批判すべき点は、いくつかある。
第1に、1.5%というのは、GDPの構成比である。つまり、市場価格に基づいた計算結果の比率である。
政府は従来から、農業には市場で計りきれない多面的な価値がある、ということをWTOなどの外交舞台で主張し、国民から支持されてきた。外相は、この主張を取り下げて、農業も市場で評価すればいい、それ以上の価値はない、と考えているのだろうか。もしも、そうだとすれば、そうした市場原理主義者が外相になっていることを嘆かずにはいられない。
一昨年、多くの国民は、市場原理主義からの決別という政策に希望を託し、民主党に政権を委ねたのである。この政策を捨てるのか。
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第2に、1.5%の中には、農業生産のために使う肥料や農薬など第2次産業の中の、いわゆる川上産業が含まれていない。農業が犠牲になれば、これらの川上産業も犠牲になる。
だから、川上産業の会社も、TPPはわが社の命運にかかわることとして、注視している。
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第3は、農業生産から最終消費に至るまでの、農産物加工業や輸送業など第2次産業と第3次産業の中の、いわゆる川下産業も1.5%の中に含まれていない。だが、こうした川下産業も犠牲になる。
だから、北海道では輸送業者もTPPに反対している。
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外相は、理科系内閣の一員だからといって、こうした経済の有機的な関連についての初歩的な認識がないほど、経済に疎くないと思いたい。認識した上で、それを無視して自分の主張を強引に通そうとするのだろう。
だが、国民はそれほど無知ではない。犠牲になるのは、農業など第1次産業だけでなく、第2次産業と第3次産業の中の川上、川下産業も犠牲になるのである。犠牲になるのは、こうした産業で働く全ての人たちである。
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第4に、1.5%はGDPの比率であって、主権者の比率でないことである。農家には1134万人の世帯員がいる。その他に、儲かれば農業を始めると思われる小規模な土地持ち非農家に478万人の世帯員がいる。合計すれば、全人口の12.6%である。 つまり、全国の主権者のうち農業だけでも、約13%の人に犠牲を強いることになる。
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第5に、TPPで影響を受けるのは、農業だけではないことである。
日本医師会は、TPPに参加すると日本の医療は危機にさらされる、と警告している。
また、多くの生協は、TPPに参加すると食品の安全性が損なわれるとして反対している。
さらに、TPPは労働者の国際的な移動の自由化を理念にしている。そうなれば、安い賃金の労働者が外国からやって来るだろう。それに引きずられて、日本人労働者の賃金は下がり、失業者が大量に増え、労働市場は激しい混乱に陥るだろう。その結果、賃金格差がさらに拡大する。
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最後に、こうした実害だけでないことを指摘したい。
TPPの影響を受けるのが1.5%だというのを、仮に正しいと仮定しよう。たとい1.5%だとしても、それらの人びとを犠牲にしていいのか。それが正義か。
少数派に激しい言葉を浴びせ、脅して屈服させようとする発言は、首相の先月の居丈高な反逆発言、つまり、与野党協議に参加しないなら歴史への反逆だ、という発言に通じている。そこには誤った認識に基づく身勝手な主張だけがあって、愛のひとかけらもない。
このような暴力的発言が、愛に基づく社会の連帯を破壊し、日本を潤いのない殺伐とした社会にしてしまった。
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それに対して、農協などの協同組合は、万人は1人のために、という合言葉を掲げ、1万分の1、つまり僅か0.01%という少数の人の犠牲も、決して見過ごさない。
外相発言は、こうした協同組合精神の対極にある。しかも僅か1.5%ではない。
(前回 TPPで国民皆保険も崩壊し、医療難民が続出する)
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