農業協同組合新聞 JACOM
 
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シリーズ 「農薬の安全性を考える」
「化学農薬の食料生産に果たす役割」 その2
生産者は自信をもって農薬を使い、
できた農産物に誇りを

本山氏×梶井氏

◆いまなぜ環境保全型農業がいわれるのか

梶井 有機農業推進法が施行されましたし、いろいろなところで慣行に比較して化学肥料・化学農薬を50%以上削減する環境保全型農業ということがいわれていますね。私は、慣行農法での農薬や化学肥料の使用が環境に有害であるならば、慣行農法の基準自体を変えるべきであって、減々ということをことさらに吹聴するのはおかしいのではないかと思いますね。
本山 環境保全型とか持続型農業という考えが出てきたのは、終戦直後からの食糧難の時代に、国民に食料を供給するために食料増産が国の最大の課題でした。ところがあるときから米が余るようになり、減反政策に切り替えたわけです。そのときに農水省が何を基本政策にするかと考え、産業公害と同じように農業も公害源の一つだからと問題をすり替え「環境保全」だとなったわけです。
梶井 富栄養化の問題などがあるにしても、みんなが納得するような減々の根拠は示されていないわけですね。その時流に乗らないと売れないから従ってきているように見えますね。
本山 農薬の性質も進歩したし、使い方も製剤・施用法の大幅な進歩で時代は変わっているのにもかかわらず、環境保全型を言いだしたときには、DDTとかパラチオンの時代のイメージが刷り込まれていて、とにもかくにも農薬を減らすことがいいことだという間違った方向に進んでしまったといえます。無理やり補助金をつけて農家に農薬や化学肥料を減らすことをやらせるのは、もうやめた方がいいと思います。それは日本の農業を強くすることにはまったくならないからです。

◆生産性を犠牲にすることは許されるのか

梶井 減反問題でいえば、米が余るならまず米の使い方を考えることがありますね。畜産飼料にするとかですね。それから「食の安全」のためには、国民に安心してもらうためには、日本としてどれくらいの耕地面積を確保しておかなければいけないのかを考え、その耕地を利用するためにはどういう作物を戦略作物として考え、その生産をどうカバーするかという方針がないといけない。ところが、当面自給率が低い麦・大豆で編成したわけですが、どの地域でも麦・大豆でいけるわけではないから無理があるわけです。各々の地域で戦略作物を選抜するべきだし、それをバックアップするのが農政の本来の仕事だと思います。それを放棄し、あまり生産性を高くしなくてもいいから減農薬・減化学肥料となったわけですね。
本山 生産性を多少犠牲にしてもという考え方はおかしいですね。世界的な視野で考えれば人口は増加していますが耕地面積は増えません。増加する人口にどうやって食料を供給してきたかといえば生産性を高めてきたからです。しかも飢餓人口が8億人もいます。そういうときに日本だけが生産性を犠牲にしてもいいというのは、許されないことではないでしょうか(図3、図4参照)
梶井 国民にそのことをキチンと理解してもらう必要がありますね。

図3・図4

◆化学物質が混入されている有機代替資材

梶井 本山先生は有機農業で使われる代替資材について調べられ、これに化学農薬や抗生物質殺虫剤が混入されていることを指摘されていますね。
本山 神戸大の松中先生の研究室で、もう20年くらい前ですが慣行栽培と無農薬栽培の野菜を4年間買い集め分析したら、農薬の検出率に差がなく、検出された濃度にも有意な差がありませんでした。考えられる理由は、農家が無農薬といっているが本当は農薬を使っているか、市場が嘘をつき高く売れる無農薬のラベルを貼ったか、農家が植物抽出液だと信じて使っている代替資材に農薬が入っているかのいずれしかありません。
 その後私の研究室にもそのような資材の分析の依頼があり調べたところ、単なる水と同じで何の効果も認められないものがほとんどでしたが、一つだけ目が覚めるように効果があるものがありました。それが「夢草」です。分析したら合成ピレスロイド剤のシペルメトリンが入っていました。その後の分析でも効果があるものには、殺虫剤だけではなく殺菌剤や除草剤(中にはパラコートまでも)などの農薬が混入されていることが分かりました。また最近では、いくつかの有機認証団体によって有機農業で使用してよい資材として認証されている「アグリクール」という資材から、化学農薬ではありませんが、外国で農薬登録のあるアバメクチンという毒性の強い抗生物質殺虫剤が混入されていました。
 こうした資材は、環境保全型農業の時流に便乗して新聞などで大々的に宣伝し販売されていますが、こうしたことは許されないことですし、安全な食、国民の健康を脅かすことになるので、国としても何らかの措置を早急にとってもらう必要があります。
梶井 農薬取締法で対応できないなら、法律を改正することも必要ですね。

◆登録の仕組みを専門用語を使わず分かりやすく伝える

 ――農薬の安全性を消費者に正しく理解してもらうためにはどうしたらいいでしょうか。

本山 農薬工業会が消費者を対象に「農薬ゼミ」を数年前から開催しています。これが成功している理由は、学者など専門家が一方的に講演するのではなく、アナウンサーなどを司会者にして、専門家や生産者と対話形式で話を進めているので、聞いている人が理解する「間」が持てるんですね。それから専門用語を使わないで一般の主婦が分かるように話をしていることです。そして生産者が自分はどう農薬を使っているかということを話しますから、これは説得力がありますね。つまり、メッセージの発信の仕方を考えれば伝わるわけです。
梶井 先ほどのリンゴでの試験結果のような話をもっとわれわれに伝えて欲しいですね。それから残留基準はどういう性格の数字なのかということなどを消費者はあまり理解していないと思うので、それを理解してもらう努力が大事だと思いますね。
本山 農薬取締法が改正され、「使用基準」が「守ることが望ましい基準」から、「守らなければ罰則が科せられる」ものになりました。つまり、農薬の安全性は使用基準を守ることで担保されているわけです。それでは使用基準はどのように決められているのか。急性・慢性・環境毒性試験などを行い厖大なデータを集めて無毒性量(NOAEL)を決め、それに安全係数をかけてADI(1日摂取許容量)を決めて、それから日本人の食生活に合わせた食品係数で各作物ごとの残留基準値を割り振り、それを超えないように使用基準が決まる。この道筋をやさしく説明することが大事です(図1図2参照)。
梶井 農家がそれを守っているということも伝えないといけませんね。
本山 行政が抜き取り検査などをやっていますし、生協や農協でもやっていますね。厚生労働省は毎年データを公表していますが、それを見ると天文学的に小さな違反しかありません。しかも残留基準値は人が一生涯食べ続けても大丈夫という値ですから、基準値を少々上回っていても何の心配もない、健康リスクはなく、むしろ栄養価値の方が高いわけです。消費者向けのそうした説明が不足していますね。
梶井 消費者にもそうだけれど、そういう話をマスコミにすることが一番大事だと思いますね。
本山 マスコミもそうですが、子供たちに話をする学校の先生に理解してもらうことも必要だと思いますね。
梶井 料理番組で「無農薬だからやっぱりうまい」などといってますね。これが誤解を与えることになるので、そういう関係者にもしっかり理解してもらうことが必要ですね。
本山 一番大事なのは、生産者が自信をもって農薬を使い、農産物に誇りをもって欲しいと思います。

(2007.9.26)


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