政府は、ねじれ国会だから野党と丁寧に協議して、関連する法案を成立させたい、と言っている。また、農政は最も協議しやすい分野だ、とも言っている。だが、それほど甘くはない。野党がそれほど簡単に協議に乗ってくるだろうか。ここで、弱いといわれる政府の交渉力が試される。
野党は参議院選挙で勝利した勢いが続いている間に、早く衆議院を解散して、総選挙に持ち込みたい、ともくろんでいる。そう考えると、協議して法案を成立させるよりも、法案の欠点を徹底的に追及して成立させないほうが、早く選挙に持ち込める、と考えても不思議でない。
だが一方、そうした党利を重視すると、政治に空白が生まれる。困惑するのは、現場である。現場の反発は野党に向きかねない。
だから、野党は法案の欠点を追及するだけでなく、欠点を是正するための修正案を具体的に提案することで、国民の支持を得なければならない。
ここでのやりとりが、論争への入り口での最初の見どころである。
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具体的な論争に入ってからの第1の見どころは、米価下落への対策である。
多くの野党は、米価の下落を食い止めるため、政府に対して余剰米の買い入れを要求している。だが、政府は消極的だ。
消極的になる理由だが、政府は、米価が下がっても戸別所得補償制度に加入していれば、生産費が補償されるからいいだろう、と考えている。だから、戸別所得補償制度に加入せよ、という訳だ。
それゆえ、選挙公約で新しく作ったこの制度を維持するために、米価の下落を放置することはいいことだ、と考えている。
新しい農水大臣は、この制度を10年ほど維持したい、とも言っている。
それに対して、多くの野党は、この制度の廃止を要求している。与野党の激突は避けられないだろう。どこで現実的な妥協をするか。
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第2の見どころは、担い手問題である。
政府は選挙公約のなかで、戸別所得補償制度は、すべての、つまり、経営規模の大小を問わず、また、年齢を問わず、全ての農家を対象にする、といっている。そうして政権を奪った。
これに対して、多くの野党は、それでは後継者は育たないし、非効率な小規模農家を温存する、として反対している。選挙目あてのばらまきだと批判している。
この点でも激突は避けられない。
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この際、理念論争はいらない。与党は、選挙公約に固執しているし、野党は、この公約を破棄しなければ協議できないという。
だが、それでは協議が始まらない。農政は空白のままで、いたずらに時を過ごすばかりだ。現場の農業者は混乱するだけだ。
理念では妥協できなくても、現場の状況を熟視しながら、現実的に協議を進めれば、妥協点は見つかる筈だ。
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だが懸念されるのは、農村の現場で与党の支援組織が弱いことだ。だから、与党は現場の声を吸い上げる組織を、急いで作らねばなるまい。農協の一部を利用してもよい。
新しい農水大臣は、就任早々に全中と会ってもいい、と言った。消極的ではあるが、以前の2人の大臣が、とうとう会わなかったのに比べると、格段の違いだ。大いに期待したい。
最後にくり返すが、与野党が競いあう政策は、食糧自給率の向上を基準にして評価し、選択すべきである。農政の最重要課題は、食糧の安全保障なのである。
もち論、現場の農業者に犠牲を強いる政策では、実現できないことを銘記すべきである。
(前回 鹿野新農水大臣の低米価政策)
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