◆真面目だけど外への働きかけが下手な組織
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鬼丸かおる氏 |
全農から監事にという話がくるまでは、自分の家の台所を担う人間、一人の消費者という立場で「日本の食を支える大きな組織。困ったことが起きている馬鹿でかい組織」という認識しかなかった。そして話がきたときには「そんな大きな組織で務まるのかな」という不安があったが、「日本の食がどうなっているのかを知りたい思いがあり、せっかくの話だから」と引き受けることにしたのだという。
政府関係の審議会委員や民間会社の仕事、そして多くの著書もあり、強面な弁護士さんかと思っていたが、「写真を撮るなら20代の頃のを使ってもらおうかしら…」というように茶目っ気もあり、気さくにインタビューに応じてくれた。
全農の監事として最初の印象は「すごく真面目な組織」で、「一所懸命に組合員のことを考えて業務をやっているのに、外への働きかけというかパフォーマンスが下手なために、いろいろとご注意を受けている」と強く感じた。それがいままで続いているという。
◆難しいけれどそこが面白さに
また、全農はある意味で「自己完結型な組織」で「外部からの風が入りにくく、社会が変化しても、従来通りやれてしまう」という面があり、社会的にコンプライアンスを求める認識が高まっているのに、それへの対応が遅れ「そのギャップが噴出している」という感じをもった。
しかし、員外から経営管理委員を迎え入れ、社会に適応し全農を良くするためには、その人たちの意見をキチンと聞かなければいけないと理解され、員外役員の発言が「すごく重く理事に受け止められ」、実際の業務やホームページでの情報発信に変化がみられるなど、全農は「確実に変わってきている」と評価する。
そのことは監事というやや客観的な立場だから、経営管理委員の人たちよりよく分かるようだという。
コンプライアンスやガバナンスの徹底が大きな課題となっているが、「本所は徹底している」が、県本部や子会社があって、それぞれ管理の仕方が違うし、事業が多岐にわたっており、かつ性格が異なるので、これを「コントロールするのは並大抵のことではない」から、「全部に行き届くにはかなり時間がかかる」だろう。それが「全農の難しさであると同時に、面白さでもありますね」という。
そして、監事として県本部や子会社など全国を監査に回り、現場で業務報告書や契約書を見るので、気がつけば「こういう契約書だと何かの時に債権管理でつまずく」とか細かい指摘をする。それを聞いて「見直してくれるのは嬉しいですね」と微笑む。外へのパフォーマンスは下手だけれど、こうした真面目さには好感をもっているようだった。
◆日本の農業は凄いそれを消費者へ伝えなければ
現場を回って思ったことは「日本の農業って凄いですね。これは潰してはいけないと思いました」ということだ。例えば、牛のトレーサビリティの仕組みややり方をみて「日本の畜産がこんなに素晴らしい管理をしているなんて思わなかった」と感嘆の声をあげる。
生産者にとっては当たり前のことだが、それが消費者にキチンと伝わっていない。消費者は「並んでいる商品しか知らず、生産過程を知らない。生産者と消費者は遠い」ということを「台所を担う人」として実感したということだ。
「日本人の真面目さ実直さ、管理の素晴らしさが農業に全部出ています。そのことを分かりやすく消費者に伝えることが大事」であり、「それを消費者がちゃんと理解しないと日本の農業も繁栄しない」のではと考える。
いろいろある商品のなかから選択するのは消費者だから、「日本の農業・農畜産物が良いものだということが分からないと国産を選ばない」。だから「日本の農業をシッカリ育て、その良さをシッカリ消費者にアピールする」それが全農の役割であり、それができれば「自然に生産者と消費者が結びついてくると認識しています」。
◆農業をもっと魅力ある職業に
さらに、全農の決算を見ると、日本農業が全体的に落ち込んでいることが反映されている。日本は「自給率が40%という世界でも珍しい国で、それがさらに農業が落ち込むことにつながり、とても寂しいんです」。
だから「農業をもっと魅力のある職業にしなければいけない」。「全農も農協も農業を支えるためにあるのだから」その力を発揮しなければならないとも。
監事に就任して1年余。全農は「確実に変わってきている」し、改革へ向かって「スタートラインから一歩踏み出した」。そして、ご自身も「どんなところが問題か見え始めてきたし、起こってきた問題の表面ではなく根本的な問題が多少理解できるようになってきた」ので、員外監事という立場の強みを活かして「理事会でもいろいろな場面でお話をして、少しでも日本中から理解される全農にしていければいいな」と、これからの抱負を語ってくれた。
(「JA全農 女性役員に聞く(4)へ続く」)
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