農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「第24回JA全国大会」記念特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために

自立をめざす農山村とJAの役割(1)−1

「小さな協同・自治」のネットワークづくりを

対談
小田切徳美 明治大学教授
北川太一 福井県立大学助教授

 大会議案ではJAの「地域貢献」を大きな柱に掲げた。一方、過疎化、高齢化が進む集落では自らの力で立ち上がろうとする動きが各地で見られる。こうした小さな協同とJAはどう連携し支援していけばよいのか。本紙では新年号で自立に向けて立ち上がる農山漁村の地域づくりをテーマに現地レポート(記事参照)とともに考えてみたが本特集号でも小田切、北川両氏による対談を企画した。
 対談では地域貢献活動とはJAの組織基盤、事業基盤に結びつくものであるとの視点の重要性が強調された。地域貢献をキーワードにして大会議案を読み解くとまさに今後のJAのあるべき姿が浮かんでくる。

「地域貢献」をJAの組織・事業基盤の強化につなげる

◆格差社会へのアンチテーゼ示す

小田切徳美 明治大学教授
おだぎり・とくみ
昭和34年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。農学博士。東京大学農学部に勤務(助手)、高崎経済大学経済学部助教授、平成8年東京大学大学院農学生命科学研究科助教授を経て、平成18年より現職。農業・農村地域政策論が専門。主な著書に、『新基本計画の総点検』(編著、農林統計協会)等、多数。

 小田切 第24回JA全国大会の議案の大きな特徴は「安心して暮らせる豊かな地域社会と地域貢献」を全面に掲げたということだと思います。これは4つのポイントの2番目の柱ですが、1番目の「担い手育成・対応」は農政改革のなかで最初に持ってこざるを得ないということを考えれば、この方向性を今回の大会は前面に押し出し表現しても間違いはないだろうと思います。
 それは、市場主義的な社会変革が席巻しているなかで格差社会が定着し、いわばそれに対しての協同組合なりの社会のあり方へのアンチテーゼを打ち出したという大きな枠組みから把握できると思いますし、もうひとつはより現実的に、担い手対策で政府の選別路線を追認するなかで、農協のあるべき姿というものを明らかにしたということだと思います。この議案の作成過程にも間接的に関わられた北川さんは、「地域貢献」を打ち出した背景についてどう理解されていますか。

 北川 大会議案全体の印象としては私はかなり力作ではないかと評価しています。とくに2番目の柱であるJAと地域貢献との関係を全面に出して、JAがどう関われるのか、関わるべきかをデータに基づいて明らかにしていることは評価できます。
 その背景には協同組合原則の第7原則、地域社会との関わり、コミュニティへの関与という点についてJAグループで十分に議論されてこなかった経緯があるように思います。協同組合原則をふまえて作られたJA綱領でも第1の柱は農業、食、みどりですが、第2の柱では地域社会を出しているわけですね。それを今回の議案では具体的に突っ込んだかたちで提起したと思っています。

 小田切 私もその点では高く評価しています。
 ただ問題はそれが実現できるかどうかですね。そこでまずそもそも地域づくり、地域貢献というものはどういうことかということについて、鳥取県智頭町新田集落と山口市の仁保地域開発協議会の現地レポートをもとに考えてみたいと思います。

◆危機感から生まれた地域活動

北川太一 福井県立大学助教授
きたがわ・たいち
昭和34年兵庫県生まれ。京都大学大学院博士課程退位取得退学。農学博士。鳥取大学農学部(助手)、京都府立大学農学部に勤務(講師)、同大学院農学研究科(助教授)を経て、平成17年より現職。農業経済学、協同組合論が専門。主な著書に、『新版 農業協同組合論』(JA全中・共著)『あなたが主役、みんなが主人公―JA女性読本―』など。

 小田切 新田集落は集落ぐるみNPOが全国的にも注目されていますが、やはりそれだけではなく智頭町の「ゼロ分のイチ運動」のモデル、発想の原点になった取組みといっていいと思います。住民自治、地域経営、それから交流という3本柱で集落が独自の計画を立ててそれを実現していく。そういう取組みに手を挙げた集落に対して町が支援するという、ヨーロッパのリーダープログラムも含めて国際的にも注目されているボトムアップ型の地域づくりをかなり早い段階で実践したということが評価できるだろうと思います。
 仁保地域開発協議会の取組みは、大変、歴史の古いものでスタートは1969年だと思います。そして71年に「近代的いなかづくり」という方針を提起し、農業を大切にする村づくりと子どもたちに郷土の教育をするという二つの方針を掲げて今に至っています。
 この二つの事例から地域づくりの本質というものをどう捉えていますか。

