第24回JA全国大会では「担い手づくり・支援」を軸とした地域農業の振興を通して、自給率の向上に貢献することを決議した。また、今年は「品目横断的経営安定対策」がスタートするなど、「戦後農政の大転換」が実際に動き出す。これを前にして「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」について、担い手づくり・支援という視点から、阿部長壽・JAみやぎ登米組合長、高田隆治・JA糸島専務、冨士重夫・JA全中常務に論議してもらった。司会は村田武・愛媛大学教授。 |
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阿部長壽氏・高田隆治氏・村田武氏・冨士重夫氏 |
村田 今日は第24回JA全国大会の議論や決議を踏まえて、これから3年間、農協が全力をあげて取り組む「担い手づくりの実践」と「食と農を結ぶ活力あるJAづくり」についてお聞かせください。
まず、担い手経営安定新法と農地・水・環境対策を両輪の車とし、1395億円の農林予算によっていよいよ動き出していますが、WTO/FTAの自由貿易圧力がいっそう強まるなかで、わが国の農業・農村の危機をどうとらえるか。そして、そのような農業・農村の危機を打開していくうえで、農協に課せられた役割をどう考えるか。次いで、第24回JA全国大会の決議や議論を念頭に置きながら、各JAの担い手づくり戦略の実践を具体的に紹介してもらいたいと思います。さらに「食と農を結ぶ活力ある農協づくり」についてどのように取り組んでいるのかをお話いただきたいと思います。
集落営農は農協・農政運動の画期的な成果
◆環境保全米で離れていった組合員の気持ちを一つに
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あべ・ちょうじゅ
昭和10年宮城県生まれ。宮城県立佐沼高等学校卒。宮城県立農業講習所卒。JA宮城中央会参事、仙南農産加工農協連合会常務理事、JA中田町代表理事組合長を経て、平成14年より現職。 |
阿部 私は農協問題の最大の課題は「組合員の離反」だと考えています。食管制度が廃止されて以降、農協組織の再編が急速に進められ、その過程で組合員が決定的に離反していったのではないかと思います。農協再編といっても組合員や農業の事情ではなく、農協経営をどうするかを優先した農協合併だったわけですからね。その過程で組合員が離れていった。その組合員をどうもう一度、合併した新しい農協へ再結集するか、それが一番の課題だと思います。
それへの挑戦を私たちの農協はしてきたわけです。私のところは米地帯ですから、米の改革に視点をあて、国の「米政策改革」を逆手にとり、「売れる米づくり」に挑戦し、米をきっかけに組合員の再結集をはかろうと始めたのが「環境保全米」です。それで日本農業賞大賞を受賞しました。
今回のJA大会を貫いている思想も「組合員の再結集」だったと思っています。
村田 阿部組合長から今日の議論の全体のポイントともいうべき「組合員の再結集」というお話がありましたが、「JAみやぎ登米でもそうですか」と感じましたが…。
阿部 極めて有名な「離反の農協」でしたよ。合併当初には年に4回も総代会をやったんですから。惨憺たるものでした。組合員が合併に期待しましたが、そうはならず組合員の気持ちとは違った農協になったことが原因だと思いますね。
◆減少する農家所得を確保するための戦略を
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たかた・りゅうじ
昭和17年生まれ。福岡県農協講習所卒。37年JA糸島入組、生活部長、営農部長、参事を経て、平成14年より現職。 |
高田 福岡の糸島農協は、隣に人口130万人という福岡市という大きな消費地があり、昭和37年に合併して誕生しました。私たちは、農業協同組合として「看板に偽りのない事業をやろう」を理念として事業を展開してまいりました。
販売事業でみると平成3年には109億円ありましたが、現在は76億円と30億円も減少しています。つまり、今日の農業危機ということもさることながら、農業危機は何十年も前からあったわけです。これを品目別にみると、米麦・大豆の粗生産額が現在は27億円ですが15年前には40億円、畜産が現在は49億円ですが57億円ありました。園芸が現在は80億円ですが15年前は65億円でした。米麦と畜産を合わせて100億円あったのが70億円になり、反対に園芸が増えています。
