農業者が、先物市場で売れば、農協に委託して売るよりも高く売れるから、といって先物市場で売ったらどうなるか。たとえば、11月20日に決済が行われる11月限(ギリ)の先物を100俵カラ売りしたとしよう。6万円の証拠金を預ければ誰でも売れる。期限の日の11月20日に100俵もっていけば、160万円の代金を受け取れる。農協から130万円受け取るよりいい。
これは、万事うまくいった場合の話である。先物市場の推進派は、こうしたうまい話しかしない。
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しかし、そうならない場合がある。もしも期限になる前に、先物米価が1000円上がって1万7000円になったらどうなるか。そうなると、計算上の損失になり、市場から証拠金の追加分として10万円を要求される。1000俵だったら100万円を要求される。その後、さらに1000円上がって1万8000円になったら、また10万円を要求される。1000俵なら100万円を要求される。その後、さらに・・・・・・。これは、まさに「追い証地獄」だ。この要求に応じられない人は、売買契約を破棄され、借金だけが残る。
借金を払い終えて、反省しているころになると、先物市場は何ごともなかったかのように、1万6000円に戻るだろう。儲けた相場師たちは、陰でほくそ笑んでいるだろう。
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農水省は、そうならないように「しっかりと注視」する、といっているが、それには、1万7000円や1万8000円や・・・・・・にならないように注視するしかない。
だが、先物市場で1万8000円どころか、1万9000円になることは、充分にあり得る。実際に、取引初日の8日には、大阪市場で1万9210円の価格がついた。
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投機マネーを大量に持っていれば、証拠金の追加分を払って持ちこたえられる。だが、持っていなければ、地獄に落ちるしかない。相場師は大量のマネーを持って、米価が乱高下するのを待っている。そうして、地獄に落ちる人を待っている。
相場師は、こうして利益を得ている。だから、米価の乱高下を歓迎する。彼らは、買占めなどの手段で、乱高下を作り出すことさえする。
その影響は、先物市場だけに止まらない。先物価格の乱高下は、稲作経営にとって安定した価格指標にはなり得ない。それどころか、深刻な混乱をもたらすだろう。
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もしも、仮に乱高下しないで、いまの先物市場の1万6000円が期限の日まで続いた、と仮定したらどうなるか。期限の日に、この米価で実際にコメを買い取った人が、この価格で消費者に売りさばけるだろうか。いや、売れないだろう。消費者は農協から1万3000円で買うほうが安いからである。
そうなった場合、売れ残った大量のコメをどのように保管するのだろうか。農協の倉庫は借りられないだろう。農協は先物市場に反対なのである。
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逆に、先物市場で米価が乱高下しないで、徐々に下がって、1万3000円以下になったらどうなるか。農業者は先物市場で売るよりも、農協に委託して売るほうが高く売れる。だから、先物市場に売る農業者はいなくなる。そして、先物市場は相場師だけが踊る世界になる。
この踊りは、決済する期限の前日まで続く。目先だけしか見えない消費者や大型小売店は、安い米価を歓迎するかも知れない。
だが、決済する期限の日には大混乱になる。その安い米価で売る農業者や農協がなければ、供給不足になって決済が出来なくなるからである。契約不履行は、どんな市場でも、あってはならぬことである。
このようになっても、農水省は、「生産流通に対して、著しい支障」がない、というつもりだろうか。
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以上のように、コメの先物市場は百害あって一利ない。いまは、2年間の試験期間だが、早急に中止するしかない。2年後の本格的な実施は、断固として阻止すべきである。
いま農協は、コメの流通量の半分を占めている。だから、その力量は充分に持っている。そのためには、先物市場に惑わされ、騙されるのではなく、農協の規準米価を堅持することである。
それは、先人たちが築き上げ、残してくれた、農協運動の貴重な宝ともいうべき共販運動の原点である。
(前回 コメの先物市場に投機マネーが殺到した)
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