市場原理主義の農政は、小規模な農家を市場競争での敗者と勝手に見なして、農業からの撤退を求めるものだった。ここには大きな問題があった。つまり国民の生存にかかわる食糧生産という重大な政治判断を、目先の私利私欲だけを追求する市場に任せてよいのか、という問題である。
民主党は2年前の参議院選挙で、大規模農家だけでなく、小規模農家をも重視する政策を掲げ、国民からの圧倒的な支持を得て大勝した。こんどの衆議院選挙でも、この流れを加速させて圧勝した。いよいよ、この政策を実行するのだが、初志を誠実に貫いてほしいものである。
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市場原理主義農政の国際版は農産物の貿易自由化である。長く続いた自民党農政は、輸入自由化を進めて、その結果、食糧の自給率を41%にまで落としてしまった。そして農村を疲弊させてしまった。国民はここに大きな不満を持っていた。
民主党は貿易の自由化を進めるが、食料自給率の向上を損なうことはない、といっている。自由化の結果、米価が下がれば補償するというのだが、いったい、どの程度下がると予測しているのだろうか。
米価は大幅に下がると予想されるが、その場合、この政策は多額の財政負担に耐えかねて、またしても財界主導の市場原理主義農政に舞い戻ってしまうのではないか。
また、その場合、農家の収入の大部分が補償金、つまり税金からの施しになってしまうが、そうなってもよい、という政策なのだろうか。そのとき農業者の誇りはどうなるのか。人間の尊厳など、市場は無視するが、政治は無視してはならない。
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民主党は、自由化ではなくて、それを押し進めるWTOの大原則であるところの、農産物の増産を禁忌とする原則を修正して、農政の基軸を増産政策に転換してほしいものである。そうすれば、国民からのさらに大きな支持を得て、政権の基盤を磐石にできるだろう。
民主党は多数に奢ることなく、他党の意見も謙虚に聞きながら、充分に検討することを期待したい。
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最後につけ加えたいことがある。それは選挙の終盤で、民主党のある有力な幹部(1、2)と農協組織との間で行われた輸入自由化問題についての激しい論争である。民主党は農業重視の姿勢を、もっと丁寧に説明すべきだし、農協は今後、組織としての政治姿勢を、真剣に検討すべきだろう。両者の忌憚のない話し合いを、早急に行ってほしいものである。
(前回 米の輸入中止を政治課題に)