民主党は自由化を進めても、日本の米は旨いから充分に競争できる、と認識しているのではないか。このことの誤りは前稿で述べた。前稿の要点は、もしも日本が自由化を進めれば、輸出国は日本人好みで、日本の国産米とほとんど変わらない旨さの米を作って輸出してくるだろう、しかも今の国際米価と同じ価格で輸出してくるだろう、というものだった。
　では、どれ程の価格で輸出してくるだろうか。

◇

　最近の国内外の主要な米価の資料をみてみよう。すべて玄米60kg当たりに換算してある。
１．　全農の相対契約基準価格　　　　　　１万4677円
２．　シカゴ商品取引所　　　　　　　　　　       2331円
３．　タイ国家貿易取引委員会　　　　　　    　2673円
４．　アメリカ農務省　　　　　　　　　　　    　　 1993円
５．　日本のＳＢＳ米　　　　　　　　　　　         9244円
　このうち、１．は全農が発表している最も代表的な国産米の米価である。もちろんジャポニカ米である。２．から４．まではインディカ米で、代表的な国際米価である。最近ふたたび高騰しているが、この程度の安価である。５．は政府が実際に輸入業者から買ったジャポニカ米の輸入米価である。

◇

　はじめに２．から４．までの国際米価をみてみよう。この価格に日本までの輸送費などの輸入経費を加算した3000円程度が輸入価格になるだろう。最近高騰したとはいえ、１．の国内米価の５分の１である。だから、もしも輸入の自由化を進めれば、国産米の価格も3000円程度に下がってしまうだろう。
　これに対して、次のような反論がある。日本の米は旨いから、それほど安価にはならない、というのである。反論の根拠は、５．の米価だという。実際に輸入されている日本人好みの旨い米は、この程度の高価で、１．の国産米と比べてそれほど大きな差はない。この程度の差なら輸入米と競争しても勝てるだろう。戸別所得補償制度を整備すれば、充分に勝てる。このように民主党は考えているように思われる。だがこれは誤りである。

◇

　やや詳しくみてみよう。周知のように、いま政府は毎年77万ｔの米を輸入している。そのうちの多くはインディカ米で、日本人が米飯で食べると不味い米である。だから加工用や飼料用や海外援助用に使われている。
　しかし、77万ｔのうちの10万ｔは、日本人が米飯として充分に旨いと感じられるジャポニカ米である。これは歴代の政府が、米の内外価格差は食味を考慮したとき、どれ程になるか、をみるために枠を作って輸入しているものである。つまり、国産米のように旨い輸入米の価格と、国産米の価格とを比較するのだ、といって枠を作って輸入しているものである。

◇

　旨いから高価だ、と言いたいのだろうが、前稿で述べたように、それは誤りである。もしも自由化を進めれば、日本人の食味に合う米が3000円で輸入されることになるだろう。その結果、国産米の価格も3000円にまで下がるだろう。
　日本人が旨いという米、つまりジャポニカ米は世界でそれほど多く生産されている訳ではない。世界の大多数の人は、インディカ米の方が旨いと感じているので、インディカ米を作ってインディカ米を食べているのだ。インディカ米の方が安価だから、インディカ米を食べている訳ではない。日本人好みのジャポニカ米は旨いから高価だ、というのは誤りなのである。旨いというのは日本人の独りよがりだし、高価だというのは前稿で述べたように間違いである。

◇

　５．の輸入米の米価が高いのは、10万ｔ程の少量ではあるが、日本が高価で買うので、高価で売っているのである。もしも日本が輸入の自由化を進め、大量に輸入するようになれば、輸出国の間で激しい競争が行われ、その結果、価格はコストを償うぎりぎりのところにまで下がるだろう。
　コストは、日本人好みのジャポニカ米もインディカ米も種子が違うだけで同じだから、インディカ米の国際米価の3000円にまで下がるだろう。この輸入米との競争の結果、国産米も3000円にまで下がる、と考えられるのである。そうなれば、食糧需給率の向上どころか、日本の米は壊滅するだろう。
　こうした認識が民主党にはないのではないか。戸別所得補償制度では、とても支えきれないだろう。この点が民主党農政への最大の不安である。
　（前回　民主党農政の弱点･･･米の品質の誤認？）

　◇

（「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。）