コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
米価はマネーゲームで決まる

 コメの先物取引を農水相が認可したのに応えて、東穀(東京穀物商品取引所)は、さっそく9月から取引を始めるようだ。
 かつて米価は、米価闘争の中で、政治が生産費を補償するように決めたこともあった。その後、市場で決めるようになった。だが、市場といっても、これまでは生産者と実需者である卸売業者との間で、互いに顔を見ながら、現物を見ながらの取引だった。
 それが、これからはインターネットで、誰でも米価が安いと思えば買えるし、高いと思えばコメを持っていなくても売れるようになる。「カラガイ」や「カラウリ」である。
 そうなると、これまでの先物市場の経験が示すように、投機マネーがコメにも入ってきて、相場師が活躍するマネーゲームの場になり、米価は大量の投機マネーを持つ相場師が決めることになる。その結果、米価は乱高下するだろう。
 米価の乱高下は、コメの生産、流通を混乱させる。それだけではない。コメは農業の基幹部分だから、農業全体の混迷をもたらすだろう。
 いまでさえ、農業が縮小し、食糧自給率が極端に低くなっている状況の中で、コメを混乱させることは、日本の農業と食糧と、さらに、農村の雇用を破滅的な状態に追い込むだろう。

 東穀によるコメ先物の商品設計では、6万円だけ預ければ、100俵、つまり約140万円の取引ができる。それほど投機性の強いものである。
 だから、資金を2倍に増やすには、それほど日数はかからない。ここに目がくらむ人は少なくないだろう。だが、思惑が外れて、資金がゼロになるのにも、それほど日数はかからない。それだけではない。放置しておけば、借金が雪だるまのように増えていく。
 先物取引はこれほど投機的なのである。

 この取引はゼロサムゲームである。だから誰かがトクをすれば、ちょうどその分だけ誰かがソンをする。
 農業者がこのゲームに参加したばあい、勝負の相手は卸売業者などの実需者だけではない。多くは百戦練磨の仮需者、つまり、相場師である。しかも、行き場のない投機マネーを大量に持っている。だから、素人の農業者が出る幕ではない。
 それゆえ、農協は先物市場には参加しない、といっている。

 しかし、参加しないからといって、先物市場からの影響を絶つことはできない。
 東穀の商品設計によれば、毎月20日に決済を行うことになる。したがって、毎月20日には現物の米価と先物の米価は同じになる。もしも違っていれば、相場師は「サヤトリ」でひと儲けができる。「サヤトリ」は価格差がなくなるまで続き、ついに同じになる。
 現物の米価と先物の米価とで、どちらが主導して米価が同じになるだろうか。

 コメは毎日食べる主食だから馴染みは濃い。それゆえ、先物市場での取引量は、実需量の10倍を超えることも予想できる。取引が過熱すれば、もっと多くなるだろう。
 その結果、現物米価ではなく、先物米価が米価を主導するに違いない。現物の米価は、先物米価に引き付けられて乱高下するのである。
 ちなみに、トウモロコシの先物価格の乱高下の様相は前々回のこの欄で示した通りで、1か月の間に10%以上の幅で上がったり下がったりする。コメにあてはめれば、1か月の間に1400円以上の上下である。

 このように、先物市場に参加しないからといって、先物市場の価格の乱高下の影響を絶つことはできない。それどころか、現物の米価が先物米価と同じように乱高下して、コメの生産と流通が深刻な影響を受ける。これは放置できない。
 当面する深刻な影響は、あらゆる手段を講じて緩和しなければならない。それと同時に、これからの2年間の試験上場の後の本上場を阻止しなければならない。
 それは、かつて、農協の先人たちが米価闘争を激しく闘って守り抜いたコメを、後に続く人たちへ引き継ぐための、そして、国民の食糧を確保し続けるための、厳しい正義の闘いである。
 そして、それはまた、東日本の大災害からの復興を目指す熱き農業者への、何よりも力強い支援でもある。


(前回 コメを投機マネーの餌食にした農水相の歴史的暴挙

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(2011.07.11)