コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
原発をめぐる国内的・国際的暗闘

 首相が、先週のG8サミットに出席した。この会議で原発問題が、アラブの民主化問題、いわゆる「アラブの春」と並んで主要な議題になった。
 原発問題では、会議の冒頭で首相の発言が許された。国際会議の晴れ舞台で、日本の首相が冒頭発言をしたのである。
 だが、それは桧舞台で大見得を切った、というのではなく、福島の原発事故が世界の晒し者になって、大恥をかいた、ということで、決して自慢できることではない。
 会議に参加したドイツは、福島の原発事故を教訓にして、原発からの脱却に政策転換した。この政策を国民から支持してもらい、政権を強化するために、福島の原発事故に注目を集めたかったのだろう。
 また、フランスはこれまで原発の安全性を重視していて、そのためコストが高くなって、国際入札で不利だった。それゆえ、福島の原発事故に注目を集め、安全性を軽視した安価な他国の原発ではなく、安全性を重視した自国の原発を売り込みたい、という思惑を持っているのだろう。
 ここには、原発に対する考えの根本的な対立がある。原発は100年先や200年先の遠い将来はともかく、当面の間、安全にすることが出来ない、という考えと、努力すれば安全にすることが出来る、という考えの対立がある。
 こうした考えの対立と、各国の間の利害関係をめぐる暗闘の中で、首相の冒頭発言が行われたのである。

 首相の冒頭発言の主な内容は、つぎの3点である。
 (1) 2020年代のはじめに、日本の発電量の20%を自然エネルギーで占めるようにする。
 (2) 太陽光発電のコストを2020年に3分の1、2030年に6分の1に下げる。
 (3) 1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置する。

 この発言内容は高く評価できる。明言してはいないが、原発から自然エネルギーへの政策転換が読み取れるからである。
 しかし、実現するまでには国内での激しい対立が予想される。それは、考えの違いに基づく対立だけでなく、利害関係の対立でもある。それを乗り越える強い意志と力量が首相にあるだろうか。
 当面の課題は、3月に閣議決定した再生可能エネルギー全量買い取り法案を成立させることである。首相に対する不信任決議案が提出されそうな、ねじれ国会の中で、この法案を成立させる自信があるのだろうか。

 この発言について、担当の経産相は、事前に聞いていない、と言った。そして数字の具体的な根拠を示してもいない。またしても、内部の充分な検討なしで突如発言したのである。実現の見込みがないままの発言としか思えない。
 こうした首相発言に対する不信は、与党内や国内からだけではない。国際的にも不信を抱かれている。

 この発言内容を実現するには、2つの問題がある。
1つは、実現するための財政負担を財界が反対するだろうし、やがて電力料金が上がり、製品コストが高くなり、国際競争力を弱める、として反対するだろう、という問題である。
もう1つは、農協や生協、労組などのNPOが財界の反対を撥ね退けるだけの力量を持っているかどうか。問題は、この2つ主要な問題にかかっている。
 その他に、原発を受け入れたことで、各種の補助金を得ている市町村が、原発を廃止することでその補助金が打ち切られることを我慢するかどうか、という問題もある。だが、これは、2つの主要な問題を比べれば、副次的な問題だろう。

 財界とNPOとの対立は、日本だけではない。ドイツでもフランスでも、国を挙げて原発に反対し、あるいは賛成しているわけではない。財界とNPOとの緊張関係の中で、いまは反対派が、あるいは賛成派が多数になっているに過ぎない。
 いまや、世界の歴史は財界とNPOが動かしている。農協は、こうした歴史を分けるような大きな役割を持っているのである。

 

(前回 森瀧 亮介さんの意見・・・「国民全体で農業・農村を支える社会の創造と日本の心の甦り」

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(2011.05.31)