また、自民党は公約の中で「JAこそ地域の担い手」だ、と言ってJAを高く評価している。だが、反対党の民主党は政権交替以後、9か月も経っているのに、まだ農水大臣は、JA全中の会長と公式には会ってさえいない。JAに対する大人げのない対応である。この点からみても、両党は対照的である。
これまでの経緯をみると、民主党の地方組織は労組が中心になっていた。一方、自民党はJAを大票田にしていた。だから、選挙のたびごとに労組とJAは互いに反目し、仇敵どうしの関係になっていた。だから、今でも農業者の現場の声が、民主党には届きにくいのだろう。
しかし、こんどの選挙ではJAは中立を保っている。民主党はこのことを評価すべきだ。そしてJAとの良好な関係を築き、農業者の声を吸収することに努めるべきだろう。
そうした現場主義もだいじだが、それ以前にだいじなのは、農政が何を目ざすか、という農政理念だろう。
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昨年の衆議院選挙で自民党が大敗したのは、農業者の声を吸収する力の衰えが、主な理由ではない。自民党の農政理念が農業者から拒否されたからである。
逆に、民主党が大勝したのは、農業者の声を吸収する力が強くなったからではない。民主党の農政理念が農業者に受け入れられたからである。
これまでの自民党の農政は、政策の対象にする農家を選択して、「意欲がある農家」と認定し、そこに施策を集中する、というものだった。この政策が、「意欲がない」と認定された多くの農家から反発を受け、農業者から否定されたのである。
一方、民主党の農政は、年齢や経営規模にかかわらず、全ての農家を農政の対象にする、というもので、多くの農業者から受け入れられ、政権交替の原動力になった。
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以上のように、自民党は現場に密着しているが、その理念にやや難がある。民主党は理念は支持されているが、現場からやや遊離している。
自民党は、3年前の参議院選挙で敗北した後、「選択と集中」という選別政策を修正した筈である。それは選挙目あての一時的な修正に過ぎなかったのか。そうでないのなら、本格的な修正で、今後は選別政策と決別する、ということを明確に示すべきだろう。そうすれば、こんどの選挙で立ち直ることができるだろう。
民主党は、農政理念にはもっと自信をもっていい。その上で、谷垣総裁の発言を暖かい助言と考え、現場の農業者の本音を素早く吸収する力を強めねばならない。それには、これまでの経緯を乗り越え、心を広げてJAとの関係改善を図るべきだろう。復活した政調の玄葉光一郎会長は「農業団体とも活発に意見交換したい」と言っている。そうすれば、現場の声が届き、昨年からの政権交替が定着するだろう。
両党とも、互いに緊張関係を保ちながら、現場の声を聞き、政策を磨きあげ、選挙戦で健闘してほしいものである。その他の政党の批判を真摯に聞きながら。
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