食べる力が衰えてきている都会の消費者
◆実を結んできている生協の運動
坂田 初めに自己紹介も兼ねて、どのように「食」に関わっているのかをお話いただきたいと思います。
野村 東京の世田谷に住んでいます。20歳になる息子と18歳になる娘と夫の4人家族です。息子がお腹の中にいるときに、食品について非常に不安をもち、生協の生活クラブに入りました。どうしてそのときにそう感じたのかというと、TV番組で、毎日違う色の飼料を鶏に食べさせて、卵の黄身がどうなるかという実験を見ました。その卵を茹でて輪切りにすると、黄身がその日食べた飼料の色、黄色、緑色、オレンジになっているのを見まして、鶏が食べた飼料がこれだけ直接、卵に影響するのかとビックリしました。その話を近所の生活クラブの組合員の方にしましたら、「生活クラブでは飼料からキチンと管理している」といわれて、私も組合員になったわけです。
入ってみて卵や牛乳だけではなくお野菜も美味しいことに気がつきました。それ以来、根菜類は生活クラブのものに決めています。
坂田 スーパーのものとはやはり違いますか。
野村 20年くらい前は品質にかなり差がありましたが、最近はスーパーも気を使ったものを出しているように思います。それは生活クラブだけではなく、生協の運動が実を結んできているのかなと思いますね。
高岡 私も世田谷に住んでいて、18歳と16歳の子どもがいます。環境省登録の環境カウンセラーとして子どもたちへの環境教育をライフワークとして取り組んでいます。私の子ども2人が小学校に入ったときから環境省が主催する「こどもエコクラブ」に入り、身近にある自然とか食や水など生きるために欠かせないものすべてが環境だということを、街のなかを歩きながら見つけるという活動を10年続けています。そんななかで藍の種をもらい自宅で蒔いたらいまでは自分で藍染めする藍が取れてしまうほどになっています。そんなことを通じて、命があるものを食べないと命がつなげないということを子どもたちに伝えたいと思っています。
坂田 高岡さんも生活クラブの組合員ですよね。
高岡 組合員になって6年ですが、生協を使いこなしている人をみると消費者のプロだなと思います。
坂田 どういうところがですか。
高岡 根菜は生協がいいけれど、葉物は最近はスーパーでも鮮度が良く減農薬とか有機とかいいものがあると、上手に買い分けていますね。
◆韓国に比べて野菜が少ない日本の食事
坂田 秋さんは韓国から日本へ留学されて生活しているわけですが、韓国と日本では食についてだいぶ違いますか。
秋 当初は仕事関係で来日しましたが、思う所があり、留学生へと転向し、日本の古典文学、特に源氏物語を専門に勉強しました。そして、日本で結婚もしました。今は、文筆業の傍ら、カルチャーセンターなどで日韓文化の比較などを教えています。
食事については、基本的に外食をしていませんし、2人の生活ですから苦労はしますが、食べ物は残さず、捨てるようなことはしないようにしています。
坂田 韓国では野菜を日本人の7倍も食べていると聞きましたが、本当ですか?
