「そこまでイッていいんで集会」という公開シンポジウムが岡山大学農学部であった。昨年8月4日〜7日。その記録を、当日の企画をし、4人の発言者をコーディネートした小松泰信・岡山大学農学部教授が監修して本書が公刊された。110頁のコンパクトな記録である。
各人の就農経歴がある。テーマには商品開発、トレーサビリティ、マーケティングの各論、大学に求めるものまである。それらを別にして、本書の主たる特徴を触れよう。第1は、発言者が全員戦後派であることだ。
長田竜太氏(昭和39年生まれ)は、石川県で11ヘクタールの水田耕作者で、(有)ライスクリエイトの経営者。しかもこの大学で「農村社会学」を集中講義し、3泊4日務めたという。その機会を利用して、小松氏の畏友、安高澄夫氏(昭和28年生まれ、福岡県JAおんが組合長、露地野菜2.4ヘクタール)、地元の中野耕太郎氏(昭和43年生まれ、ブドウのニューピオーネ栽培)と国定豪氏(昭和31年生まれ)を合わせた。
国定氏は(有)国定農産の2代目代表で、請負耕作は米麦合わせて84ヘクタール。監修者自身が昭和28年生まれでもある。ここが最大のポイントであろう。全国各地で、そろそろ、こうした年代選択で農業・農協を論じる時代がきたのではないか。
第2は、冒頭から「ところで、儲かってますか?」である。農業は生業であるという固定観念を意識的に破壊し、突破する司会の意図がありありである。損益分岐点を意識して経営しないで、なんの現代農業経営者か。こう言われたらむっとする人はまだ多い。事実戦後すぐの就農派には職業選択の自由がなかった。背景に戦後食糧難があった。1ヘクタールそこそこの水田にへばりついた理由だった。一回性の人生だから、戻ることはできない。ここに後継者問題の難しさがある。本書ではこれを全く度外視して論じているから、採算が合わないなら、就農しないとなる。批判があろう。
そうはいっても、返答は各々だ。とりわけ改革派国定農場の大規模経営は全国的に有名である。敢えて章立てで記録されている。平成7年から空白の7年間、広島県世羅町40ヘクタールの国の開発団地に多額投資した。毎年2〜1000万円の赤字をつくって苦闘したという。そこからの回復過程が凄い。
かくて今更のように品目別、経営体別の経営構造の難しさが見える。しかも現職組合長の場合は、長男ではなく、分家だ。JAおんがについては、自己の農業経営と峻別して、改革的に農協経営を論じている辺りは、目配りが実に良い。
第3は、地域、JAとの関わりである。地域との付き合いにやや違和感がある。新規就農で、親代々でない場合は一層である。さらに、JAの事業機能にはほとんど期待薄である。逆にJAは必要だが、JAの全利用なら農業者に展望があるか、という基調である。現職組合長が参加していたから、そこで修正され、生産的な論議にはなった。それでも、小松司会者は「いま皆さんのお話を聞いていると、村を変えようなんて、とてもじゃないけど思っていない」。地域から信頼を得るとは「厄介だな」とまで言う。本音だ。
以前、大泉一貫・宮城大学大学院教授(昭和24年生まれ)の「リーディングファーマー」論を本紙(2003年11月20日号)で取り上げた。そこでは「地域の中心」でもある農業者と説明される。これ以上は、両氏の論議の接点こそ見たいものだ。 (2004.2.27)