いま、政治が行うべきことは、値引き圧力の原因を取り去ることである。すなわち、供給量が需要量より多くなる事態を避けることである。そうすれば、値引き圧力は自然に解消して、米価は無理なく回復する。これこそが、解決の本筋である。
そのために、なすべきことは、第1に棚上げ備蓄を着実に実施することである。昨年の選挙公約どおりに300万トンを棚上げ備蓄すれば、米価は直ちに回復して急上昇するだろう。
当面は100万トンを棚上げ備蓄するようだ。少なすぎるが、いますぐ実施すればよい。3年で更新することにして、いまの備蓄米のうち、33万トンを非主食米として放出し、33万トンを新しく追加し、備蓄米として買えばよい。そうすれば、主食米市場で供給量が不足して、米価は下げ止まるだろう。いや、どころか上がりだすだろう。買い手は値引き圧力などかけてはいられない。
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政府がなすべき第2の方法は、米粉などの新しい需要の拡大である。ここには莫大な需要が潜在している。それを掘り起こすには、米粉の需要者である製パン業者への大幅な助成をすればよい。製パン業者が輸入小麦を使うよりも、米粉を使うほうが有利になる状況を政治が作りだせば、競って米粉を使うだろう。そうなれば、主食用米の市場で供給量が不足して、米価の下落を抑えられる。
学校給食で使う米粉パンへ手厚い助成をするのもよい。これは原因療法になるだけでなく、長期的にみた食糧自給率向上の重要な戦略になる。また、全国の農村部での、いわゆる6次産業化の有力な一部にもなるだろう。
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こうした本格的な米価回復策を立てたうえでの不適切な値引き圧力の監視なら、手放しで賛意を表せるが、そうでなければ、効果はあまり期待できない。ザルに水を貯める努力をしているように見える。いったい、政府は本気になって米価の下落をくい止めようと考えているのか、と疑いたくもなってくる。
政府が米価の下落を放置したらどうなるか。それは、稲作崩壊の第1歩になるだろう。それに続く稲作崩壊への道すじは、次のようになるだろう。
米価の下落を放置しておくと、戸別所得補償制度の補償額が膨らんでくる。そして、やがて財源不足を理由にして補償額が切り下げられる。その結果、稲作が縮小し、そして遂に崩壊する。それは食糧自給率の急速な低下をもたらして、わが国の食糧安保を危機的状況に陥れるだろう。
こうした悪夢を振り払うには、対症療法だけでなく、前に述べた2つのような原因療法を施すしかない。
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最後につけ加えたい。それは、買い手側に「優越的地位」を与えてしまった売り手側、つまり農協の深刻な反省と、それを逆転するための的確な戦略と政策要求、これらが、いま厳しく求められているのである。健闘を期待したい。
(前回 民主党農政の弱点・・・風土の軽視)
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