 北川 新田集落の事例は、ご指摘のように智頭町による「ゼロ分のイチ運動」が96年に始まるきっかけにもなったったわけです。それは要するに人づくりですね。行政が中心になって町づくり、村づくりを仕掛け、リーダー的な人を表舞台に出したり、発掘したりしたということが非常に大きい。
 それから新田集落は集落ぐるみNPOが注目されていますが、レポートにも登場する岡田さんがいつもおっしゃるのは、「戸から個」へということですね。集落の人間が減っていくなかで既存の集落の運営の仕組みではやはり世帯主主義になってしまう、と。そこで集落の運営の仕組みをNPO法人にすることによって、いろいろな個人が表舞台に出てきた。数は少ないけれども子どもも含めて村づくりに関われるようになったことがすごく大きいということを盛んに強調されていますね。
 もうひとつは小さくても事業を行うということです。宿泊施設を作ったり人形浄瑠璃を上演したり、単に公益的な文化や地域を守るという活動から少し踏み込んで、小さな事業を興すことでみんなが元気になっていくということを新田集落からは感じますね。
 仁保地域については、地域資源管理ということが意識されているような印象を持ちました。たとえば、もっとも条件の悪いところから地域資源を整備していくということですね。そこから地域づくりを広げていって、さらには道の駅に特産品を出したり、有限会社を設立するなど小さなビジネスにもつなげているということですね。そこが印象に残りました。

◆活性化ではなく「小さな自治」

(左)「彩り豊かなむらづくり」を掲げる山口市仁保地域・(右)鳥取県智頭町の新田集落。「交流と文化」をキーワードに村づくり
(左)「彩り豊かなむらづくり」を掲げる山口市仁保地域
(右)鳥取県智頭町の新田集落。「交流と文化」をキーワードに村づくり

 小田切 この2つの地域の取組みについては3つほどの特質があると思います。ひとつは、総合性です。経済的な事業、福祉的な事業、さらに教育にも力を入れて地域で子どもたちを育てていくという総合性の際だった取り組みだと思います。
 2つめは革新性で、従来の仕組みを再編する。新田集落もそうですが新しい仕組みをつくりあげていくということを意識しているんだろうと思います。
 そして3つめは、どちらも肩に力が入っていないということです。少し前までの村づくりというと非常に肩に力が入っていましたが、淡々としていますよね。
 それはなぜなのかを考えてみると、彼らは地域自治を実践しているんだということだろうと思います。つまり、活性化ではなく当たり前の自治を実践しているから、肩に力が入っていない普段着の姿というものが出てきていると思いますね。その点で、こうした動きは最近では「小さな自治」と呼ばれています。

 北川 仁保のレポートを読むと農協の支所がこの取組みをきちんと位置づけているわけですね。そこがいいと思いました。

 小田切 その点もポイントです。今はJA山口中央と合併していますが、以前は仁保農協の区域でした。そこでは仁保地域開発協議会がヘッドクォーターで、その実践組織が仁保農協、という関係でした。農協はその点で子どもの教育活動も含めて本当に総合的なことをやっていたわけで、文字通り地域協同組合という存在だったんです。

◆「戸から個へ」をどう仕組むか?

 小田切 さてこのような小さな協同、あるいは小さな自治というものをさらに発展させるためにはまず私は住民の当事者意識がかなり重要だと思っています。
 その当事者意識を持つためには、最近、いろいろなところでワークショップの重要性が指摘されています。何を今さらワークショップかという意見もありますが、しかし、住民が集まってワークショップ活動をする効用にはずいぶん大きなものがあるなと思っています。「小さな自治」「小さな協同」はこうした基礎的なことから手がける必要があります。

 北川 ワークショップの効用というのはいろいろなことを積み重ねるなかで、実感したり体感したりということですか。

 小田切 そうだと思います。ワークショップにはいろいろな手法があり、それに応じた効用がありますが、いちばん大きいのは全員が発言でき、それにより当事者意識も生まれてきます。とくに女性、若者がワークッショプを通じて発言力を持てるということになると思いますね。
 小さな協同、小さな自治を生み出すための、ミクロ的な手当てでいえばこういうことだろうと思います。いかがでしょうか。

 北川 問題はやはり農協としてどう連携していくのか、活かしていくのかということだと思います。
 そのときには、「戸から個へ」がかなりのポイントになるんじゃないかと思います。その仕組みが今まで農協として十分に反映されてこなかったというところが大きいと思います。

 小田切 その「戸から個へ」という取組みをしているのがJA北信州みゆきですが、かいつまんでポイントを教えていただけますか。

 北川 2004年にJA北信州みゆきでは集落組織の仕組みをもう少し改革できないかというところから出発しています。当時の組合長や担当部長の意識として、JAは集落座談会をやって意見を聞き総代会を開く、と一見、組合員の声を聞くようなことをやっているが、本当に地域のいろいろな人の声とかつぶやきを拾えているのか、ということがあったと思います。
 その背景にそれ以前から地域の若い女性を対象に女性大学を開いたり、子どもたちを対象にしたあぐりスクールという食農教育活動もしてきたわけですね。しかも上手だと思うのは、あぐりスクールといっても単に子どもだけに目を向けるのではなくて、保護者の会とか、女性大学であれば同窓会的な仕組みをつくったりなどしていろいろな声を聞いていた。そこでそれらをJA運営に反映させる仕組みに改革しようということになったわけです。
 ただ、実態としてはなかなか進みません。私は尺取り運動だといっているんですが、一歩進んだと思ったら壁に突き当たって二歩下がったり、また少し動いたりという状況です。まさに経済事業改革などモノの改革のようにマニュアルがないわけですね。みんながなぜこれをやるのか、納得し合いながらゆっくりと進めています。
「自立をめざす農山村とJAの役割(2)」へ続く)

(2006.10.18)


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