◆農薬は「なんとなく嫌だ」
シンポジウムにさきがけて今春、農業者200人と金融・保険業などに務める人を中心にした非農業者250人に農薬への意識調査を行ったところ、農薬に対するイメージは、農業者では「農産物の安定供給」が1位だったが、非農業者では「体に悪い」がトップだった。
また、農薬を使うことに抵抗があるかどうかについては、非農業者の4割が「抵抗がある」と回答。その理由は「安全性に不安がある」が5割を超えたほか、「なんとなく感覚的に嫌だ」、「よくわからないから」という意見が多く、現場での農薬使用の現状などがほとんど知られていないことがわかる。
アンケートの自由回答では、「農家の労力軽減を考えると、自分勝手な気持ちで農家を苦しめていると思う」と理解を示す意見がある一方で、「現場を見ないとなんとも言えない」、「実体験がなく実感がわかない」など、生産現場で何が行われているかを知りたいと強く望む意見もあった。
(写真)
会場の様子
◆農薬は薄くして使ってもいい?
この日のシンポジウムに参加したのは、主婦や家庭園芸の愛好家といった消費者と農業者など合わせて100人。本山直樹・千葉大名誉教授が講演で、農薬の安全基準や有用性について紹介するたびに会場からは驚きの声があがった。
会場から「指定の希釈倍率を超えると問題になるのだから、なるべく薄くして使えばいいのでは」との質問が出たが、本山氏は「使用基準はそういうものではない。厳しい試験を経て決められており、濃くても薄くてもダメ」だと述べ、生産者側にも徹底するよう求めた。
また、「植物工場など密閉空間で農作物を育てれば、農薬を使わなくて済むのではないか」との質問もあり、これについては「植物工場は一旦、虫や病気が出てしまうと逆に培養地のようになる危険性がある。そもそも現在、事業として成功しているのは葉物野菜などだけであり、それだけで国民の食は賄えない」と指摘した。
(写真・左から)本山氏・石上氏・宮内氏
◆消費者の安全が産地の維持・発展になる
冒頭の調査では「農薬の使用者が本当に基準を守って使っているか疑問」と、生産者側への不信・疑念などを表す意見があったが、質疑応答でも「生産者はどんな点に気をつけて農薬を使っているのか」という問いが出た。
それに対しては2人のパネリスト、JAちばみどりの宮内貴志営農販売部次長と銚子野菜連合会の石上與一会長、が現場での取り組みを説明するとともに、異口同音に「消費者リスクと生産者リスクは同じ」だと強調した。
宮内氏は「消費者の安全と健康を守ることは、産地の維持、継続につながる」と主張。だからこそ消費者のリスクとなる農産物は絶対に出荷させないということだ。
同JAでは、組合員に農薬適正使用研修会への参加を徹底させたり、収穫間近のほ場にピンク色の旗を立てて近隣の生産者が農薬を飛散させないように気を配る「桃旗運動」などをすすめている。「桃旗」を立てるのは「盗難を助長する」と、難色を示す組合員もいるが、安全性確保のために必要だと理解してもらっているという。
石上会長は「消費者が農薬に敏感なのと同じく、生産者も超がつくほど敏感。1人がミスをすると産地全体が大きな被害を受けるため、使用基準は100%遵守。絶対に間違いがないよう心がけている」と述べた。
また会場からは「できるだけ農薬を使わない方法を考えるべきでは」との意見も出たが、宮内氏や石川氏がフェロモン剤(交信攪乱剤)や飛散低減ノズルなどを写真付きで紹介すると「(そうした技術や取り組みは)知らなかった」との声があがり、現場での取り組みや技術を地道に伝えていくことが必要だと感じられた。
(写真はJAちばみどりの桃旗の様子)
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