農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくり −「農」と「共生」の世紀を実現するために−


シリーズ どっこい生きてるニッポンの農人2007(1)

21世紀型JAのかたち
辺境から革命は起こる

今村奈良臣 東京大学名誉教授


◆シラス台地の挑戦

JAそお鹿児島

 40年前、私の若い頃に現在のJAそお鹿児島管内の町村の一部だが歩き回って農村調査を行ったことがある。鹿児島特有の方言に悩まされ、狭い砂利道を自転車で歩き調査農家を探す苦労を重ねたことを想い出した。鹿児島県の企画した大隅地域農業総合開発調査にかかわる農村基礎調査の一環であった。その時に受けた強烈な印象を集約すれば2点にまとめられる。
 第1点は鹿児島特有の末子相続慣行である。年長の子供は軍人や教員あるいは女子だと看護婦など教育費の要らない職業を選択して若くして他出し、親への仕送りなども行いつつ、家業としての農業は末子が相続し、親の面倒をみるという慣行である。他の地域ではみられない相続慣行に驚きの目を見張った。
 第2点は、広大なシラス台地での農業は未開拓ともいうべき状況であり、台地下の細々とした水田と畑、そして少数頭飼養の豚、鶏、さらに多くはなかったが和牛の繁殖などが中心であった。シラス台地は台風害と干ばつの危険に常にさらされているので、せいぜい澱粉原料用甘藷を作る程度で粗放な利用であった。鹿児島県の農業開発調査の主眼は、この低利用のシラス台地での近代農業実現のためには畑地かんがいが必須であるとされていた。
 しかし、今回JAそお鹿児島管内の主要地域を見せていただいて、まさに私にとっては「革命」という言葉がふさわしい実態に接することができた。シラス台地には広大な見事な茶園が並び、多彩な野菜畑が実現し、甘藷も澱粉原料用から焼酎用に転換し、多数頭飼育の畜舎などが出現していたのである。さらにそういう経営を推進する人材が増えてきていた。高齢者ももちろん多いが、意欲的な青年、そして新規参入者の増加に私の眼は開かれた。

◆何をやるかは田畑、畜舎に落ちている

 JAそお鹿児島では、本文(記事参照)に詳しく紹介されているように、全国のJAにさきがけて「TAF」(タフ)という活動を平成10年から推進してきている。T=トータル、A=アドバイザー、F=ふれあい、という意味である。将来のJA管内の農業を担うであろう農家経営体を選定し、徹底的な訪問活動を通して「悩み」「要望」「苦情」を聞きとり、その解決策を立案し実践しようという活動である。この活動の発足当時の組合長であった川井田幸一氏(現JA鹿児島中央会会長)の提起したもので、「TAFの仕事は田畑畜舎に落ちている。明日からそれを拾って来い」という言葉にその活動の意義と目的は集約されていると思う。
 私は、JAの基本的活動は(1)マーケッティング(組合員の手取り最大化をめざす販売事業とそのための購買事業)、(2)コンサルティング(営農指導・企画と経営改善活動)、(3)マネージメント(組合員の意思結集とJAの経営・財務改革)に集約されていると考えてきた。JAそお鹿児島は、それまで特に遅れていた第2の活動であるコンサルティングに地域の実情に即して全力をあげて取り組んだわけである。初めの2年間は、組合員の「夢」と「悩み」を共有化するために組合員のもとに出向くことから始めた。その次の2年間は、共有化した「夢」と「悩み」を「解決・実現」するための「事業方式」を提案し、推進することに実績を積み上げてきた。初めの2年間は「あいつら(TAFチーム)はスパイだ」と言われたらしいが、3年目以降は「困った時にはTAFに頼め」というように変わってきた。そしてこれまでの実質6年間で実に4万7697件という膨大な訪問をした実績をもっているのである。正組合員数は2万2818名であるから、どれだけTAFチームが精力的に「田畑畜舎に落ちている宝」を拾ってきたか判るだろう。
 生産技術、経営管理、投資・金融、生産資材、財務管理、税務相談に至るまで、全分野にわたる相談、協議を行い、その結果のすべてについて、組合長は報告を点検し、必要な改善策、対応策について指示を出してきたという。もちろん、こうしたTAFチームの活動のうえで、販売事業、購買事業は伸び、地域農業はまさに革命という言葉にふさわしいような改革と発展軌道に乗ってきているのである。

◆人材が地域を変える

 28haの総合野菜農場を経営する水元幸都さん(有限会社水幸農園社長)、幸二さん(同専務)父子ともどもTAFの役割を評価しつつ、さらに規模拡大を進め、消費者ニーズの高い野菜生産の多様化を進める計画であるが、そのためにはJAは更なる販売戦略の改革とその実践の必要性を説いていた。
 200頭の繁殖母牛を飼養する上岡義孝さんは全頭1年1産を目指すという抱負を語りつつ、TAFに対して、法人化計画の実現と財務管理対策の充実を強く要望していた。
 さらに、志布志市とJAそお鹿児島との共同出資による農業公社を訪ねたが、新規就農希望者が次々と研修を終え就農している姿を見た。旧志布志町農業公社では10期生4名、11期生2名が研修中で、これまで24戸で46名(家族数68名)がピーマン栽培に頑張っており、ピーマン団地(部会)の半数は都市からの新規就農者で占められていたことは驚異であった。
 今回は僅かな日程の調査しか組めなかったが、JAそお鹿児島管内を大急ぎで巡回した中でこの40年間、特に最近の10年間で地域農業でまさに「革命」が進展していることを痛感するとともに、全国のJAも、TAFチームのような活動に全力をあげて取り組むべき時代であることを提案したい。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸

(2007.1.10)


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