コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
直接所得補償は低米価への準備か

 5日発表した全中の政策提案に対して 農水大臣は一応評価はしているが、身勝手な要求だ、という主旨の発言もしている。互いに説明不足ではないか。両者のぎくしゃくした関係を放置しておくことは、決してよいことではない。
 かつて、農協は民主党の政敵である自民党の有力な支持団体だった。しかし今度その自民党に退場を迫り、民主党に政権を交代させたのも農協に集まった農業者たちだった。

 いくつかの問題を解きほぐそう。全中の政策提案に対する農水大臣の発言は、米の新しい補償制度について、農協が「非常に強い関心と期待を持って・・・いることは、決して悪いことではない」というもので、やや斜めに構え、1つの意見として聞いておくという姿勢である。発言の中では「自分たちの・・・ことばかり書いてある」とも言っている。
 ここには、全中の提案がほとんど全ての農業者の意見を理事会で集約したものだ、という認識がないようにみえる。
 一方、全中の提案では、この補償制度を旧制度に追加する「米の計画生産参加者への追加メリット対策」と位置づけているが、やや斜めに構えた過小評価ではないか。

 はじめに、農協側の説明不足を指摘しよう。新しい補償制度は、これまでと違って、補償単価をいわゆる生産費にとったことで岩盤ができたことを、もっと高く評価すべきではないか。それは農業者にとっての「メリット」だけを考慮したのではなく、食糧安保のために食糧自給率を向上させる、という国家戦略に基づく補償制度であることを、もっと高く評価すべきではないか。
 国家戦略にまで引き上げた自給率の向上は政府与党だけでなく、全ての主要政党がかかげる公約だった。しかも数値目標まで掲げた。しかし、この政策提案では「自給力」という旧来の言葉が未だにあちこちで使われている。
 また、米粉や飼料米などに対する補償が減反非参加者も対象にすることを批判している。減反参加者への「メリット」がないというのである。しかし、民主党の初心は減反非参加者が多い小規模農家を含めて、規模や年齢にかかわらず全ての農家を補償の対象にすることにあった。
 これに対して、農協は減反非参加者の多い小規模農家を除外せよ、というのだろうか。説明不足は否めない。

 つぎに、政府の説明不足だが、この補償制度は米価下落を準備し、それに対応するための制度ではないか、という疑問が拭いきれない。政府は貿易自由化を進めるが農業振興を損なうことはない、この補償制度があるから心配しなくてよい、というのだが、自由化によって米価が下がったとき、補償金は莫大な金額になる。政府はこの負担に耐え切れるのだろうか。こうした強い疑念を晴らさねばなるまい。
 また、政府は直接補償の意味について、補償金は役場や農協を通して農業者に支払うのではなく、農業者に直接支払うことだと強調している。しかし、これまで使ってきた本来の意味はそうではない。これまでは、価格を高く維持する方法で、つまり消費者の負担で農業者の所得を維持してきたが、これからは価格維持はやめ、価格は市場に任せて、その結果、価格が下がれば政府が財政負担をして農業者の所得を直接維持する、というのが直接補償の本来の意味である。
 これは、間接所得補償から直接所得補償へとか、消費者負担から納税者負担へとか、価格政策から所得政策へとか、農業保護の透明化とかさまざまに言われ、それが世界の潮流だ、などと言われてきたものである。政府はこの潮流を肯定するのか、そうすることで国家戦略の自給率向上ができるのか、もっと丁寧に説明すべきだろう。


(前回 補償単価をどうするか・・・読者への答え

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(2009.11.16)