こうした変化のなかで、米麦、畜産、園芸のそれぞれの担い手にJAとしてどのような戦略をもってのぞむのかがいま大きく課せられています。今日までの過程の中では例えば、21世紀後継者対策として各種施設の一元化をしてきましたが、今後は、販売額が80億円ある園芸は多品目ですからこれの所得をどうやって増やすかということで、平成15年から取り掛かっているファーマーズマーケットをこの4月にオープンします。
村田 米の担い手についてはどうですか。
高田 全国稲作経営者会議の会長の地元でもあり、土地利用型としては麦作では60名近い会員がいますが1人平均が10haを超える規模で、ある意味ではプロ中のプロといえます。水稲も麦と近い形で展開されていますから、彼らにとっては今回の政策は非常に重いものがあります。そこで集落営農とか担い手へのいろいろな取組みを鋭意進行させているところです。
◆20年続いてきた農業危機 危機を深化させる日豪FTA
冨士 農協の問題もありますが、農業の情勢変化をみると、自由化の進展と農産物価格の引下げ、そして米の生産調整の拡大の3つが、ずっと続いて、好転することがなかったわけです。だから高田専務がいわれたように、危機はここ20年あったわけです。そのなかでどのように組合員が変化し、それに対して農協がどう対応していったかの違いだと思います。農政も昔は食管堅持、輸入自由化反対、米価引き上げの3つだったわけです。ところがWTO体制で輸入自由化が進む、価格支持政策をやっていても大規模化でコストが下がっても農産物価格は毎年下がる。生産調整ももう少しだといいながらずっと拡大してきた。こういう状況のなかで担い手がいなくなり高齢化していくという農業構造があり、組合員も農協が合併で良くなるのかと思っていたら経営主義で営農面でささってこないので、離反していくわけです。
そういうなかで、JAみやぎ登米は、米地帯ですから米の統一した栽培基準とか営農の取組みということで、消費者が求めている安全・安心に着目して組合員をまとめてきたわけです。JA糸島は、西日本ですから野菜などがあるので、土地利用型から施設園芸といった付加価値の高い方にシフトとしていくわけです。一方、土地利用型はどうするのかということでは農地を集積し、10ha規模になっているわけです。
これは農業構造の変化に対応してきた表れだと思いますね。そういう意味で今年からの品目横断的対策は、もう個別品目の価格ではダメだから品目横断でとか、さらにWTOとか自由化が進展するのでそれに対応した政策転換をしないと農家に対する直接支払いさえも守れないという、ある意味で行き着くところに行き着いたわけですね。
自由化の進展で極端な形で出てきたのが豪州とのFTAですね。これはWTOそのものです。重要品目を15%確保しろとWTO本交渉で主張しているものを全部なしにされる。しかも、関税が徐々に下がるのではなくていきなりゼロですからね。豪州との交渉に負けるということは、WTOで全部裸になるのと同意義なんです。だから豪州とのFTAは徹底して闘わないと、また政策の大転換をしない限り日本の農業は成り立たなくなるかもしれない根本問題なんです。
◆農地集積の力を基礎に園芸を展開
村田 冨士常務からご指摘いただいたなかで、それぞれの農協や農業をめぐって転機というか画期があったと思います。そういう意味ではJA糸島とか西日本の方が早い時期に危機を感じざるをえなかった局面があるのではないでしょうか。
高田 隣県の大分県大山町でいよいよ転作が始まるときに「脱コメ」を宣言し「梅と栗でハワイへ行こう」といったようにヒントが身近なところにあるわけです。あるいは福岡県南部でも米から園芸地帯に転換したということもあります。
私たちのところはそうはいっても水田がまだ3180haあります。担い手対策なり集落営農をするためには基盤整備をしなければならないということで、遅まきながら基盤整備をいまやっています。
村田 福岡市近郊の米麦二毛作地帯で10ha、20ha経営が生まれ、一方でその力を基礎にして園芸が展開され、そして新たな経営安定対策への対応として集落営農をやらざるをえないからいま基盤整備を、ということが起こってくるわけです。しかし農協はすでに農地保有合理化法人を立ち上げ、農地流動化をキチンと仕組む力も持っているわけですが、いまの高田専務のお話は、他の地域から見ると“えっ”と驚く話かもしれませんね。
高田 農地保有合理化法人はもう10年くらいになりますが、管内水田3000haのうちの1000haを預かっています。
