いわゆる開国と農業を両立させるために、政府が考えている対策は2つある。1つは競争力の強化で、もう1つは財政負担の増額である。
はじめに、競争力の強化について考えよう。
ここで主要な問題は、米など穀物の競争力であって、果物や野菜の競争力ではない。果物や野菜は、いまでも競争力があるし、今後もいっそう振興しなければならない。しかし、それは、ここでの主要な問題ではない。
先日の農水省の試算によれば、輸入を自由化すると穀物の輸入量は激増し、穀物生産、ことに米生産は壊滅状態になる。そして食糧自給率は14%にまで下がる。これが、問題の焦点なのである。
このように、競争力を強化すべきは、農産物一般ではなく、穀物、ことに米なのである。
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米の競争力の強化は、15年前から主張され続けてきた。日本の米は旨いから輸入米と競争できるし、輸出もできる、という訳である。
これまでは、日本の米を輸入米からどうして守るか、ということばかり考えてきた。だが、これからは、積極的に海外へ打って出よう、攻めの農政だ。そういって、米の輸出を農政の柱にし、懸命な努力をしてきた。
だが、15年経った今の米輸出額は5億円程度にしかなっていない。米など穀物の輸入額は1兆684億円だから、それと比べると僅か0.05%に過ぎない。
このように、競争力を強化し、農業を振興して自由化に立ち向かうという、第1の輸入自由化対策は、こんども失敗に終わるだろう。日本の風土的、歴史的条件のもとで、成功する可能性はないのである。
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第2の自由化対策である農業振興予算の増額は、どうだろうか。
15年前の、関税化という名前の輸入自由化のときは、対策費として5年間で6兆円の財政支出をした。しかし、その結果、自由化に耐えられる農業振興はできなかった。それどころか、食糧自給率を40%にまで下げてしまった。
こんどは、去年作った戸別所得補償制度の予算を増額する、というのだろう。
まずはじめに指摘しておくことは、これは、15年前とは違って、一時的な財政負担ではなく、毎年負担し続けねばならぬ永続的な財政負担だ、ということである。
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つぎは、金額である。
農水省の資料をみると、国際価格は3420円(以下、すべて玄米1俵あたり)である。だから、自由化されれば、国内米価も同じ3420円になる。
一方、いわゆる生産コストは13703円である。だから、差額の10283円が補償単価になる。これに生産量の847万トン、つまり1億4117万俵を掛け算すると1.45兆円になる。このように、米だけで毎年1.45兆円の財政負担が必要になる。
それだけ負担しても、農業を振興するどころか、米生産の現状を維持できるだけである。食糧自給率を50%に向上する、という目標には遠く及ばない。
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これだけの財政負担を、財界はじめ、いわゆる世論は容認しないだろう。そうなれば、この対策も実行不可能になる。
また、仮に容認しても、農業者は、米の代金として3420円しか支払われず、政府から、その約3倍の1万283円を受け取ることになる。
こうした状態を、誇り高い農業者は容認しないだろう。つまり、第2の対策も実行不可能になる。
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以上のように、いわゆる開国と農業振興は両立できないのである。それゆえ、農業を振興するなら、いわゆる開国をやめねばならないし、開国するなら、農業は振興できるどころか、壊滅する。
だから、多くの国民は、各国の多様な農業の共存を認めないような、また、食糧主権を侵すような、いわゆる開国に反対なのである。
(前回 TPPは日本農業壊滅の最終場面)
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