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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』−9
素材感覚から加工食品感覚へ


鈴木 正之 全農鶏卵(株)社長

 全農鶏卵事業の草創期に、現在の事業基盤となるいくつものプロジェクトに参画。その後、直販事業や製造・加工事業などを経験し、23年ぶりに鶏卵事業に戻ってきた鈴木正之全農鶏卵(株)社長は、これからの最大の戦略は、すべての受発注(物流も含めて)を統一的に行う「流通開発」にあると語る。そして、コンプライアンスについても、前向きに受け止め「コンプラを武器」にすることが生き残る道であり、「全農マークを信頼のマークへ」することでもあると語った。

鈴木 正之氏
(すずき まさゆき)昭和22年栃木県生まれ。宇都宮大学農学部農業経済学科卒業。昭和45年全農入会、平成5年全農畜産販売部加工品課長、9年全農ミート(株)取締役神奈川工場長、12年全農鶏卵(株)常務取締役、15年全農退職、全農鶏卵(株)代表取締役社長。
◆卵に始まり、卵に戻る

 ――鈴木社長の経歴を拝見しますと、鶏卵事業の草創期に携われ、久しぶりに戻ってこられたわけですね。

 鈴木 昭和45年に全農に入会し東京鶏卵販売所へ配属されました。当時は現在のようなパック卵はほとんどなく段ボール卵の時代でした。49年ごろにパック卵の販売をということでプロジェクトをつくり、量販店への販売ルートをもっている全農直販に出向し、全農の直営GPセンターをつくりました。これが原点となって全農鶏卵ができるわけです。
 その後、全農関連会社の直販事業と皆さんがあまり経験したことのない製造・加工事業を経験し「卵に始まり卵に戻ってきた」わけです。

 ――現在、GPセンターは一つも持っていませんね。

 鈴木 当時は産地GPでは戦えないだろうということで消費地にGPセンターをつくりましたが、いまは、産地との距離が短くなりましたから産地から直接ということになり、消費地GPはなくなりました。
 全農中央鶏卵センターが産地を管理していますので、そこからすべて仕入れて約150社2000店舗に販売しています(関西支店を含む)。そういう意味では鶏卵事業として、全農との機能分担がキチンとされているわけです。

◆ドラッグストアでも卵を売る時代に

鈴木 正之氏
 ――さまざまな分野の直販事業を経験してこられたわけですが、現在のマーケットの状況をどうみておられますか。

 鈴木 量販店は、従来の個店配送から配送センターを設けてそこに納品し、さまざまな商材を混載して店に配送するセンター化を急ピッチで進めています。それから、売場面積の実質的な拡大・売上げ増になるということで営業時間を長くしているのも最近の特徴だといえます。

 ――営業時間が長くなることで、品揃えも変わってくるわけですか。

 鈴木 卵の場合には素材に近いものですから大きな違いはありませんが、惣菜は大変ですね。平日の日中はお年寄り、夕方は夕食用に買い物をする主婦層、遅い時間帯は独身者というように時間帯で客層が違いますから、その客層に合わせて品揃えを変えてきめ細やかな対応をしていかないとダメですね。
 それから、食品スーパーなどでは、ドミナントといいますか地域集中型で一定の地域のお客は全部取り込もうという傾向も強くなってきていますね。さらに最近では集客のためにドラックストアでも卵を置くところがでてきています。

◆デフレにも強い、安くて完成された食材

 ――そうしたなかで鶏卵の状況はどうですか。

 鈴木 朝ご飯を食べない人や外食をする人が増えていますから、消費は減退しています。その反面で生産量は増えていますから生産過剰になっています。売り場では「しんたまご」のような特徴卵のウェイトが高くなってきています。しかし、特徴卵は定価販売ですから、レギュラー卵の価格が安いときは売りづらくなります。レギュラー卵が高いときには価格差があまりありませんから、それならということで売れるんですけどね。現在は、レギュラー卵の価格が安いので数量的には伸びづらい状況にあります。
 そうはいっても、鶏卵は非常に恵まれた事業だと思っています。なぜかといえば、日配品ですから商品も資金も回転しますし、冷凍品がありませんから死に在庫がないわけです。そして殻付卵にはほとんど輸入品がありません。さらにいえば、牛豚鶏肉のようにパーツに分かれない非常にシンプルな食材です。そして安くて完成されたたん白質だということで、このデフレで景気が悪い中でもよく買っていただけますしね。

