いよいよ自民党が政権公約を発表した。農政の公約をみると、民主党とあまり違っていない。両党とも強調しているのは、農産物の価格が下がったときに農家の所得を補償する政策だ。違いは補償する農家をどう決めるか、という点にある。自民党は「意欲ある農家」で、民主党は「販売農家」だ。
自民党がいう「意欲ある農家」は以前から政府が使っている言葉だ。まるで「意欲のない農家」という怠惰な主権者がどこかにいると思っているようだ。一方民主党がいう「販売農家」は全農家数の48%に過ぎない。残りの52%は農産物の販売額が50万円以下だったり、5アール以上の農地を持っているがいまは農業をやっていない農家だ。こうした農家も主権者だが所得は補償されない。
2年前の参議院選挙で民主党が圧勝したときは、全ての農家を対象にして所得補償政策を創設するという斬新な政策を、3大公約の1つとして高く掲げた。これに対して自民党は構造改革に逆行するものだと激しく批判した。両党の争点は明瞭だった。そして、多くの主権者はこの公約を支持し、民主党圧勝の主な理由になった。今度は自民党はそうした批判をしないで、補償の対象を広くして民主党に近づけた。民主党は補償の対象を狭くして自民党に近づけた。両党で政策を近づけ、永続性を保つのはいいことだ。しかし、農政の理念が分かりにくくなる。
分かりにくいのは、政策の目的がはっきりしていないからだ。なぜ農業者だけ所得を補償するのか。いまや全労働者数の3分の1を占める非正規労働者の所得は、なぜ補償されないのか。理由は、農業者は食糧自給率の向上という国家目的に貢献しているからだ。だから国家は農業者に報わなければならない。貢献しているのは食糧を作っている全ての農業者だ。だから補償の対象は「意欲ある農家」や「販売農家」だけでなく、全ての農家にすべきなのだ。そうすれば、この政策の目的がはっきりして、多くの主権者が支持するだろう。
もう一つ言いたい。そもそもなぜ価格が下がることを想定するのか。輸入自由化を前提にしているのではないか。価格が下がらない政策を採れば、こうした政策は必要ないのだ。それには従来の枠を超えた新しい発想で政策を競い合い磨き上げることだ。例えば米粉米や飼料米への支援策を抜本的かつ集中的に充実させて、国産米の巨大な市場を新しく創り出す政策である。
(前回 農産物の輸入自由化で民主党が言いわけ)