上の図は、東京市場での7月の牛の取引頭数と価格である。頭数は月末には月初と比べて半分に減ってしまった。そうして、かろうじて価格の大暴落を回避している。それ程に消費者の牛肉ばなれが進んでいる。
まさに風評被害である。単純にいえば、消費者は、このひと月の間に牛肉の購入金額を半分に減らしてしまったのである。
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飲食店の店頭には、当店は輸入牛肉を使っています、という張り紙を出している店もある。あからさまに言えば、当店では、放射能で汚染されたおそれのある国産牛肉は使っていません、だから安心です、と言いたのだろう。
このように、汚染地だけでなく、国産牛肉の全体が風評被害を受けている。いうまでもなく、原因は原発である。原発は、国益に反して、牛肉の輸出国に利益を与えている。
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こうした中で、出荷制限を不用意に解除すれば、価格が大暴落することは火を見るよりも明らかである。では、どうすればいいか。
それには、何よりも汚染源である放射能のばら撒きを止めることである。事故を起こしてから、5か月も経とうとしているのに、まだ放射能を出し続けている。これを止めることが根本的な対策である。
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次に、しっかりとした全頭検査を行うことである。検査のための機械が少ないとか、検査する人が不足しているとか、全頭検査ができない理由を探すのではなく、全頭検査のために全力を傾けねばならない。そうして市場に出回っている牛肉には放射能がないことを確実にし、消費者に安心して買ってもらうことである。
政府は、農家1戸について1頭の牛を検査するようだが、それでは全く不十分である。市場に出荷する全ての牛を対象にした全頭検査をしなければならない。
そうして、一刻も早く、消費者の信頼を回復しなければならない。
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消費者の信頼を得るまでは、出荷を制限せざるをえない。そうしなければ価格が大暴落するからである。しかし、いつまでも出荷制限を続けるわけにはいかない。いつ解除するのだろうか。それは、消費者の信頼が回復するまで、つまり、風評被害がなくなるまでだろう。
だが、しかし、消費者の信頼が回復しても、それまで農家に滞留していた牛を、一挙に出荷すれば大暴落する。
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それゆえ、出荷を制限するだけでは、不十分である。価格の大暴落を先に延ばすだけの、その場しのぎの対策になってしまう。
それを避けるには、出荷制限だけでなく、農家に滞留する牛をどのように処分するのか、その対策を講じなければならない。
それには、こうした事態を招く原因を作った東電と政府に、滞留する全ての牛を買い取らせるしかない。そして、全ての牛を検査し、汚染されていなければ、長期に保存できるように加工するなどして、生肉市場から隔離すべきである。汚染されていれば、殺処分せざるを得ない。そして、人里はなれた所を東電と政府が探して、そこへ捨てるしかない。
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出荷制限を続け、風評被害がなくなるまでには、長い期間を要するだろう。買取り金額と風評被害を補償する金額は少なくはない。だが、これを惜しむなら、日本の牛肉生産は崩壊する。
第2次大戦後、先人たちの努力によって、それまで日本人の食生活に不足していた動物性蛋白質を潤沢に供給し、日本を世界に誇る長寿国にした。そのために大きく貢献した牛肉生産が、いま、原発によって、壊滅の危機に直面しているのである。
(前回 牛肉暴落)
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