問題は米である。
政府は、TPPと農業を両立させるため、として、戸別所得補償制度に、大規模化加算なるものを導入することにし、さっそく来年の予算案に盛り込んだ。
いくつかの問題がある。
問題の第1は、戸別所得補償制度の目的が、あいまいになることである。
この制度の当初の目的は、崇高な国家目的である食糧安保のための、食糧自給率の向上であった。
そして、これまで、この目的に貢献する全ての農家を、高齢者や兼業者など小規模農家と大規模農家を、分けへだてなく支援してきた。この政策を公約の柱にし、選挙で勝ち、政権を奪取した。
多くの野党からは、ばらまきだ、と批判されてきたが、ひるむことはなかった。
しかし、今後は大規模農家を特別に優遇する選別政策に変えるという。これは、選挙公約に対する、明らかに重大な違反である。それだけでなく、戸別所得補償制度の目的を不純にし、ばらまき批判に耐えられなくするだろう。
◇
第2の問題は、なぜ選別政策をとるか、という点である。
それは、戸別所得補償制度に規模加算を取り入れることで、小規模農家を冷遇し、大規模農家を優遇し、国際競争力を強化して、TPPなど輸入自由化に備えるのだという。
これまで、多くの野党は、戸別所得補償制度は輸入自由化を前提にしたものだと、くりかえし批判してきた。それに対して政府は、つい最近まで否定し続けてきた。
この前言を、突然ひるがえすのだろうか。
◇
第3の問題は、国際競争力についての認識である。
政府は、規模を拡大すれば、米に国際競争力がつき、輸入米と競争できる、という認識である。輸出もできる、という論者さえいる。
この認識は、古くからある机上の空論で、実態を見ない認識である。
大規模化して、効率化しようという考えは、140年前の明治維新で開国した時からあった。その後も、繰り返し主張され、失敗を重ねてきた。そして、いまになっても、遂に実現できなかった。
何故か。それは、ものごとを深く考えない素人好みの主張ではあったが、日本の風土と歴史を無視した空論だったからである。
◇
第4の問題は、莫大な財政赤字のなかで、いつまで戸別所得補償制度を続けられるか、という問題である。
自由化して米を切り捨てる、というのなら財源はいらない。しかし、これは論外である。戸別所得補償制度で自給率を向上させるというのだから、財政負担額は膨大な金額になる。
国民はそれを支持するだろうか。ことに、小規模な高齢農家や兼業農家を排除するのだから、多くの農業者の支持は得られないだろう。
◇
そして、最後になるが、第5の問題は、最も重大な問題で、排除した高齢農業者をどうするか、という問題である。
自己責任で生き延びよ、というのだろうが、それは棄民政策以外の何ものでもない。
もしも、小規模農家と大規模農家を分断して統治する、などという大昔の支配者の考えだとすれば、それとは、棄民政策とともに、きっぱり決別せねばならない。
◇
では、どうするか。もちろん小規模農家の非効率は改善しなければならない。そのためには、小規模農家を切り捨てるのではなく、小規模農家を大規模な集落営農などに組織することである。
そうして、至高な国家目的である食糧安保のための食糧自給率の向上に貢献してもらうことである。
政治は、そのための支援に、力を集中すべきである。
(前回 ゴパンが飛ぶように売れている)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)