冨士 JA糸島は土地改良をきっかけに農地を担い手に集積し、1戸10haという規模になっている。それを基本に進めてきたけれど、そうはいっても集落のなかで10戸で10haとか20haやるというところもまだあったんじゃないですかね。
高田 そうです。
冨士 だから基盤整備をして担い手集積型ではない集落営農型で10戸とか20戸でみんなでやっていこうというわけですね。
高田 そういう集落営農型の法人が5つくらいできています。
冨士 JA糸島のすごいところは、当たり前のようですが水田農業の基本に農地集積があることですね。
阿部 米から園芸への展開ということを高田専務はいわれましたが、東北はそうはいかない。農業構造もあるけれど、気象風土が違います。ハウス園芸をしても燃料油の使い方が西日本と東北ではまったく違う。だから東北はどちらかというと露地園芸が主流なんです。そういう意味で、地域による決定的な違いがあると思いますね。
◆WTO/FTA問題の根源、自給率の議論を国民に問う
村田 先ほどの冨士常務のお話のなかで日豪FTAはWTO交渉そのものになってしまう。日本農業の根本問題になるという指摘がありましたが、これについてはいかがですか。
阿部 私も日豪FTAはWTOの入口だと思います。そこで私は、全中が国民に自給率の議論を仕掛けるべきだと考えています。WTO/FTA問題の一番の根源はそこだと思います。つまり、自給率というものを日本国民がどう考えるのか。限りなくドルを持って世界から食料を買い漁ればいいのか。そうではなく基礎的な食料は半分以上は自給するというのか。少なくともこれは国民的な課題だと思います。このことをいまの農政は先送りしてしまっているわけですが、この議論をいま仕掛けなければいつ仕掛けるのかと思いますね。
村田 自給率の問題は政治的争点にならなければならないし、日豪FTA問題はそのことを問うていると思いますね。
阿部 自給率論は突き詰めて考えれば国益論なんです。その議論を国民に仕掛けないで、農業団体だけが中心になってWTO/FTA問題をやっても勝負にならないと思います。
高田 昨年12月に、70%の人がいまの自給率は低いと考えているという調査結果を内閣府が公表し(「食料の供給に関する特別世論調査」)新聞報道もされました。これによると、6年前の調査よりも自給率が低いという人が17.3%も増えています。高くても国産がいいという人が86.8%もいます。国民の多くは自給を望んでいるんですよ。
阿部 食料・農業・農村基本計画なかんずく品目横断的な経営安定対策などの政策をどうとらえるのかといえば、私は自由化の総仕上げだと考えています。なぜなら、自給率を完全に棚上げし、担い手論と農地開放の二つが中心に議論され、農地も半分くらい開放されたのと同じだと思いますね。だから、WTO/FTAと今度の新政策は無縁ではない。どこまで本気になって国がWTO/FTAに取り組むかその結果によって、今度の新政策が本当の意味で国内農業論なのか市場開放論なのか答えがでるとみています。
村田 今回の農政転換は「日本型」だといって、品目横断の直接支払いは「農業構造改革をめざすもの」として国民的理解を得ようというのが国の主張ですね。
◆健全な農村社会の存在が都市を支えている
阿部 「農政バラ撒き」批判を是認してそれにいかに応えるかというものだと私は思いますね。戦後の農政展開によって都市と農村の格差がそんなにない形で世界に冠たる高度成長をし、これまで農業・農村地域社会は健全に維持され、環境も保全されてきた。このことはいままでの農政「バラ撒き」効果ではありませんか。農水省はもっと胸をはって「成果」だというべきです。東京だけでは再生産できない。広い農村地域社会が健全に存在しているからこそ都市があるんだと思います。
冨士 二つあると思います。一つはWTO上の制約から、いままでと同じような支払い方だとどんどん助成金が削られることになります。だからバラ撒きの仕方を変え、1俵当たりではなく経営体へとしなければ農家にお金が回っていかないわけです。
もう一つは、土地利用型は面積当たりの収益をそれほど上げられないし、規模拡大しないとコストも下がらないので、それなりの農地集積した規模でないと担い手も育たないし所得も確保できないという構造改革の面から品目横断的経営安定対策に転換したということだと思います。
(「座談会 その2」へ続く)
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