この協定に参加すれば、現実的にみても日本の輸出は大幅に増えるだろう。だから、日本経団連は賛成していて、積極的に推進すべし、といっている。また、内閣の首脳部も積極的で、経済成長戦略の柱にしようと考えている。
だが、ここには、大きな落とし穴がある。農産物の関税もゼロになるので、安い農産物が大量に輸入されることになる。それでは日本の農業は成り立たず、農村社会は崩壊し、食糧の安全保障は確保できない。だから、農協は反対しているし、ほとんど全ての野党も反対している。
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野党が反対しているだけではない。与党の中でも110人ほどの国会議員は慎重派だ。慎重派の中には小沢氏支持の人が多いという。
だが、この問題を菅対小沢として浅薄に捉えるのでは、問題の本質を見失うことになる。それでは、第3の開国といわれるほど歴史的に重大な問題に対して、的確に対処できない。その結果、国運を誤ることになる。
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菅氏をはじめ、推進派はTPPと農業振興は両立できるというが、そのための具体的で、かつ実現可能な政策を示さない。だから、それは観念の上だけの希望にすぎない。夢のまぼろしである。
それに対して、小沢氏などの慎重派は現実をよく見ている。しかし、慎重派ではあるが、反対派ではない。観念の次元では、むしろ自由貿易の推進派なのである。小沢氏は著書でも書いているように、筋金入りの自由貿易派である。
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コストを下げて、輸入農産物と競争して、勝てばいいではないか、と推進派はいう。だが、それは不可能なのだ。
20年前にも、同じ論争があった。その時は、全ての農産物について、関税だけを残して、関税以外の全ての輸入障壁を無くした。農産物の輸入自由化の、いわば準備段階だった。その時も、いまと同じように、輸入農産物と競争して勝て、という主張があった。
だが、その後の現実をみると、勝つどころか、食糧自給率は当時の50%から、いまや40%にまで下げてしまった。
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今度は、関税も無くして、完全に自由化してしまう、というのである。農産物の輸入自由化の準備段階を終えて、いよいよ最終段階へ入ろうというのである。
そうなれば、食糧自給率は、さらに下がって14%になるだろう。これは、筆者の予想ではなく、農水省の試算結果である。
このように、輸入農産物と競争して勝つ、という考えは過去20年間、まぼろしのままで、実現できなかった。
いまも、状況は変わっていない。だから100年後はともかく、今後、数十年間は実現不可能な夢のままで終わるだろう。
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最後に、一言いいたい。
かつて、日本が世界の市場で勝者だったとき、輸出のための関税は少なかったか。労賃は安かったか。農業を再起不能なまでに、犠牲にしてきたか。そうではない。
いま、経営者に言いたいことは、農業と食糧安保を犠牲にし、さらに過酷な打撃を加えて、輸出に頼るのではなく、また、関税などの輸出環境に不平をいうのでもなく、労賃が高いことに不満をいうことでもない。
そうではなくて、技術革新によって、安くて優れた物を創り出すことである。それは、かつて、先輩の経営者たちがやってきたことで、その結果、勝者になったのではなかったか。そして、農村を、それなりに豊かにしてきたではないか。
(前回 TPP参加は日本農業の壊滅への道)
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