政府は、いま、農業は存続の危機の中にあって、TPPに参加しても、参加しなくても、今後、農業は存続できない。だから、この機会に農業を再生させる政策を考えるという。
TPP参加を前提にしていない、と政府はいうが、多くの国民は、TPPに参加するために、農業者を説得する会合だったと思っている。開国フォーラムという名前が、正直にそれを語っている。
韓国でいう、先対策後開放の農政を真似ようというのだろう。だが中味がない。
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この、いわゆる開国フォーラムは、ネット中継で仰々しく行われた。ポンチ絵の資料と、参考資料も公表された。
対策は、戸別所得補償制度の充実と、経営規模の拡大と、農産物輸出と、6次産業化の4つで、どれも、これまで言い古るされてきたもので、しかもお座なりなものだった。
1つ1つ見てみよう。
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規模拡大から考えよう。大規模農家を選別して、政策をそこに集中する政策である。
この政策は140年前の明治維新のときから、一部で主張されてきた古臭い選別政策で、一部には耳ざわりのいい政策である。だが、選別から外され、政治から見放される、大多数の小規模な農家から嫌われる。だから採用されなかった。
この政策は、農政が行き詰ると必ず顔を出す政策である。第2次大戦後も出てきた。秋田県の八郎潟は、大規模化の実験農村だったのである。だが、実験だけで終わった。
3度目を目指す、というのだろうが、今度も失敗するだろう。
ついでに言っておくが、政府は、いまの戸別所得補償制度を見直して選別政策を採用するようだ、と新聞は報じている。ばらまき批判にたじろいだのだろうが、そうすれば、せっかく政権を奪った民主党は、政治の基本姿勢を根本から覆すことになる。そうなれば、民主党政府も覆るかもしれない。
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農産物輸出だが、これも20年前からいわれてきた政策で、カラ元気のいい、いわゆる攻めの農政の元祖である。だが、いまだに成果を上げていない。
いわゆる開国に対する懸念は、食糧自給率が大幅に下がることである。だから、この懸念を払拭したいなら、そうした議論がほしかった。
だが、フォーラムでは、この政策で、食糧自給率がどれほど上がるのか、という議論がなかった。果物を輸出しても、自給率は向上しないが、この点をどう考えるのか。この政策の目的は、いったい何なのか。
米を輸出すれば、自給率は向上するが、その可能性がどれ程あるのか。その根拠は何か。筆者は自給率の向上にほとんど寄与しないと考えているが、そうした議論はなかった。
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6次産業化は、農産物を加工して、農業者自身が売れ、そうして収入を増やせ、というだけだった。農業者は、自己責任で、もっと知恵を出して努力せよ、という訳だ。
だが、そうした聞き飽きた説教を繰り返すのではなく、農政の主要な柱というのなら、農村に満ち溢れている日光を使った太陽光発電など、エネルギー関連の新産業を創出し、その電力は、コストに見合った価格で電力会社に買い取らせる、というような新鮮な政策の提案がほしかった。
そうした最先端の技術を農村に取入れ、農家の兼業者など、農村の人たちが食糧自給率の向上のためだけでなく、エネルギー自給率の向上のために、活き活きとして働く場を作る政策がほしかった。だが、そうした提案はなかった。
もっと智恵を出して努力すべきは政府ではないか。電力会社など、財界にも努力を求めるべきではないか。
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最後の戸別所得補償制度だが、ここの論点は、自由化によって、価格が下がるので、補償金は莫大な金額になるが、それをどう考えるかが焦点である。
1つは、莫大な財政負担に、財界が同意しないのではないか、したがって、財界からの影響を受けやすいマスコミと、マスコミが作った、いわゆる世論が同意しないのではないか、という重大な懸念がある。
もう1つは、かりに財界が財政負担に同意したと仮定しても、農家の収入の大部分が補助金になることを、農業者をはじめ多くの国民がどう考えるか。補助金の財源は、いうまでもなく税金である。
こうした議論が、全くなかった。その結果、フォーラムが全体として浅薄なものになってしまった。
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もう1つ、つけ加えたい。それは、労働組合の考えである。15年前のガット農業交渉のとき、労働組合は、関税化という名前の農産物の輸入自由化に賛成した。当時、労働組合は政府を支持していた。
いまも、労働組合は政府を支持している。だから、今度も政府がおし進めている開国を支持するようだ。TPPへの最大の懸念はここにある。
(前回 TPPで日本外交に不安)
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