お互いの“痛みや辛さ”を
理解しあえる関係に
◆「売り買い」だけに風化していないか
「モノのやりとりだけだと、取り引きだけのギスギスした商売上の関係性だけで終わってしまい、産地の置かれている状況など“立体的な”話ができない」産地と生協組合員や生協の職員とが「お互いの痛みや辛さを理解」し合えるようにしていこうというのが今回の「まるごと産直」だと、ながさき南部生産組合の近藤一海代表。
「産直はだれが買ってくれるのか消費者の顔が見えるので、生産者のモチベーションが上がる」。今回の「まるごと産直」で「ユーコープとの関係性が深まり、何か相談があるときに積極的に話をさせてもらうところができたという“安心感”がある」とJAふらのの青果部園芸課の井出紳也課長。
ユーコープの産直事業は、コープかながわなど加盟生協のも含めれば30数年の歴史がある。基本的には「品質・価格・数量」の安定をめざす原則(組合員参加、出どころ確か、品質保証、パートナーシップ、持続可能で環境配慮)で、生産者と組合員の結びつきを深めながら今日まできた。
しかし、「単に売り買いだけに“風化”していないか」という問題や、農業を取り巻く環境や政策が変化する中で「産直の意義や定義の見直し」「産直の可視化」「将来を見据えた産直産地の再編」などが生協産直の課題としてでてきたと、ユーコープの山口友範安全政策推進部長。
◆「まるごと産直」5つの基準
そして、09年度から青果物の分野で産直協議会を立ち上げ、産直産地が抱える問題や生協に対する要望などについて、対等な立場で率直に語り合いコミュニケーションを強化し、具体的にいくつかの点で改善もされたという。
さらに、産地確認会を開催し、生産者・生協組合員・生協の3者で生協GAPの運用確認を行うことで「産直への信頼感を形成する」ことにもしている。
しかし、それだけでは、産直の課題解決にはならないということが協議会で「双方の共通認識となった」。
そのために、
▽一定の取引規模で安定した取引が可能
▽多品種で扱い期間が周年可能(順ずる)
▽先進事例の取り組み実績
▽生協組合員・コープ役職員と交流活動の積み重ねがある
▽コープの商品政策実現を双方で目標をもって取り組んでいける
産地という考え方を満たす組織と協議したうえで「まるごと産直」協定を結び、その産地で生産された生産物のなかで「ユーコープの産直基準を満たす商品」は、担当執行役員レベルですべて産直にできることにした。
JAふらのもながさき南部生産組合も、ユーコープあるいは加盟生協と20年以上産直産地として提携してきた「産直協議会の中核となる組織」で、「バイヤーと生産者が一体となって活動できる産地」だと山口部長がいうように、お互いに強い信頼関係ができている。
ユーコープとしては、産地(JAや生産組合)単位で「まるごと産直」の認定をすることで、産地とのつながりをさらに深め、お互いの課題設定に携わり合意の上で数値目標をもって取り組んでいくという。
JAふらのの場合、いままで主要な産直品は4品目だったが、これを10品目に拡大する予定だ。ながさき南部生産組合の場合には「細かい品目までいれると20品目くらいになる」と近藤代表。両組織とも具体的なことはこれから協議する部分があるが、産地確認会をはじめ生産者と生協組合員・役職員との交流計画が具体的に進められている。
◆組織のトップ同士が調印した意義は大きい
「安定的に供給していくために産地としてどのようなことに取り組まなければいけないか。生産者とも話し合っていく」(井出課長)。
「事業ベースなら、担当者レベルですむが、今回は組織のトップ同士に南島原市長が立ち会って調印したのだから、まったくいままでとは意味合いが違う」(近藤代表)。ながさき南部の場合は、災害発生時の相互支援、グリーンツーリズム(体験民泊)、食育などを含んだ協定になっており、災害支援など行政も関与する問題があるので市長が立ち会ったということで、一歩進んだ産直協定といえるだろう。
ユーコープにはいま150以上の産直産地があるが、そうした産地へ拡大していきたいと考えている。
◆全国生協「3つの危機」と産直への期待
生協の産直には長い歴史があり各生協や事業連合で考え方などに若干の違いはあるが、生協事業の柱として推移してきたことは間違いないだろう。しかし、今日までには、2002年ころから多くの生協産直農畜産物で明らかになった「産地偽装表示」問題に端を発した生協産直の見直しにより「生協産直の青果物品質保証システム」(通称「生協GAP」)が構築され、次第に産直産地に導入されはじめ、生協組合員の信頼を回復してきた。
しかし、産直とは直接的な関係はないが、08年1月判明の「中国産冷凍餃子中毒事件」は、生協への信頼を大きく損ない「生協への信頼再形成」が最優先課題となった。さらに、その後の世界的な経済危機は生協組合員も直撃。全国の生協は「経済・くらし・事業の3つの危機」への対応を迫られている(第11次全国生協中期計画案)」。
日本生協連は、この「11次中計」の「基調」で「商品力強化」の一つとして「産直事業を強め、日本の食料・農業を大切にする活動を進めます。農業生産現場への関わりを広げ深める」。課題と目標のなかに「コープ商品と産直商品」という項目を設け、「産直産地ネットワークやGAP構築の取り組みを進める」としている。そこには「優秀な産地は(量販店などと)取り合いになる」(矢野日本生協連専務)という危機意識と生協が開拓してきた産直事業への期待が込められているのではないだろうか。
09年6月には日本生協連が「生協産直は日本の食の未来を創りつづけます」と表紙に大書した「全国生協産直レポート09」を発行した。地域生協や事業連合にはあるが、日本生協連がこうした冊子を発行したのはこれも初めてのことだ。
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ユーコープだけではなく他の地域生協や事業連合でも産直の見直しなど新たな展開が進められている。例えばパルシステム生協連ではここ数年進めている「100万人の食づくり」運動で、「パルシステムの大きな特徴である産直に焦点をあてて、その意味を伝える」と、現在、同生協連が取り組んでいる産直活動の一部を11のプロジェクトに整理し「プロジェクト11」と名付けて推進していくことにしている。
また、コープネットでは、飼料米を給餌した豚や卵への取り組みを「産直のめざすもの」の具体化と位置づけている(別掲記事参照)。
こうした動きが、全国生協の「3つの危機」を打開する力となり、生協産直の新たな展開へとつながっていくのか注目していきたい。
(写真)
JAふらの生産者のこどもたちが店舗で販売を体験。後継者の育成につなげる(コープかながわとの交流)