コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
牛肉暴落

 先週はじめ、東京市場で牛肉価格が暴落した。いよいよ来るべきものが来た。もちろん、放射能汚染の影響である。
 価格は、下の表で示したように、軒並み半値以下になった。被災地の岩手県などは、3分の1以下になった。被災地だけではない。西日本の価格も下がった。まさに風評被害である。その後、やや持ち直したものの、それは被災地からの出荷量が少なくなったからである。
 さらに、週末になると、こんどは福島だけでなく、岩手や宮城や栃木や秋田でも汚染牛が見つかった。
 政府の対策は、全頭検査と買取りである。だが、その具体的な内容は示していない。どの範囲の牛を全頭検査するのか、また買い取るのか、決めていない。さらに、牛肉全体の消費減退による価格下落、つまり風評被害への対策も決めていない。全てが後手々々になっている。
 今後に予想されるのは、山に降り積もった放射性物質が河川水や地下水といっしょに流れ下ることである。その汚染水は、牛の飲み水になって、内部被爆の原因になる。だが、政府はこのことは全く念頭にないようだ。そして、またしても、どろなわ的な対応を考えるのだろうか。

7月19日の牛肉価格の対前日比 いままで政府は、市場に出回っている食品は安全だ、といってきた。だが、放射能で汚染された牛肉が、実際に市場に出回っていた。政府への信頼は地に堕ちた。
 いわゆる専門家は、基準値を超えた放射能を帯びた食品を食べても安全だ、と今でもいっている。まるで原発の安全性を主張しているようで、専門家への不信もつのるばかりだ。
 いったい何を信頼すればいいのか。いっそのこと牛肉は食べないほうがいい、と考える人も多くなっている。風評被害の根源はここにある。

 政府も、いわゆる専門家も、牛肉が汚染されたのは、牛が汚染された稲藁を食べたからだ、という。まさか、牛が「自己責任」で勝手に汚染された稲藁を食べた、と考えているのではあるまい。誰が稲藁を汚染したのか。その責任については、何もいわない。
 いうまでもなく、東電が放射性物質を撒き散らしたのである。政府がそうした危険を東電に許したのである。そして、今でも撒き散らし続けている。
 このことに目をつむり、どのようにして汚染された稲藁を牛が食べないようにするか、汚染された牛肉を人が食べないようにするか、という点にだけ注意を向けようとしている。だから国民の不信はつのるばかりだ。

 政府の当面の対策は、全頭検査と買取りである。だが、その具体的な内容は決めていない。またしても、実行力のない死に体の内閣が、いつ終わるとも知れない議論を延々と続けるのだろうか。
 こうした中で、牛は餌を食べつづけ、水を飲みつづけている。そして、農家は生活をしつづけている。もしも、国産牛肉よりも、輸入牛肉の方が安全と考えるようになったら、どうなるのだろうか。いま、日本の牛肉生産は重大な危機の中にある。
 政府は、一刻も早く具体的な対策を決め、直ちに実行しなければならない。


(前回 全頭検査で牛肉の安全をはかれ

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(2011.07.25)