農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 全農特集・生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋に

JA全農 女性役員に聞く(1)

日本農業の良さ・生産者の想いを消費者に伝えること

 JA全農は17年7月の総代会で、「全農改革」をみのりあるものとするために、組織外からも役員を選出した。経営管理委員として弁護士の曽田多賀氏、公認会計士の田知本章氏、生活クラブ連合会理事の末吉美帆子氏、経済評論家の内橋克人氏、コンプライアンスコンサルティング会社代表取締役の西森仁志氏。監事として弁護士の鬼丸かおる氏、公認会計士の吉川行正氏、経営倫理実践研究センター監事の島村昌孝氏。参与として全青協参与の三上一正氏、全国女性協顧問の峰島歌子氏の10氏だ。
 この間、「新生プラン」が策定されその具体的な実践が進められている中、この秋は19年度からの「中期3か年計画」策定へ向けての論議が行われている。
 役員に就任して1年余が経過するが、現在の全農をどうみているのか、これからの全農はどうあるべきなのかなどについて、4名の女性役員にインタビューした。
 4氏に共通していたことは、全農の役割は日本の農業あるいは生産者をシッカリ育成することにある。その上に立って、日本農業の良さ、生産者の想いを消費者に分かりやすく伝え、理解してもらう。それが生産者と消費者を結ぶ「懸け橋機能」だということだった。

農業を営む人に方向性を示し育てていく
経営管理委員(弁護士) 曽田 多賀氏

◆とてつもなく大きく重要な組織

曽田 多賀氏
曽田 多賀氏

 全農の経営管理委員への就任を依頼されたときに、中央労働委員会の公益委員や各種の審議会委員さらに民間会社からのさまざまな依頼を引き受けたりしているので、特に緊張感はなかったという。そして、栃木県の出身で、親戚に農業を営む人がいて、農業や農協に親近感をもっていたことも全農の経営管理委員を引き受けた理由の一つだとも語ってくれた。
 しかし、事業報告書などにより全農の全体像を知り、「とてつもなく大きい組織」だと思った。また「それだけ日本農業にとって重要な組織なのだ」という認識をした。
 経営管理委員となって会議などに出席して感じたことは、「業務改善命令などにより問題があることを指摘され、その改善に一所懸命取り組んでいる」ことだった。しかし、組織が大きいだけに短兵急にはいかないので、長い目でみていかないといけないとも考えている。
 弁護士として民間会社などの仕事もあり、そこでもガバナンスやコンプライアンスの問題は起きている。そうしたところと比べてみても、全農はよくやっていると評価する。そして、以前と比べていまは「みんなが真剣に取り組んでいる」ところが大きく変わった点だとも。
 ただ、民間はトップダウンで「指令が通りやすい」が、全農の場合は、統合したとはいえ歴史的に培われてきたものや県の独自性もあり、そのうえに「巨大な組織の中に、“パッチワーク”のように、あちらこちらにお城があって、なかなか末端まで浸透していかない」と感じていると女性らしい感覚で全農の実情を表現した。

◆人事交流を盛んにし風通しを良くすること

 せっかく統合して組織2段にしたのだから、意思の疎通を図り統合の実をあげるためには、本所と県本部あるいは県本部間の人事交流をもっと行って、人的な「風通しがよくならないといけない」のではないかと指摘する。現在、本所と県本部間で5%の人事交流をすることになっているが、それではまだ不十分だと考えている。
 また、「トップダウンではなく、職員が納得できるものである」こと。それが、コンプライアンスやガバナンスの基本だと、法律の専門家らしい指摘をしたうえで、いまも一所懸命やってはいるが、「まだまだやる余地が十分にある」。そのことが「新生プラン」を支える土台づくりになると考えている。
 また経営については、協同組合組織であることから、「利益を上げることが目的ではないので、事業利益だけを追求することは相当でない」。「農業のおかれている環境の中で、赤字にはしない前提で、組合員の利益を最大限尊重するように経営していかなければならない」と、民間組織とは違い、協同組合組織であることについてもキチンと理解されている。

◆“懸け橋機能”は生産者を育てることから

 「新生プラン」のキャッチフレーズである「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋機能」についてはこう考えている。
 「懸け橋機能」としてまず全農が果たさなければならないことは何かという問いに、「健全な生産者を育てることです」との答えがすぐに返ってきた。
 農業で生活が成り立たない。努力に比例したものが得られないから、若い後継者がいなくなる。「担い手育成」というが、「効率のよい大きな生産者の育成だけではなく、地域地域で農業を営んでいる小さな規模の農家にも十分に配慮しないといけない」し「高齢者も含めてこれからの農業の方向性を示して育てる」こと、それがまず全農がやらなければならない仕事ではないか。
 「消費者ニーズ」に応えるとか「消費者の視点」でといわれるが、「消費者の求めるものはいろいろあって、それぞれ違う」。それを単に生産者に伝えるだけでは「懸け橋機能」を果たしたことにはならない。消費者ニーズをとらえたうえで、生産者をどう育てるのか。日本農業をどう育成していくのか。日本農業を育て、食料自給率を上げていかなければならない。そうした施策を実現するために、国に働きかけることも全農の役割ではないかとも考えている。
 まず、規模の大小を問わず地域で一所懸命農業を営む人たちに、方向性を示し育てる。その農業の姿を消費者に伝え理解してもらうこと。「それが全農の“懸け橋機能”」というのが曽田さんの考えだ。

◆組織内では見過ごしている部分で積極的に発言する

 弁護士さんというと、映画やテレビの影響で、厳しく冷徹な人というイメージが強かった。しかし、東京・虎ノ門にある事務所でお話を伺った曽田さんは、穏やかにそして静かに語る女性だった。しかし、ご自身で感じたこと、考えていることについては、間違いなく相手に伝えようとする意思をもっておられるという印象だった。
 これから経営管理委員としてどのようにやっていくのかという問いには、「組織内の人では見過ごしてしまっている部分で、積極的に発言していきたい」との答えが返ってきた。
 そこには、弁護士として活躍されてきている経験を活かして、引き受けた仕事は最後まで責任をもってやりきるという強い決意が伺われた。
(「JA全農 女性役員に聞く(2)へ続く」)

(2006.11.16)


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