コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
米価対策が国会論争の見どころ

 国会が今週から始まる。いよいよ与野党の論争が表舞台で行われる。農政論争の見どころはどこか。さし迫っているのは、米価下落の問題だ。
 多くの野党は、米価の下落に危機感を持っていて、政府に対して余剰米を緊急かつ大量に買い入れることを要求している。
 しかし、政府は消極的だ。作柄を見てから決める、という悠長な姿勢だ。ねじれ国会での両者の論戦は、白熱を帯びるだろう。
 両者の政策の評価は、どちらが食糧安保、つまり食糧自給率の向上に対してより大きく貢献するか、貢献する道筋が具体的であり、かつ現実に即しているか、の1点で評価されるだろう。
 食糧安保が農政の最重要課題だからである。

 政府は、ねじれ国会だから野党と丁寧に協議して、関連する法案を成立させたい、と言っている。また、農政は最も協議しやすい分野だ、とも言っている。だが、それほど甘くはない。野党がそれほど簡単に協議に乗ってくるだろうか。ここで、弱いといわれる政府の交渉力が試される。
 野党は参議院選挙で勝利した勢いが続いている間に、早く衆議院を解散して、総選挙に持ち込みたい、ともくろんでいる。そう考えると、協議して法案を成立させるよりも、法案の欠点を徹底的に追及して成立させないほうが、早く選挙に持ち込める、と考えても不思議でない。
 だが一方、そうした党利を重視すると、政治に空白が生まれる。困惑するのは、現場である。現場の反発は野党に向きかねない。
 だから、野党は法案の欠点を追及するだけでなく、欠点を是正するための修正案を具体的に提案することで、国民の支持を得なければならない。
 ここでのやりとりが、論争への入り口での最初の見どころである。

 具体的な論争に入ってからの第1の見どころは、米価下落への対策である。
 多くの野党は、米価の下落を食い止めるため、政府に対して余剰米の買い入れを要求している。だが、政府は消極的だ。
 消極的になる理由だが、政府は、米価が下がっても戸別所得補償制度に加入していれば、生産費が補償されるからいいだろう、と考えている。だから、戸別所得補償制度に加入せよ、という訳だ。
 それゆえ、選挙公約で新しく作ったこの制度を維持するために、米価の下落を放置することはいいことだ、と考えている。
 新しい農水大臣は、この制度を10年ほど維持したい、とも言っている。
 それに対して、多くの野党は、この制度の廃止を要求している。与野党の激突は避けられないだろう。どこで現実的な妥協をするか。

 第2の見どころは、担い手問題である。
 政府は選挙公約のなかで、戸別所得補償制度は、すべての、つまり、経営規模の大小を問わず、また、年齢を問わず、全ての農家を対象にする、といっている。そうして政権を奪った。
 これに対して、多くの野党は、それでは後継者は育たないし、非効率な小規模農家を温存する、として反対している。選挙目あてのばらまきだと批判している。
 この点でも激突は避けられない。

 この際、理念論争はいらない。与党は、選挙公約に固執しているし、野党は、この公約を破棄しなければ協議できないという。
 だが、それでは協議が始まらない。農政は空白のままで、いたずらに時を過ごすばかりだ。現場の農業者は混乱するだけだ。
 理念では妥協できなくても、現場の状況を熟視しながら、現実的に協議を進めれば、妥協点は見つかる筈だ。

 だが懸念されるのは、農村の現場で与党の支援組織が弱いことだ。だから、与党は現場の声を吸い上げる組織を、急いで作らねばなるまい。農協の一部を利用してもよい。
 新しい農水大臣は、就任早々に全中と会ってもいい、と言った。消極的ではあるが、以前の2人の大臣が、とうとう会わなかったのに比べると、格段の違いだ。大いに期待したい。
 最後にくり返すが、与野党が競いあう政策は、食糧自給率の向上を基準にして評価し、選択すべきである。農政の最重要課題は、食糧の安全保障なのである。
 もち論、現場の農業者に犠牲を強いる政策では、実現できないことを銘記すべきである。

(前回 鹿野新農水大臣の低米価政策


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(2010.09.27)