秋 本当です。世界で野菜を一番食べる国だという話もあります。日本に来て食生活で一番困ったことが、外食すると野菜が少ないことです。例えば、定食屋で出てくるご飯とかメインの魚や肉の量はいいんですが、それ以外に付いてくる野菜の量が少ないんで、韓国人としては野菜を食べた気がしないんですよ。韓国ではたくさんの種類の野菜がついてくるので…
坂田 価格の問題もあるんでしょうね。昨年の11月から12月にキャベツとかをブルドーザーで潰して埋めていましたが、安く消費者に届けることができないかな。そうすればもっと食べられるようにようになるのにと思いましたね。
野村 スーパーでキャベツが1個100円で売られているのをみると、生産者が気の毒になりますね。100円で作業量に見合うのかなと思います。しかも、100円のキャベツだってすぐに売り切れるわけではないんです。
坂田 それはどういうことですか。 ◆味噌汁を作れない母親もいる 料理をしなくなった都市の主婦
野村 食事を作らなくなってきているんですね。とくに1人暮らししている若い人が…。
坂田 なるほど…
野村 最近ビックリしたのは、小学生の子どもを持つお母さんが味噌汁を作らないというんですね。試しに作ってみたら「まずい」といって子どもが食べないんです。
高岡 食べる力、上手にやりくりして食べきる力が落ちているかなと思いますね。例えば、大根を1本買ってきて、最初の日はサラダにし、真ん中はふろふき大根、端っこはおろしてとか最後まで美味しく食べきる力ですね。私は悪い都市生活者なので、葉はその日に食べられないと黄色くなるので「ごめん」といって捨ててしまいます。
家族の食事時間がバラバラで個食になっていることもあって、料理を作る元気をなくしていることもありますね。
野村 子ども大きくなって帰宅時間がバラバラになることは分かりますが、小学生の子どもたちにどうして食事を作ってあげられないのかと思います。味噌汁は一番簡単な料理ですよね。どうしてそれが作れないのかと思います。
秋 インスタントの味に慣れてしまうと、お母さんの料理に何か一味足りないという感じがするのではないでしょうか。
坂田 味噌の消費がどんどん減っています。食習慣が変化しているんでしょうね。
野村 子どもが小学校のときにアンケートをとったら、朝食で和食は1割でした。パン食でもサラダがついたりしているのではと思いましたら、菓子パン1個とかなんです。
◆食べることが薬という「医食同源」が根づいている韓国
坂田 韓国は家族で食事をすることは多いですか。
秋 家庭によっても違うと思いますが、基本的に儒教文化がまだ根強く残っているので、家族が揃って食事をするとか、家族単位で動く文化があります。
坂田 食事に対する考え方は日本とは違いますか。
秋 例えば、日本には独特の食べ物としておにぎりがありますね。なぜ、わずかな具しか入れずにご飯を食べるのか、不思議でしょうがないです。韓国にも海苔巻きのような食べ物がありますが、味がついた具がたくさん入っています。そして、おにぎりとお茶だけで昼食をすますというような意識は韓国にはまだありませんし、食事に対する意欲が強いのでキチンとした食事を摂りたがりますね。
野村 主食はなんですか?
秋 お米です。基本的に日本とそんなには変わりません。お米については、日本人と同じで自分の国のお米が一番おいしいと思っています。ただ、味付けは韓国は辛く、日本のは甘いですね。とくに外食するとすべてが甘いと感じるので、それが外食をしない理由の1つですね。
それから、健康志向が日本よりも強いと思いますし、食べることが薬になるという考えがあります。白米は体に良くないという考えが根強くあるので、日本に来る前には私の家では白米を食べていませんでした。特別な日には白米だけで食べますが、普段は雑穀を混ぜています。最近は赤米とか黒米があるので、それらを混ぜたりしています。いま私は玄米に黒米とかを混ぜて炊いています。
坂田 「医食同源」ということですね。
秋 もともとは中国から入ってきた考え方だと思いますが、現代の中国社会は社会主義であり、夫婦は共働きをしていて、一人子政策(少数民族は二人子でしょうが)をとっていて、家庭単位で食事するという文化がなくなりつつあります。その反面、今は変わってきていますが、韓国では女性が家にいて家族の食事を作るという習慣があるので、韓国の方が「医食同源」が実践的に根強く残っていると思います。漢方大学とか漢方病院が韓国では西洋医学に劣らないほどありまして、数年前からは、「漢方」という言葉を「韓方」と置き換え、統一して使っています。つまり、もはや漢(中国)の医方ではなく、韓(韓国)の独自的な医方だという意識からの「改称」であるようです。