◆流通開発がこれからの最大の武器

鈴木 正之氏
 ――販売戦略、商品戦略としてはなにを重視していますか。

 鈴木 豊富な品揃えと売り場の棚割りを任せてもらえる能力を持つことです。品揃えをするためには、さまざまな産地とネットワークを結び、戦略的な組織づくりをめざしています。
 商品戦略としては、店舗のある地域に密着した値頃感のある安全・安心・新鮮な、産地の顔がみえる卵をお届けすることが基本であると考えています。
 私は、商品開発と同時に、これからは「流通開発」が大事だと考えています。具体的には、各出先で受注はEOSとかEDIあるいはWeb、FAXや電話などで受注していましたが、それらすべてを統轄センター1カ所で集中して受け、そこで産地への発注から配車までの手配をすべて行う受発注システムで、これを更に進化させることがこれからの最大の戦略だと思っています。

◆過失が許されない時代に

 ――安心・安全では、鶏卵はすでにさまざまな取り組みをされてきていますが、今後についてはどうお考えですか。

 鈴木 産地については全農の指導のもと、鶏卵のトレーサビリティについて「鶏卵の管理システム及び管理方法」を進めていますので、私どもはそれにもとづいて一体となって進めていきます。いまは、過失が許されない時代になっています。どなたかが、「道徳のない経済は犯罪である」という言っていますが、日付表示も含めて産地の管理・指導を徹底することが重要となります。そしてコンプラを前向きにとらえ武器にすることが「全農マークを信頼のマーク」にすることですし、生き残る道だと考えています。全農マークに忠誠心を持つとか、自分の血を流すような思いを個々人が持たないと、コンプラ違反をしたりして絶対に良くならないと思いますので、そこが一番のポイントだと思いますね。
 そのためには、社員だけではなく、パートも派遣社員も含めて一体感を持つことが大事だと考えています。営業も含めて、あらゆる現場・前線の人たちの感性や創造性が重要なポイントになりますね。現場の人の「これはいいだろう」という判断こそが事故につながる可能性が大きいですからね。

◆全農らしさを広くアピールすることが大事

 ――情報開示も大切な要素だと思いますね。

 鈴木 いろいろな取引先から産地の情報開示を求められることが多くなりましたね。そうした要請に応えるために、全農と一体となって産地情報をWeb上などで開示する準備を進めています。
 いままでは鶏卵は素材という感覚だったと思いますが、これからは加工食品ととらえなければいけない時代です。加工食品ということになれば、産地の養鶏場は「食品工場」だという考え方に立ってキチンと環境管理と製造管理をしなければいけないということです。そうしなければこれからは生きていけない時代になったと痛切に感じます。

 ――「全農マーク」を本当に信頼されるマークにするには、いままでお話いただいたことの他に何が必要だと思いますか。

 鈴木 食べているものは変わりませんが、食べ方・選び方が変わってきていますから、畜産でいえば飼料原料から一気通貫で国産畜産物を供給していることの大切さとか、NON―GMO飼料についても米国での原料生産段階から通常のものとはキチンと分離して管理し、流通・生産しているなど、全農らしさを広報し多くの人に理解してもらうことが大事だと思います。
 それから、全農を外から客観的にみて、どういうポジションにいるのか、そして強さと弱さを知ることが大切ではないでしょうか。そのことで全農が存在することの社会的な重要性が本当に理解できるのではないかと私は考えています。 (2003.8.7)


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