TPPの影響について、内閣府はGDPが3兆円増えるといっているし、経産省は10兆円増えるといっているようだ。
一方、農水省は、農業総産出額が半分になり、食糧自給率が14%に下がると試算している。
また、交渉に当たる外相は、GDPの1.5%しかない第1次産業が、他の98.5%の産業を犠牲にしていると発言して、TPPへの参加を表明し、反発を買っている。
このように、政府の中でもTPPの評価はまちまちだ。
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こうした混乱の中で、政府はAPECの会合の前に、つまり来週中に、わが国の今後の自由貿易体制について、その基本方針を決める予定だという。
首相は、夏の参院選挙の直前に、議論が不十分なままで消費税発言をしたように、今度も来月13、4日のAPEC首脳会議で、唐突にTPPへの参加を宣言するかもしれない。
それは何としても止めねばならない。それは、明治維新、第2次大戦の終戦に続く第3の開国といわれる程に、ことに農政にとって重大な歴史的転換なのである。
しかも、ほとんど全ての野党が反対している中で、また、いつ政権が再編され、交替するかもしれない中で、こした農政の大転換を、検討が不十分のままで急いではならない。農村は混乱を極め、政治不信がますます募るからである。
政府は現実を熟視し、野党とともに、周到な検討を重ねてから決めるべきである。
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いま、なぜTPPなのか。
促進派は次のように考えている。自由貿易体制の強化は、経済成長戦略の主要な柱だ。たしかに、TPPに参加すると農産物価格は下がる。だが、下がっても、戸別所得補償制度で財政が生産費を補償するから、農業者が困窮することはない。だから、食糧自給率が下がることはない。自由貿易と農業振興は両立する、と考えている。
しかし、反対派は、そう考えない。つまり、財政で負担するといっても、膨大な金額になる。しかも、財政は大赤字だ。だから、やがて負担しきれなくなるだろう。
仮に負担できたとしても、米でいえば、農家の収入の大部分が、財政負担の補償金で占められることになる。いわば、国営農場になってしまう。その結果、農業者は市場をみて、つまり消費者をみて、消費者が好むような米作りをするのではなく、補助金をみて、つまり、政府をみて米作りをすることになる。
負担できなくなったときは、低米価だけが残る。財政で負担しきれないからといって、いったん下げた米価を元に戻すことは至難の業だろう。そうなれば、多くの農家は米作りを止めるしかない。食糧自給率は急速に下がる。それは、わが国の国家戦略に逆行する。
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では、どうするか。
海外諸国との経済交流は、今後も重要だし、いっそう強めねばならない。しかし、そのためには、各国が互いに食糧主権を認めあい、互いに多様な農業の共存を尊重しあわねばならない。
だが、日本外交の力量で、TPPをそうした協定に変えられるだろうか。ことに、アメリカやオーストラリアなど、農産物の輸出大国を交渉相手にして、協定の根本を変えるような重大な譲歩を得られるだろうか。多くの人は、ほとんど絶望的である。
だから、そうした見通しのないまま、性急なTPPへの参加に反対しているのである。
(前回 攻めの農政」の夢と現実と罪)
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