しかし、日本は、同じ東洋であり、中国文化圏の国であるにもかかわらず、漢方医・薬がすごく少ないというのが、日本に来て感じたカルチャーショックの1つでした。漢方の思想は食べることにもつながるので、ナツメとか漢方の薬剤をお米に混ぜて炊いたり韓国ではしますね。
野村 医食同源という考え方は、ずいぶん前から良い考え方だと思っています。そしてできるだけそれを実践しようと思っているので、食費にはかなりお金をかけています。そのせいか、家族も含めてほとんど病院にいくことはありません。
坂田 家族単位でまとまって食事をするという習慣が東京では崩れてきていますね。
高岡 高校生になれば仕方がない面はあると思います。しかし、一番大事な時期である10歳くらいでも、多くの子どもが受験戦争に備えて塾に行くようになり、一緒に夕食を摂ることができなくなっていますね。 ◆値段もあるが産地も選択する大事な基準
坂田 秋さんは日本の野菜とかを見てどう感じていますか。
秋 スーパーで野菜を見ると同じ規格サイズできれいに並んでいますね。例えば、キュウリの立場にたってみると、凄いストレスを強いられて真っ直ぐに育てられていると思うんですね。自然に太陽に向かって育てないわけですから。そんなストレスを受けている野菜が本当に美味しいんだろうかという気がします。それは消費者の希望によるものなのか、誰の要望なのかよく分かりませんが…。
高岡 生活クラブの場合は、生産者と相対で価格を決めていますし、規格についても許容範囲は広いですね。ただ、相対で価格が決まっているので、市場での価格が安くなるとそちらで買う人が増えますね。
秋 値段も大事な基準の一つですけれど、産地も大事な基準ですね。韓国料理ではニンニクをたくさん使いますが、日本のニンニクは中国産に比べてすごく高いんですけど、産地を優先して青森のニンニクを買います。ネギも日本産を買います。
坂田 それはなぜですか。
秋 自分が関係しているボランティア団体で中国の新聞などを読むと、農薬などで危ないなと思うことがけっこうあります。それから、韓国ではいっさい輸入品を使わないという食品会社があり成り立っているように、自分が居るところの産地のものを食べることにこだわりがありますね。いわゆる「身土不二」という考え方ですね。
坂田 野村さんはどうですか。
野村 生協だけでは足りないので、スーパーでも買いますが、すべて国産です。アメリカとか南米とかからけっこう入ってきてますが、どんなに良い状態で育てられてもポスト・ハーベスト問題とかがありますから、買いません。
◆生産者は自信をもち責任を持って作って欲しい
坂田 地場のものを優先して買うわけですか。
野村 世田谷の地場野菜もスーパーには出てきますが、ちょっと信用していない部分がありますね。例えば、世田谷産と新潟産とか長野産の野菜が並んでいたら新潟か長野を選びます。
坂田 なぜですか。
野村 自宅の近所に畑がありますが、土を見ても美しくないんです。カチカチした硬い感じで、土づくりに手間暇をかけていないのではないかと思うからです。
高岡 いろいろだと思いますね。東京の生き物調査として有機農法をしている身近な農園にいくと農薬を使わないので、キャベツを育てることは紋白蝶を育てることだし、ニンジンを育てることは黄揚羽を育てることになるわけです。パセリは青虫が元気に食べてしまって、ほとんど葉がない状態なんです。そこ以外も何軒か見せてもらいましたが、1軒1軒ポリシーも違えば土も違いますね。
坂田 有機農法だとものすごく農家が努力しないと作物ができませんよね。収量もとれないから当然、高くないと生産者は困るわけだけど、安くしろと消費者はいうわけです。
高岡 動物性のものを一切使わず、農薬を使っていない庭木の枯葉などで堆肥を作っているんで、そこまでこだわるならとほとんど葉のないパセリを買う人もいるわけです。東京だからできる濃い関係だという人もいます。
野村 スーパーなどでも最近は顔写真つきで私が責任をもってこの野菜をつくりました、とやっていますね。自信をもって作っていると思うし、何かあったら直接いけますから、そういう人の野菜を私は買いますね。そういうのがもっと増えて欲しいですね。
高岡 消費者はわがままで悪いなと思いますね。本当はその時々にできたものをもう少し謙虚にいただく方がいいかなとは思いますね。
(「農村女性たちへ―消費者からのメッセージ その2」へ)
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