コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
農政の与野党協議を急げ

 先日の選挙の結果、参議院で与党が少数派になり、いわゆるねじれが始まった。大規模な政界再編は、当分のあいだ起きないから少数与党が続く、と多くの事情通が予想している。そうなれば、与党が農政を執行するための法案を、意のままに成立させることが、できなくなる。
 しかし、だからといって、政治の空白は許されない。農政の停滞は一刻も許されない。次の選挙をにらんで、党利党略にふけっているようであれば、そうした政党は、国民から見捨てられるだろう。いまこそ、与野党が真摯に政策協議をして、農政を進めねばならない。農業者をはじめ多くの国民は、それを見守っている。
 この協議の中で今後の農政を、どの政党に託せばよいかを、国民は判断する。そのためには、この協議は国会の内外で濃密に行い、その経過と結果は、国民に向けて開かれた透明なものにしなければならない。
 そうした協議を、どの政党が熱心に、かつ早急に進めようとしているか。そして、どの政党が国民をないがしろにして、目先の党利党略にこだわっているか、国民は熱く注目している。

 与党は、多数派工作のために、密室で力を注ぐのではなく、与野党間での、国民に開かれた政策協議に力を傾けるべきだろう。
そして、協議の結果、法案に過半数の賛同が得られたからといって満足してはならない。半数を越えても、さらに多くの賛同が得られるように努力せねばならない。それが民主主義の殿堂としての国会の役割である。
 そうした努力を怠り、半数に満たない少数派の意見に耳を傾けないで、力の論理を振りかざすような与党であれば、国民からの反発によって、やがて政権から滑り落ちるだろう。
 ねじれになった今こそ、与野党のこうした努力が求められている。

 各政党の間で、農政の理念が違っているのは当然である。しかし、だからといって、現実をふまえた具体的な政策に、妥協の余地がないとはいえない。
 たとえば、こんどの選挙で躍進した、みんなの党は、「農業を聖域とせず」に自由貿易を推進する、といっている。しかし、だからといって日本の農業が衰退してもよい、といっている訳ではない。輸出する農業への転換を図り、日本の農業を発展させるという。
 だから、農産物の貿易自由化を推進すべきかどうか、という理念を政党間で協議しても、実りは少ないだろう。そうではなくて、多くの政党が農産物の輸出振興を唱えているのだから、そのために、政治が何をなすべきか、具体的な政策としての協議を、急いで始めるべきだろう。
 この協議の過程では、行政機関がもっている情報を、与党だけが独占するのではなく、野党とも共有し、国民に公開して、協議を深めることが大事だろう。そうすることで、劇場型政治の弊害を改めることもできる。
 こうした協議を拒否して、わが党の法案を丸呑みせよ、などと勝ち誇ったように居丈高にいう政党があれば、国民は唖然とするだけで、決して支持はえられないだろう。

 また、最大野党の自民党の農政の柱は、日本型直接支払制度の創設である。その理念は、農業の多面的機能の維持である。一方、民主党の農政の柱である戸別所得補償制度の理念は、食糧安保である。このように全く違う理念の間で論争をしても、短期間で結論は出ないだろう。そうではなくて、同じ直接支払型の制度だから、具体的な制度の修正のための協議は、実り多いものになるだろう。
 民主党は「全ての農家」を制度の対象にするといっている。このことが多くの国民の賛同を得て、3年前の参議院選挙で大勝した。それ以後、自民党も「選択と集中」という農政を修正し、民主党に近づけた。
 だから、制度による支援の対象は、ほとんど同じである。僅かに残っているのは、全ての農業者を直接支援するか、農業の多面的機能の発揮に貢献する農業者だけを支援するか、という名目上の違いだけである。
 もう1つの違いは、支払基準単価の算定方法についてである。民主党は生産費を基礎にして算定するので、農家所得の下落に対して「岩盤」になるとして、高い評価を得ている。一方、自民党は「多面的機能の発揮の度合い」を考慮して決める、というだけで具体的な算定方法を明らかにしていない。
 このように、支援の対象にしても、基準単価の算定方法にしても、両党間での協議の余地があるし、互いに妥協する余地がある。農政の柱になる制度だけに、早急に協議を始めてほしいものである。

 こうした協議が成功すれば、その結果、今までのように、ねじれが起きるたびに、また、政権が交替するたびに、猫の目のように変わる農政から脱出することができる。ねじれている今こそ、政治への信頼を回復する絶好の機会である。
 そうした与野党間協議の早期の開始は、農業者だけでなく、食糧安保を願い、環境問題を憂える多くの国民が期待している。

(前回 民主党惨敗の原因は農村の離反
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(2010.07.20)