主要政党の選挙公約をみると、各党とも農政の最重要目的として、食糧自給率の向上を掲げている。しかも数値目標さえ示している。だがそのための具体的な政策が分からない。
自給率を向上するには、輸入食糧を国産食糧に代えればよい。こんな分かり易い政策はない。
政治課題として、食糧自給率の向上をいうとき、それは、カロリーでみた自給率だ。つまり穀物などの自給率だ。腹が空けば激しい抗議運動が起きることは、昔も今も、つい最近も世界の各地でみられたことだ。嗜好品などの食料も大事だが、不足したからといって社会不安が起きることはない。
わが国で最も重要な穀物は米だが、いま米は余っていて減反をしているのに輸入している。米の輸入をやめれば、自給率は確実に向上する。だが、そうした政策を掲げている政党は少ない。理由は何か。
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理由の1は、十数年前わが国はWTOの前身であるGATTで、米の輸入を容認したからだという。だが、それは輸入の機会を提供したに過ぎない。輸入義務ではない。このことを政治はきちんと認識し直すべきだ。官僚に任せてはならない。WTOなどの自由貿易体制を見直すべきだ、とする政党は少なくない。
理由の2は、アメリカからの強い要求があるからだという。だが、アメリカは米の輸出にそれほど強い関心を持っていないのではないか。最近のアメリカの米の対日輸出額は約150億円に過ぎない。アメリカの全輸出額は約150兆円だから、1万分の1にすぎない。中止しても輸出額は1万分の1減るだけだ。だから、それほど大問題にはならない。アメリカとの関係を対等にするというのなら、また価値観を共有する同盟国というのなら、目くじらを立てるほどの問題ではないだろう。
理由の3は、財界の強い要求である。多くの政党は金権に弱く、財界に弱い。これが最も大きな理由だ。国内にこうした不協和音があれば、アメリカはそれにつけ込んで、僅かな国益でも強く主張するのだろう。
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財界を含めて、食糧自給率の向上、そのための米の輸入中止に国論を統一することが、最も重要な課題だ。心ある政党は、こぞってこれを政治課題にし、自給率向上の象徴的な第一歩にしてほしいものだ。そうすれば、その政党の農業重視の姿勢が鮮明になり、大多数の農業者から信頼されて、熱い支持が得られるだろう。
(前回 2大政党の農政公約は曖昧)