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商社の農業参入 鈴木俊彦(農政ジャーナリストの会) 前半

食と農のあらゆる分野に 
積極的に参入する総合商社(1)

 このところ、食品産業、外食産業、建設業などの農業参入が注目されているが、その本家本元は総合商社である。ジェット機からラーメンまで、商社の営業領域は広範だが、食料品も伝統的に主要な品目だ。そこで最近の商社の農業参入の動向を探り2回にわたり掲載する。今号は、三菱商事、伊藤忠商事、丸紅について掲載する。

◆畜産から始まった商社の垂直的統合


 商社の農業へのバーティカル・インテグレーション(垂直的統合)の歴史は約40年前に発する。それは畜産分野から始った。輸入飼料の供給と畜産物の引き取りという“往復ビンタ”方式で、畜産農家は契約飼育のもと、トリ小作、ブタ小作の形で商社に統合されていった。
 南九州でブロイラーや肉豚の多頭羽飼育に着手した三菱商事のジャパンファームは、グループの日清飼料や菱和飼料と連携して食肉をジャスコなどの量販店に供給した。まさにこの分野での先駆者だった。
 現在では、畜産分野に留まらず青果物を中心とする園芸分野でも、各商社は数々のインテグレーションを展開している。

 

◆食品分野に伝統的に重点をおく三菱商事


 三菱商事は伝統的に食品分野にも重点を置き、系列の4食品卸を統合して菱食を設立、食品卸業界のリーディングカンパニーとなっている。
 また、ダイエー・ロジスティックス・システムズよりローソン向け物流システムの営業譲渡を受け、コンビニチェーン向けチルド(冷蔵食品)物流のフードサービスネットワーク(FSN)を設立するなど、食品部門のスタンスは極めて強力である。
 三菱商事の最近の動きで注目されるのは、伊藤ハムに追加出資して20%を握る筆頭株主となったこと。伊藤ハム自身も三菱商事傘下入りで信用を高め、経営再建をめざしている。三菱商事が筆頭株主となっている日本ハムや系列下の米久などとの相乗効果も小さくない。

 

◆チャレンジ精神が旺盛な伊藤忠商事


 農業部門への意欲満々な総合商社は、やはり伊藤忠商事だ。会長の丹羽宇一郎氏の財界における発言力は高まる一方であり、「日本プロ農業総合支援機構」(J・PAO)の理事長を務め、かの高木勇樹副理事長(元・農水次官)とともにプロ農業者の支援に力こぶを入れている。
 丹羽氏自身の農業ビジョンは「日本の農業が自給力(自給率ではなく)をつけていくことが大事。そのためには経営感覚に優れたプロ農業者が必要で、日本の農業システムを変えていかなければならない」というもの。
 このJ・PAOの副理事長には、高木氏とともに瀬戸雄三アサヒビール相談役、伊藤元重東大教授も就任、理事にはクボタ、住友化学、ヤンマー農機、カゴメなどの役員も顔を並べている。「農地は“所有するもの”でなく“利用するもの”」というのが丹羽氏の持論でもある。
 伊藤忠商事は、アミノ飼料などとタイアップし、霞ヶ浦畜産などで肉豚を飼育して、プリマハムで加工、大手量販店に供給している。また伊藤忠は世界最大の青果資本ドール・フード(米国カルフォルニア州)の日本法人ドールと提携して生鮮青果の加工・物流センターを設立し、各地の農業生産法人と業務提携をして、イトーヨーカ堂、セブン・イレブンなどと農産物の供給契約を結ぶ作戦を展開している。
 そのドールは、北海道、宮城、福島、千葉、岡山、長崎、宮崎の国内6ヵ所でブロッコリーを主に、カボチャ、ニンジン、スイートコーンなどの生産にも着手している。
 伊藤忠は、吉野家などの外食・リテール事業にも手をそめ、グループのファミリーマート向けに東北の良質米を供給、業務用の米飯会社「フードエクスプレス」を設立し、炊飯を弁当業者に売り込んでいる。単位農協としては大規模な生活事業展開で知られるJAいずもが、ファミリーマートの店舗経営に参画している動きも、JAグループとしては留意すべきだろう。
 総じて伊藤忠は、商社業界のなかでは財閥系にないアグレッシブなチャレンジ精神を売り物にしている。

 


◆穀物取引で強み発揮する丸紅


 丸紅は創業150年を伊藤忠とともに迎えた。食品分野では伝統的に穀物トレーディングに強みを発揮し、小麦、トウモロコシ、コーヒー豆などの取り扱いでは商社業界トップを誇る。
 提携先のダイエーグループ向けに産地を指定した良質米の調達に乗り出す一方、福岡米穀などの株式を取得し、量販店や外食産業へのコメ販売に拍車をかけている。また「ライスワールド」を設立し、コメ小売にも進出している。
 川下では食品スーパーのマルエツや東武ストアに出資、さらにダイエーの事業スポンサーに選定され、6兆円を上回るイオン、ダイエーの巨大小売集団と提携してている。国外では、中国の食糧備蓄管理総公司(シノグレイン)と包括提携し、米国や南米から買い付けた大豆などの穀物400万トンをシノグレインに納入するというマンモス取引圏も形成している。
 丸紅の動向として注目すべきは、食料・原油など資源問題を中心に詳細なレポートを発表して「食料小国」の危機を訴えるシンクタンク・丸紅経済研究所の存在である。同研究所長の柴田明夫氏は農水省食料・農業・農村政策審議会の委員を務め、国策にも関与しながら国際的な食料争奪戦の実態を解明し世論を喚起している。
 丸紅の柴田氏と伊藤忠の丹羽会長の言動には、JAグループとしても重大な関心を寄せなければなるまい。両氏ともに有力な減反廃止論者としても知られている。
 (後半へ続く

(2009.09.04)