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シリーズ 「農薬の安全性を考える」 |
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◆まず生産者の意識を変えることから
――農薬についてはさまざまな誤解があり、科学的な根拠がないのに有機栽培とか無農薬野菜の方が慣行栽培のものより安全だといわれます。これはなぜだとお考えですか。 松永 農薬についての情報は今は、農林水産省や農薬工業会、日本農薬学会などが広く提供し公開しています。しかし以前は、あまり公開されていませんでした。学術論文として発表されたりしていたのですが、情報が一般の市民には届いていなかったのです。そのため、農薬はこの30年間に改善され、きちんとリスク管理しましょうという方向に進んできたのに、そのことを多くの人が知らない。市民の農薬に対するイメージはいまだに30年前の有機塩素系とかBHCとかのままなのです。 ――そのことを強調されたのが「踊る『食の安全』―農薬から見える日本の食卓」ですね。 松永 農薬は、昔のイメージで判断されていろんなことがいわれている。それではダメで、いまの農薬は昔のものとはまったく違うということをまず知ってもらわなければいけないというのが、書いた最大の動機です。 ――「自家用野菜は無農薬だから安全だよ」とか… 松永 そうです。だから、消費者を責める前に生産者がキチンと理解することが大事だということです。 ◆「毒性」があることを認識し責任をもって使う
――JAグループも生産者にいろいろな情報を伝えていますが、分かりやすく伝えるためには、どうしたらいいとお考えですか。 松永 分かりやすくというと「こう薄めてこの作物に何回まいて」「こうすれば後は何も考えなくていいです」という情報提供になってしまう。おそらく農薬はそれではダメだろうと思います。 ――現場では、生産者に聞かれると「何倍にして、いつまけばいいんですよ」と単純に答えますが、「何故そうなのかという理屈」をきちんと伝えていなかったことが問題なわけですね。 松永 確かに、現実に使う場面では希釈の倍率や使用回数などが重要です。そういうすぐに役立つ情報を提供すると同時に、化学物質の摂取量と人への影響など、最低限の毒性学についてキチンと情報提供し、「農業者の常識だ」というところまで持っていかないといけないんだろうと思います。 ◆「基準値を超えても食べましょう」 ――農薬の使用基準や基準値のことを正しく理解するためにも、毒性学に対する理解は不可欠ですね。 松永 農薬メーカーや生産者団体が農薬に関するガイドブックなどを作成するときには最初に、「用量反応関係」について説明してほしい。化学物質は、非常に微量の摂取量では生体への影響が見られず、量が増えていくと影響が表れ、さらに摂取量が増加すると影響はどんどん大きくなっていくという性質のことです。「農薬にはこういう特徴があるから、毒性が出ない量のところで上手に利用していくことが重要なんだよ。だから、使用量・使用回数など使用基準をしっかりと守らなければいけないんだよ」と説明していただきたい。それから、個々の指導をしていただきたいと思います。 ――正しい知識をもつ生産者を増やすことが私たちの課題だといえますね。そして食品衛生法によって定められる残留基準をクリアする農産物を作ってもらわなければならない。ただ、基準値を多少超えても健康には問題がないことがほとんどなのですから、報道関係者に冷静に報道してもらいたい、とも考えるのです。 松永 「基準値を超えていても食べましょう」という話を、消費者にももうそろそろして行かなければならない、と考えています。いまは基準値を超えたものは回収され廃棄されますが、設定されている残留基準値は厳しいので、基準超えでも残留量は非常に少ない場合がほとんどです。よく、厚生労働省や自治体が「基準超えの農産物が見つかった」と発表しますが、その場合に必ずといってよいほど、「この農産物を食べても、健康影響はありません」という一文がついています。今は、「健康影響はないけれど、法律違反なので回収、廃棄」という判断なのですが、「健康影響はないので、回収、廃棄はせず、再発防止のために生産者を厳しく指導するのみに止めます」というやり方をしてもよいのではないか。 ◆農業の現場がブラックボックスに ――安全は科学的にかなり解明できますが、安心は個人個人でレベルが違うため、「これで安心」と言い切ることはなかなかできません。より多くの方に「安心」と感じていただくにはどうしたらよいのでしょうか。 松永 ひところ消費者はゼロリスクを求めるといわれましたが、最近の心理学者は「ゼロリスクを消費者は望んでいない。リスクのあることを消費者は分かっている」といっています。ただ、リスクの受け止め方に感情が交じる。例えば、自分でコントロールできるリスクは、大きくても受け入れるのです。自動車はリスクは大きいけれども自分で乗るか乗らないか決められる、コントロールできるから受け入れる。農薬は消費者にとって、自分でまったくコントロールできないブラックボックスなので、本来のリスクよりも過剰に受け止められていると思います。消費者に情報をキチンと提供して、ブラックボックスをできるだけ小さくしていくことが重要だと思います。 ――消費者に農薬に関する情報がキチンと伝えられていないからブラックボックスになっている。 松永 そうですね。それは農薬だけのことではなく農業生産の現場が消費者と離れすぎてブラックボックスになってしまったということですね。とくに都会に住んでいると生産者が何をしているかが分かりませんから…。 ――生協組合員が産直で交流すると生産現場が分かり農薬を使う意味が分かるようですね。 松永 コープこうべが学習会で「他者への配慮を考えましょう」というメッセージを掲げていました。つまり、生産者やいろいろな人のことを配慮して自分たちのことも決めましょうということですね。生協の組合員が田んぼに行って交流をするのも押し付けではなかったか、という趣旨の発言も組合員自身から出たそうで、驚かされました。 ――そういういい流れを消さないように私たちもしたいですね。 松永 そのような消費者の思いや信頼を、生産者にも裏切って欲しくないですね。そのためにはまず農薬の適正使用ですね。それと、GAP自体を取り入れるのは難しいと思いますが、その感覚とか考え方を理解して取り入れて欲しいと思います。 ◆食の安全という全体像のなかで考える ――お話を伺っていると、本当は単純なことをわざわざ複雑にしているような気がしますね。 松永 農業が楽にできる気候風土ではない日本で、努力し苦しんでいる生産者がたくさんいます。現状では、その方々に感謝の気持ちを社会が素直に伝えていない。そこが気にかかります。配慮とか感謝、学びたいという向上心など、人が本来持つ真摯な気持ちを大切にして、良い社会を作っていきたいと思います。 ――今日は貴重なお話をありがとうございました。 |
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(2007.12.6) |
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