格を同時に契約すると宣言した。販売業者は価格高騰時において販売数量リスク(売上数量の減少)だけでなく価格変動リスクも背負うことを意味した。
さらに、生産者・生産者団体は需給調整システムの主体的な運用と責任を背負わされ、「売れ残り」を絶対避けなければならない事態に追い込まれた。
その結果、売り手(生産者サイド=全農)は事前結び付け契約の「安定取引契約」や数量・価格・引取期限を固定した契約である「特定契約」の志向を強め、「取引価格」は業態・ロットに応じて個別販売先との契約ごとに価格を設定するとした。こうして18年産は「入札取引」に対し「相対取引」が優位で推移し、先渡的取引は相対取引に移行、現実的には「低価格取引」を拡大させた。
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◆入札制度の基本的ルールは18年産を踏襲
3月までの18年産入札で上場された銘柄数は「通年・期別取引」で66、「定期注文取引」で28、数量は26万2000トンと6万6000トン、落札数量は4万3000トンと3万4000トン、落札率は18.6%と51.3%で推移している(右の表は4月末時点)。また1月以降に実施された17回の入札で無上場それぞれが15回と5回の発生した現実を考えれば入札取引の機能と役割に疑義を抱かれても当然である。
同センターは6月12日、理事会・運営委員会を開催し、19年産以降の入札取引について運用面の改善に取り組むことを決定した。入札制度は18年産米を踏襲し、「運用の改善」をするとした。運用の改善に当たって、同センターは18年産米取引の途中経過を次のように総括している。
「18年産米入札取引は、取引頻度の増加、売り手買い手のニーズに応じた新たな手法を導入した新たなルールの下で実施してきた。
流通ルートが多様化する中で出来秋当初から産地からの直接販売で買い手は必要量の手当てが可能になり、センターの価格は、契約数量に応じた割引のある相対取引と比べ総じて高かったことから相対取引が先行した」と分析し、「その中で定期注文取引における落札数量に応じた割引条件の設定、指値の修正など活発な入札取引の工夫も行われてきた。また、取引で形成された価格は、相対価格を始め、多様な取引の目安としてされてきている」と入札取引の機能と役割を謳い、「入札取引については売り手・買い手の双方が、相対取引とのバランスを保ちつつ、自らのニーズに応じた一層の工夫による活発な取引を実施するよう期待するとともに、センターとしてもこれを促進する観点から、19年産米以降の入札取引について運用面の改善に取り組む」とした。
改善の具体的な取り組みは、取引手法は現行ルールの基本的な枠組みをすべて継続するとした上で〈入札回数の変更〉〈変動値幅の導入〉とし、
(1)取引頻度は無条件の毎週開催を廃止し、年内までは「毎週」、作柄・集荷の状況等が確定する年明け以降は「隔週実施」とする。
(2)市場実勢をより反映する仕組みとして期別取引、定期注文取引について、指値方式を継続しつつ、一定の基準に合致した銘柄について、売り手が指値の変更を行わない場合には、一定期間の取引について指値を適用せず、変動値幅(回毎の値幅制限)を適用する。
具体的な基準は年内の取引が(1)上場した直近2回の取引で落札率がいずれも50%以下、年明け以降の取引は前記(1)と、(2)販売進度・契約進度が当該売り手に係る全ての銘柄の平均の進度以下に該当すること。ただし、変動値幅の比率(3%)を超えて指値を引き下げた銘柄は除外される。
◆落札率50%以下に3%の変動値幅を適用
変動値幅の比率は基準価格(落札加重平均価格)の±3%(上下限価格)と設定、変動値幅適用の期間は落札率が50%を超えるまで変動値幅を適用する。具体的には「変動値幅の基準価格は直近回の落札平均価格とする。ただし、直近回に落札がない場合には、直近回に売り手が申し出た価格(指値)とし、落札がない場合には、変動値幅の下限価格」とする。
さらに公表に関しては全ての取引についての申し出・取引結果を公表するが、本来、落札決定行為のために必要な「指値」の公表は、これが指標価格として受け止められ、入札取引における市場実勢を反映した価格形成の阻害要因との懸念が指摘されており非公表にする。また、上場者名の公表は、新規参入を躊躇する要因の可能性も否定できないとし、匿名登録、取引を可能にし、上場者名は、登録時業者のみに通知又は開示する。
しかし、こうした運用改善で米取引全体の活性化が図れると期待するのには無理がある。上場回数の増減は表面的なものであり、上場数量がなければ入札取引が中止され、実質的な活性化に連動しない。その上、年内の毎週実施はまだしも「作柄・集荷の状況等が確定した年明け以降の隔週実施は多すぎる」と指摘する関係者も多い。
改善策でも指摘されているように「上場計画・上場数量については、買い手の計画的な仕入の実現への要請について十分尊重する必要はあるが、食糧法において流通規制が原則自由化されている中では義務上場によらず、売り手の弾力的な上場を通じて米取引全体の活性化を図ることが望ましいものである」としているように、上場数量に関して売り手への強制権の発動は不可能になっている。
◆値引き合戦先導の危険性潜む
入札価格への変動値幅の適用は価格で優位に立つ相対取引に3%のアドバンテージ(値引措置)を与えて落札率を高めようというもの。現在の相対取引の価格優位性が3%の範囲にあると判断した訳だが、相対取引が3%以上のアドバンテージを付与すれば元の木阿弥で値引き競争のスパイラルを発生させる懸念も潜んでいる。
それを反映してか「年明け以降は、落札率はそれほど高くない銘柄であっても、業務需要中心に流通する銘柄で相対取引も含めた全体の販売進度が早いものや、播種前契約や長期契約のウエイトが高い銘柄で契約進度が早いものなど市場全体で既に相場観が形成されているものもあることから、落札率に加えてこれらの動向も勘案した基準とする」と腰が引けた。
そもそも需給環境が潤沢で過剰基調(=生産調整)の中、生産者・生産者団体の「売れる米作りで完売を迫られ」ており、「価格を安くしても早めに処分(販売)」の経済活動を止めることは不可能である。流通規制が原則自由化されている中、流通ルートも多様化し、事前結び付け契約の「安定取引契約」や数量・価格・引取期限を固定した契約である「特定契約」のようなインサイダー的な取引契約も認められており、入札取引の活性化は容易なことでない。むしろ「18年産入札取引が低迷・低調ではなく、ノーマルなのだ」という声が聞かれる。(図表:pdfファイル)
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